一般のみなさまへ for citizen

四国支部第23回市民公開講座

こわくないぞ!?大腸がん

前田剛(KKR高松病院)


【はじめに】

これから,大腸がんのお話をしようと思います.タイトルは「こわくないぞ!?大腸がん」としました.“がん”がこわくない!とは本当なのか?と感じられる方もおられると思います.不謹慎なタイトルだとお怒りの方もおられるかもしれません.この後のお話をお読みいただき,ご意見やご感想をいただければ幸いです.

【大腸がんの疫学】

わが国において癌死亡は年々増加し,1981年以来,死亡原因の第1位を占め,さらに増加傾向にあります.大腸がんも罹患,死亡ともに年々増加し死亡は肺癌,胃癌に次いで第3位を占めます.図1に人口10万人当たりの年齢調整死亡率の推移を示します.1960年から1999年までの40年間で,大腸がん全体では約2倍に増加しています.その増加は主に結腸がんの増加によると考えられています.

【大腸のしくみ】

大腸は盲腸,上行結腸,下行結腸,S状結腸,直腸,肛門管の7つの領域に分けられます(図2).その壁構造を図3に示します.内腔は粘膜で覆われ,その下の粘膜下層,平滑筋からなる筋層,外側を覆っている漿膜下層,漿膜からなっています.

【大腸がんの病理】

大腸がんは粘膜から発生します.多くは腺腫の一部に癌が発生し増大していきます.大腸粘膜から腺腫を経て癌化する過程は,adenoma-carcinoma sequenceと呼ばれています.一方,粘膜から腺腫を経由せずに直接癌が発生する場合もあります.これはde novo発癌と呼ばれています(図4).癌は増殖を続け,粘膜下層,さらに筋層へと広がっていきます.粘膜下層までにとどまるものが早期癌,筋層以深までひろがったものが進行癌です.大腸がんの約96%は腺癌で分化度の高い癌(比較的おとなしい性質の癌)が多いという特徴があります.大腸がんのできる部位はS状結腸,直腸の順に多く約7割をしめます.肛門より近い場所に多く発生しています.

【大腸がんの症状】

大腸がんの症状は,癌がある部位やその進行度によって異なります.また,早期癌では一般的には自覚症状はありません.主な症状を以下に示します.(1)癌からの出血による症状;黒色・紅色便,下血,便表面の血液付着,便潜血陽性(2)癌による大腸の狭窄による症状;腹痛,便秘,交代性下痢(3)癌の増大による症状;腸閉塞症状(腹部膨満感,嘔気・嘔吐など),腹部腫瘤の触知(4)貧血,栄養障害による症状;全身倦怠感,体重減少

【大腸がんの予後】

大腸がんは予後のよい癌なのでしょうか,それとも悪い癌なのでしょうか?表1に日本大腸癌研究会が2001年に発表した結腸癌,直腸癌の5年生存率を示します.臨床病期(Stage)とは,癌の進行や広がりの程度をあらわすものです.癌の進行していないStage I,IIの5年生存率は80%以上であり,他の臓器の癌と比べると良い予後です.しかし癌の進行したStage IVでは,15.9%であり他臓器と比べてもよいとは言えません.病理のところでお話しましたように大腸がんの多くは性格のおとなしい癌です.手術(内視鏡的切除を含む)によって完全に取りきることのできる早期に発見され,手術を行うことができれば,予後の比較的よい癌と言えます.早期発見の重要性をご理解いただけたと思います.検診の話に移ります.

【大腸がん検診】

まず,わが国のがん対策の歩みについて述べます.昭和57年(1982年)に老人保健法が成立.翌昭和58年(1983年)には,老人保健事業第1次5ヵ年計画がつくられ,胃癌と子宮頸癌の検診が始まりました.昭和62年(1987年)には,老人保健事業第2次5ヵ年計画で子宮体癌,乳癌,肺癌の検診が追加されました.大腸がん検診は,平成4年(1992年)の老人保健事業第3次8ヵ年計画において追加されました.大腸がん検診の実際を説明します.40歳以上の男女全員が対象者です.1次検診では問診と免疫学的便潜血反応が行われます.精密検査として,(1)全大腸内視鏡検査(Total colonoscopy)(2)S状結腸内視鏡検査(Sigmoidoscopy)と注腸X線検査(二重造影法)(3)経過措置としての注腸X線検査(二重造影法)以上のいずれかが行われます.大腸がん検診の成績はどうでしょうか?便潜血反応陽性(要精検率)はおよそ5~10%,癌発見率は0.10~0.15%です.大腸がん検診を1万人の人が受けたときに,500~1000人の人が便潜血陽性と診断され,そのうち10~15人の人が大腸癌と診断されるくらいの割合です.がん検診の有効性は厚生省「がん検診の有効性に関する研究」班(1998年)により検討され,評価されています.この報告によりますと,便潜血検査による大腸がん検診を勧奨する十分な証拠があるとされています.死亡率の減少効果は約60%と報告されています.

