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中国支部第36回市民公開講座

あなたの肝臓は?慢性肝炎と肝硬変

岩崎良章(岡山大学大学院消化器・肝臓・感染症内科)


重い肝臓病の原因とその実態

肝臓の病気には色々ありますが,最も問題となるのは肝硬変や肝癌に進行する病気です.これら進行した肝臓病を起こす主な原因は,わが国ではB型とC型のウイルス肝炎であり,肝硬変・肝癌の原因の9割以上を占めています(図1). これらのウイルス感染の頻度は,北海道・東北を除けばわが国では東日本より西日本により多い傾向にあり,肝癌におる死亡率も同様の傾向にあります(図2).しかも肝癌による死亡数は昭和50年(1975年)頃より急速に増え,最近では年間約3万5千人に及んでおり(図3),がんの部位別にみても肺がんや胃がんについで肝癌は3番目に多くなっています.

C型肝炎
肝炎の進行と肝癌の発生

C型肝炎は肝硬変や肝癌の原因の7~8割を占めており,わが国の肝臓病の主な原因と言えます.C型肝炎にかかると多くは症状の無いまま慢性肝炎を経て,20年から30年で肝硬変や肝癌を発症します(図4).肝炎により肝臓の細胞(肝細胞)が壊れると,その再生とともに線維(主としてコラーゲン)の沈着が起こります.慢性肝炎から肝硬変への進行は,肝臓の線維の程度により4段階にわけて表され,初期の1段階から,進行した3段階,さらに4段階の肝硬変へと進行していきます.この1段階進行するのに平均でおよそ8~10年かかるとされています.
この線維が増加していく(線維化)状態は,厳密には肝臓の細胞を採取する検査で判定しますが,血液検査の1つである血小板の数で大まかに判断することが可能です.すなわち,図5のように線維化が進むとともに血小板は少なくなり,肝硬変では血液1mm3(1立方ミリメートル)当り10万以下となります.
このように線維化が進むことにより慢性肝炎から肝硬変へと進行しますが,さらに重要なことは病気の進行とともに肝癌の発生率が高くなることです.たとえば100人の患者さんについて5年間経過を見ると,1段階では平均で2~3人の患者さんに肝癌が出来るのに対して,肝硬変の4段階では何と約40人の患者さんに肝癌が出てきてしまいます(図6).

肝癌発生の抑制とインターフェロン治療

このC型肝炎における肝癌の発生を抑えるには,C型肝炎ウイルスを駆除してしまう方法と,肝炎の炎症を抑えて進行を遅らせる方法があります.具体的にはインターフェロンによる治療が中心になります.インターフェロン治療の効果として,ウイルス抑制(駆除),肝臓の線維の減少,肝癌の発生の抑制などが知られています.
これまでわが国では,約20万人のC型肝炎の患者さんにインターフェロン注射のみによる単独療法が行われ,およそ3分の1の方でウイルスが駆除されました.ウイルスの型が1型より2型が,ウイルスの量が多い人より少ない人でウイルスは消えやすいことが判っています.ウイルスが駆除されると,肝臓の線維が減少して進行していた肝臓の病気が改善してきます.さらには肝癌の発生率が低下します.
インターフェロンの治療効果と肝癌の発生抑制の関係は次の通りです.すなわち,大まかにインターフェロン治療した場合としない場合を比較すると,治療した場合では肝癌の発生がおよそ2分の1に低下します.さらに治療効果との関係では,ウイルスが駆除された場合は5分の1以下に,ウイルスが駆除されなくとも肝炎が落ち着いた場合は4分の1程度に肝癌の発生率が低下する事が明らかにされています.

インターフェロン治療の進歩

先に述べたようにインターフェロン治療は1992年から2001年までは単独治療といってインターフェロンの注射だけの治療が主体でした(図7).しかしウイルスが1型でウイルスの量が多い患者さんでは治療効果が非常に低く(数%以下),より有効な治療法が期待されていました.2001年の終わり頃から,ようやくわが国でもインターフェロンとリバビリン(内服薬)の併用療法(24週間)が保険で可能になりました.この方法でこれまで治療の難しかったこれらの患者さんでも約5~6人に1人(20%弱)の割合でウイルスが駆除出来るようになりました.さらに2004年の終わりから,週1回の注射で効果があるペグインターフェロンとリバビリンの併用療法が可能となり,臨床治験の結果からは48週間の治療で約50%のウイルス駆除率が期待されています(図8).

インターフェロン治療における高齢化の問題

わが国におけるC型肝炎の患者さんの平均年齢は現在およそ60歳で,高齢の患者さんほど多い傾向にあります(図9).これは世界的に見て,非常に高齢化が進んでいると言えます.従って,日本より若い患者さんが多い欧米から取り入れられたインターフェロンとリバビリンの併用療法を,わが国の比較的高齢の患者さんに応用するには注意が必要です.実際に年齢の高い患者さんではリバビリン併用療法で貧血などの副作用から,薬の量を減らしたり治療を中止したりする場合が多い事が明らかになっています.そのため高齢の患者さん(65~70歳以上)ではより副作用の少ない治療法を工夫する必要があります.例えばインターフェロン単独治療や少量のインターフェロンで治療する方法などです.
また,年齢が高いが肝炎が初期段階で進行していない場合には,必ずしもインターフェロン治療が必要でない場合も有り,無理をせず他の肝炎を抑える治療法(肝庇護療法)や経過観察を行う場合も有ります.これは肝炎がどの段階まで進行しているのか,また余命はあとどれくらいかなどから判断します.
現在,インターフェロン以外の新しい治療薬の開発が研究されており,将来の応用が期待されています.

B型肝炎

わが国では殆どの場合,生まれて間もない頃に(多くは生まれる時に母親から)感染することにより感染が持続した状態になります.この持続感染者のうち9割程度は20歳頃までに症状がないまま肝炎を起してウイルスの少ない状態へと移行すると考えられています.これらの患者さんでは,一般的には肝炎が落ち着いた状態が続きます.残りの1割程度の方は,慢性肝炎から肝硬変へと進行します(図10).最終的には肝硬変に進行することにより肝不全となるか,肝癌が出来て亡くなる場合が有ります.
肝癌はやはり肝硬変に進行した患者さんで出来やすいですが,慢性肝炎の段階や肝炎が落ち着いていると思われる方からも,肝癌が発生してくる場合が有るので注意が必要です.定期的に通院して検査を受ける必要があります.
いずれにしても治療は肝炎を抑えて進行を遅らせる事です.初期には短期間(4週間)のインターフェロン治療が行われていましたが,現在では約6ヵ月間の長期の治療がより効果的であるとされています.またここ数年,新たに開発されたB型肝炎ウイルスの増殖を直接抑える抗ウイルス薬が次々と使用可能になりつつあります(図11).これらの薬は内服で使いやすく副作用も比較的少ないなどの利点が有ります.さらに肝臓の線維がとれて改善する事や,肝硬変の進行や肝癌の発生が抑えられることが報告されつつあります.その半面,中止すると肝炎が起こるため一旦治療を始めると中止しにくいこと,薬に耐性のウイルスが出来で効かなくなることがあること,さらに奇形を生じる可能性があるなどの問題も有ります.
これらインターフェロンや抗ウイルス薬は,年齢や,ウイルスの量,病気の進行の程度,さらには肝炎の炎症の程度などを考慮して,治療のタイミングや治療薬の選択,組み合わせを考える必要があり,肝臓専門医の判断が必要です.これらの治療により,肝炎の進行が抑えられ肝癌の発生が抑制されるなどの効果が期待されます.

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11