一般のみなさまへ for citizen

北陸支部第31回市民公開講座

最近ふえてきた胸焼け

根井仁一(公立南砺中央病院)


最近,「胸焼けがする」「胸や喉(のど)に物がつかえる」「みぞおちから胸が痛い」「原因不明の咳がでる」などの自覚症状はないでしょうか.

病院の外来では,このように訴えられる方が明らかに増加してきています.

この病気は「逆流性食道炎」という病名で昔からあった病気であります.胃酸が食道へ逆流して食道の粘膜の損傷,胃酸が肺へ入り込み肺の障害,喉の障害,さらに胃酸が口腔内から耳まで入り込み耳の障害を起こす病気であります(図1).症状として胸焼け,喉のつまり感,胸痛(非心臓性胸痛・胸骨裏面痛)の他に,げっぷ・腹部膨満感などの胃腸症状,口の中の苦い感じ,原因不明の咳,耳の痛みなどであります(図2).

ではなぜこのように「逆流性食道炎」が増えたのでしょうか.この病気は生活習慣すなわち食生活の変化から起きた立派な「生活習慣病」であります.「生活習慣病」(図3)は平成8年に提案されたもので食生活,運動習慣等がある種の病気の発症,進行に関与するとし,さらには近年では生活習慣の見直しで疾病を予防する具体的な計画案まで作成されています.

では「逆流性食道炎」はいかなる生活習慣の変化に起因しているのでしょうか.その原因は日本人の脂肪の摂取量の変化にあるとされています.本邦では食事摂取量の内,脂肪分は戦後の10%から30%近くにまで増加しています(図4).図5に逆流性食道炎の発生要因を示します.(1)に胃内で脂肪を消化するために多量の胃酸が必要であり胃内に胃酸が多くなります.(2)に脂肪分は胃内での消化に時間がかかり胃からの食物の排出が遅れ,胃が拡張し胃の内容物が(3)の理由で食道へ流れ込み易くなります.また(3)に脂肪分は食道と胃の間の関門LES(食道下部括約筋)の緊張を緩め食道への胃酸の逆流を容易とします.

以上をまとめますと脂肪分の多い食事は胃酸の分泌が多くなり,酸の多い食事が胃内に長時間と止まり,LESの弛緩で胃酸が食道内へ流れ込みやすくなります.さらに近年の研究で過進展した胃ではTLESR(一過性下部食道括約筋の弛緩)と言う現象が見られ,胃から食道への一過性の胃酸の逆流機序の存在が明らかとなり,逆流性食道炎の発症の大きな要因であることが判明し注目を浴びています.

「逆流性食道炎」の診断は一般には内視鏡(胃カメラ)が使われます.ただ胸焼け,喉頭違和感,胸痛などの自覚症状があり図6(一部に食道の潰瘍を見る),図7(食道に発赤した食道ビラン)などの食道の潰瘍やビランを見る人の診断は容易であります.しかし自覚症状は逆流性食道炎でありながら内視鏡では正常所見を示す人の存在が明らかとなり現在はGERD(胃・食道逆流病)として総称されています.その関係を示したのが図8でGERD(胃・食道逆流病)は自覚症状がある人を含めており,最近ではGERDを「逆流性食道炎」として広い意味で使用する傾向にあります.本稿でもGERDを「逆流性食道炎」と同義語として扱っています.図9は私の食道内視鏡ですが内視鏡所見は正常ですが胸焼け,胸骨裏面痛の典型的症状を長年に渡って覚えています.

近年では食道内の酸度(pH)を測定して内視鏡所見の示さない逆流性食道炎の診断を行っています.図10に自験例の1例を示します.正常者ではpHが4以下の時間は5%以内であります.

この病気の治療法は基本的には食事療法であります.第1は胃酸の分泌を促進する食べ物を食べないこと(図11),第2に食習慣の改善であります(図11).たとえば早食い,大食いは胃の過進展を招き胃酸の分泌が多くなります.またタバコ,アルコールも胃液分泌を促進します.第3は生活習慣で注意することであります(図11).胃からの食物の排出を妨げる生活習慣をやめることであります.ほとんどの人はこれらの生活習慣の改善で症状を改善することが出来ますが先天的に胃・食道逆流がある人,食道括約筋機能の障害されている人には薬物療法が必要であります.

最近は強力な胃酸分泌抑制剤が開発され広く使用されています.PPI(プロトンポンプインヒビター)はもっとも強い胃酸分泌抑制剤で,逆流性食道炎の症状を速やかに改善します.ただ人により強い下痢の副作用を有します.次に使用されるのはガスタで代表されるH2ブロッカーであります.この薬剤も下痢,人により便秘の副作用があります.市販の胃腸薬は胃酸を押さえる力はありません.ただ服用したことの清涼感で効果を示すようであります.次の薬物治療法は胃内の食物の排出を促す薬の投薬であります.また,補助的ではありますが食道粘膜を保護する薬剤が使用されます.胃・食道逆流防止機能が完全に破壊されている場合には手術療法も行われています.

この病気は心臓病,肺疾患,耳鼻科疾患と間違われ不愉快な症状が長期に渡り続きます.悩まず,医師にご相談ください.早期診断,早期治療で症状の改善が速やかに見られる良性疾患であります.

胸痛,咳,喉のつかえ感を覚えたら心臓専門医,呼吸器専門医および耳鼻科を受診した後,消化器専門医を受診してください.

以上,近年,増加している「逆流性食道炎」についての概略を述べました.
質問のある方はE-mail:nei@p1.coralnet.or.jpにお願いいたします.

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11