【大腸がんを診断するための検査】

便潜血検査,直腸指診,肛門鏡,注腸X線検査,大腸内視鏡検査があります.
1)便潜血検査:大腸がん検診では,免疫学的便潜血検査が行われています.その測定原理の基本は,ヒトヘモグロビン(ヒトHb)特異抗体を用いて抗原抗体反応により糞便中の血液の混入を判定します.微量のHbも検出可能であり,ヒト以外の動物由来のHbには反応しませんので,特別な食事制限は必要ありません.検査の前に魚や肉を食べても検査結果には影響ありません.検出感度は40~200μg/g糞便と高感度ですが,一般的には大腸より口側の消化管からの出血は,胃液その他の消化酵素などでHbが変性し抗原性が消失するため,陰性(検出されない)となります.大腸がんの集団検診(2~3日法)の成績では進行癌の約90%,早期癌の約50%が検出可能といわれています.便潜血検査の注意点です.(1)採便法;採便棒を使い,便表面をこすり取るようにして下さい.(2)生理的なHbの混入があるため,便を取りすぎると疑陽性になります(便を取り過ぎないように).(3)便を室温に長時間放置すると腸内細菌によりHbが変性し偽陰性となることがあります.採便後すぐに測定できない時には,一旦冷暗所(4℃)に保存しましょう.
2)注腸X線検査:検査に先だって下剤を用いて前処置を行います.この前処置により糞便と病変の鑑別が容易になります.次に,バリウム溶液を造影剤として用い,空気を注入し,体位変換しながらバリウムを大腸粘膜に流していくことによって,X線透視下にバリウムと空気のコントラストで粘膜病変を描出していく検査です.大腸がんの診断については,腫瘍の位置,深達度,他臓器への浸潤の可能性などを予測できます.
3)大腸内視鏡検査:胃内視鏡と同じように,体内に内視鏡を挿入し直接病巣の有無を確認する検査です.ただし胃の検査と異なるのは,当日朝食抜きのみでは検査ができないことです.約1日分,便秘の人では2~3日分の便が腸内に貯まっているので,それを洗い流した後でないと検査できません.通常,検査の前日に下剤を服用し,当日の朝から検査施設で腸管洗浄液を1,500~2,000ml飲用します.その後数回の排便があり便塊が確認できなくなったら検査可能です.自宅で飲用という施設もあります.肛門から約1.2~1.3cm径の内視鏡を挿入します.むだな屈曲がなければ約70~80cmで大腸全体が観察できます.そのときはお腹の痛みはほとんどありません.しかし屈曲してしまうと主に下腹部に突っ張った痛みを感じます.あらかじめ鎮静剤や鎮痛剤を使用して検査する施設と使用しない施設があります.検査後の安静を要すること,呼吸抑制の心配があること,リカバリールームがあるかなど各施設の事情により異なります.大腸がん,ポリープ,大腸炎,憩室などの病変が直接テレビモニターに映し出されます.必要時には生検といって一部を採取し組織検査することができます.さらにポリープやごく小さな大腸がんは,内視鏡下に切除し治療することが可能です.

【大腸ポリープ】

大腸がんと関係の深い大腸ポリープについて触れます.ポリープとは,腸壁から発生して管腔内に突出する組織のことです.その形状は無径性から有茎性まであり,大きさもさまざまです.組織学的には腫瘍性の腺腫,非腫瘍性の過形成ポリープ,過誤腫,炎症性ポリープなどに分類されます.このうち,癌化の危険性があるものとしては,腺腫が重要です.腺腫内に癌を合併する頻度と大きさの関係を図5に示します.腺腫の直径が5mmを越えると5%強に認められ,2cm以上では50%以上と高率になります.では大腸ポリープを内視鏡的に切除すると大腸がんは減るのでしょうか?厚生省班会議(斉藤班;平成7年度研究報告)の多施設共同研究によりますと,切除群では5年後の大腸がん罹患率は0.7%,10年後で2.2%であったのに対し,非切除群では5年後の大腸がん罹患率は1.0%,10年後で5.2%でした.切除群で大腸がん罹患率は有意に低く,ポリープの内視鏡的切除により大腸がんが減ることが,証明されました.

【大腸ポリープ大腸がんの内視鏡的治療】

大腸内視鏡検査のところで触れましたが,大腸ポリープや一部の大腸がんは内視鏡下に切除し治療することが可能です.内視鏡的治療の対象となる大腸がんはリンパ節転移のない大腸がんに限られます.実際には病変が内視鏡的に切除された後に,病理検査が行われます.「大腸がん取扱い規約」(第6版)では,以下のように追加腸切除の必要のない条件(内視鏡的治療で治癒と判断される条件)が規定されています.(1)粘膜癌,もしくは粘膜下層癌のうち,粘膜下浸潤が300μm程度までのもの(2)明らかな脈管内癌浸潤のないもの(3)組織型が低分化腺癌あるいは未分化癌以外のもの(4)切除断端近傍までのmassiveな癌浸潤のないもの.(1)の粘膜下浸潤については,大腸癌研究会「sm癌取り扱いプロジェクト研究班」により1000μm未満のものまでと拡大された基準が提案されています.
内視鏡的治療の代表的な方法を示します.ポリペクトミー(図6);鉗子口より挿入したスネアと呼ばれるループ状のワイヤーを腫瘍にかけ,高周波電流を通電して腫瘍を摘除する方法で,通常は有茎性,亜有茎性の腫瘍に対して行われます.内視鏡的粘膜切除(EMR)(図7);表面型の腫瘍に対し,腫瘍の下面に生理食塩水などを注入し病変を膨隆させた後,スネアを用いて摘除する方法です.

【症例提示】

当院で経験した症例を提示させていただきます.症例1(内視鏡写真1):長径15mmの病変です.潰瘍がありその周囲は隆起し周堤を形成しています.小さい病変ですが深達度が筋層にまで及ぶ進行大腸がんです.大腸内視鏡検査が発見と診断に有用でした.症例2(内視鏡写真2):長径20mmを越えるポリープがあります.茎のある病変でスネアにて容易に切除する(ポリペクトミー)ことができました.病理診断は腺腫でした.症例3(内視鏡写真3):長径10mmの浅い陥凹性病変を認めます.青いのは散布された色素で病変の性状が明瞭になります.生理食塩水を注入して病変を持ち上げ,切除(EMR)しました.深達度が粘膜内にとどまる早期大腸がんであり,内視鏡的治療で治癒しました.

【大腸がんになりやすい要因】

最近では遺伝性癌の解明が進み,原因遺伝子が同定されています.大腸がんにおいても発癌しやすい遺伝的要因が明らかになってきました.(1)家族性大腸ポリポーシス症(FAP);大腸にポリープの一種である腺腫が多数生じる遺伝性の疾患で,多くの場合,100個以上のポリープが発生します.ポリープから癌を発症し,60歳までにFAP患者の90%が大腸がんに罹患します.10,000~20,000人に1人の割合で発生し,原因遺伝子はAPC遺伝子であることが解明されています.(2)遺伝性非ポリポーシス性大腸がん(HNPCC);DNA修復に関する遺伝子(ミスマッチ修復遺伝子)の異常が,関与していることが明らかにされました.一般の大腸がんより若年に発生する傾向や多発する傾向にあります.日本の診断基準を表2に示します.遺伝と関連した大腸がんがあるのは事実ですが,全大腸がんに占める割合はほんの数%です.次に,日常生活のなかに存在する大腸がんになりやすい要因について触れます.
大腸がんと食生活は関係が深いと考えられています.疫学の項で述べましたが,大腸がんはわが国でも最近増加傾向にあります.その原因は食生活の欧米化が原因だろうと推定されています.表3に大腸がんと食物・栄養素との関連を示します.大腸がんを予防するには,動物性脂肪の摂取量を減らし,野菜をたくさんとるように心がけることが重要です.

【おわりに】

大腸がんは“がん”です.もちろん怖い,恐ろしい病気です.しかし“がん”のなかでは,検診(免疫学的便潜血検査)をきっかけに早期発見されやすい“がん”です.またある程度進行していても,手術で治癒が期待されます.みなさん,どうか検診を受けてください.検診で精密検査必要と指示された場合には,こわがらずに大腸内視鏡検査を受けてください.

みなさんの“大腸がん”に対する理解の一助になれば幸いです.私の話に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました.

図  表 

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図1

図2

図3

図4

表1

図5

図6

図7

内視鏡写真1

内視鏡写真2

内視鏡写真3

表2

表3