一般のみなさまへ for citizen

九州支部第41回市民公開講座

恐い脂肪肝

山本匡介(医療法人社団高邦会高木病院)


近年,食事の西欧化や,車社会のために肥満や運動不足による生活習慣病の一病態である脂肪肝の頻度が増加しています.本公開講座では従来可逆性であると考えられていた脂肪肝の中に,肝臓病として炎症,線維化を併ない肝硬変や一部では肝がんまで進行する病態,すなわちNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)が存在することを紹介します.さらにC型肝炎に肥満や脂肪肝が加わると肝病変の進行が早くなり,肝発がんの年齢が若年化することをお示しします.

食事,運動療法によって生活習慣病を改善して脂肪肝病態を是正すると,NASHの発症,進展やC型肝炎における発がんのリスクを軽減する可能性があります.

本公開講座では,症例を呈示することによりこれらの疾患を紹介します.

症例1(図1図2図3)は,飲酒歴のない男性で肥満,高血圧などの生活習慣病を合併し,すでに心血管イベントである狭心症を発症している症例です.トランスアミナーゼの中等度の上昇を認め,腹部超音波検査で脂肪肝が疑われた症例です.検査上では血小板数の軽度の減少(12.2万),トランスアミナーゼ,γ-GTPの高度の上昇,またHDL-コレステロールの低下を認めます.

肝炎ウイルスや自己抗体は陰性であり,HOMA指数は高度に上昇しインスリン抵抗性が存在します.肝生検所見では,中心静脈周囲の小葉内に肝細胞の脂肪性変化と風船様腫大,及び好中球や単核球の浸潤と小葉改築傾向を伴なった線維化像がみられ,生化学所見とあわせて本症における肝疾患はNASHと診断されました.

症例2(図4図5図6)は,62才・女性で肥満とともにV型高脂血症を認めます.肝障害を認めるもウイルスマーカーは陰性で,HOMA指数は2.5と中等度のインスリン抵抗性を認めます.腹部エコーでは著明な脂肪肝所見でした.肝生検を行なったところ,肝細胞の大滴性脂肪化,風船様膨化,小葉内の炎症細胞浸潤,肝細胞周囲線維化およびbridging fibrosisを認め線維化の進行したNASHと診断されました.

このように脂肪肝の症例の中には炎症,肝線維化の強い肝硬変まで進行する症例(非アルコール性脂肪性肝炎:NASH)が存在します.NASHは1980年,Ludwigらによって疾患概念を提唱されました.Ludwigらはアルコールを摂取していないのにアルコール性肝障害に非常によく似た病理組織像をもつ点に注目し,脂肪性肝炎であるが,アルコール性肝障害とはまったく違う独立した疾患として分類しています.一般的な非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の中で約20%がNASHであり,その中の20%が肝硬変のステージまで進行すると言われています(図7).成人の20%がNAFLDと概算すると,本邦ではNASHは少なくとも200万人,肝硬変まで進行する例は40万人以上存在すると推定されます.

NASHの基礎疾患としては(図8)に示すように肥満,糖尿病,高脂血症および高血圧などの生活習慣病を合併することが多く報告されています.報告によってそれぞれ頻度は異なりますが,肥満を半数以上,糖尿病を30~50%,高脂血症を20~80%,高血圧を約半数に合併しています.これらのNASHを含むNAFLDの臨床的背景について,私どもの行なった健診例において(図9),脂肪肝132例と非脂肪肝115例を比較してみました.NAFLDにおいては肥満度が高く,血清ALT,中性脂肪が上昇していました.とくに注目すべき点は空腹時インスリン値の上昇とHOMA指数の高値です.NAFLDに関連する変数について検討すると,最も関連があったのは肥満度であり,次にインスリン値,HOMA指数でした(図10).

現在NAFLD,NASHの主要な基礎的病態としてインスリン抵抗性が注目されています.インスリン抵抗性に肥満や運動不足が加わり,生活習慣病の一症状として脂肪肝が発症するという概念です.NAFLDの本態である肝細胞での中性脂肪(TG)の蓄積は,肥満による脂肪細胞からの脂肪酸の流入,過食による肝細胞での脂肪酸,TG生合成の増加,インスリン抵抗性による,肝細胞でのTG生合成上昇や末梢でのリポ蛋白リパーゼ活性の低下などによってもたらされます.

NASHの診断は図11に示すようにウイルス肝炎,自己免疫性肝炎,その他代謝性肝臓病を除外した後に,最終診断として組織学的検査によって行なわれます.組織学的な特徴として肝細胞の強い脂肪性変化,中心静脈を中心とする肝細胞の風船様腫大,小葉内の好中球とリンパ球の浸潤と中心静脈を中心とする線維化像を基本とする線推化の所見が重要です.病変が進行するとついには肝硬変まで進行します.

NASHの治療は,NASHの病態に準じてなされています(図12).単なる脂肪肝がどのようにしてNASHまで進展するかについてはtwo hit theoryが有名です.まずfirst hitによって脂肪肝が発症し,さらにsecond hitとして酸化ストレス,脂質過酸化,エンドトキシンなどにより怠起されるサイトカインの放出などによって肝細胞障害が引き起こされ脂肪性肝炎,肝硬変へと進展していくと考えられています.これらの根底に存在するのがインスリン抵抗性であり,second hitの選択性については遺伝的要因が推定されています.

従って治療として(図13)最初になされるべき治療法は食事,運動療法です.食事療法は摂取エネルギーと脂肪の制限が主であり,実際には糖尿病食に準じた食事とします.運動はカロリーを燃焼させると同時に筋肉量を増加させることでインスリン抵抗性を改善し,脂肪肝,NASHの治療法として非常に重要です.運動,食事療法によって体重が減少しても筋肉量が増加しないとALT,ASTの低下が著明でない場合があり,運動療法により血中インスリン濃度を低下させると脂肪肝の著明な改善がみられます.運動療法としては通常最大酸素摂取量の50%が目標です.週3回各1時間の運動で充分です.

薬物療法としてはfirst hit及びsecond hitに効果のある薬物とに分類されます.代表的な薬剤としてインスリン抵抗性改善剤としてのピオグリタゾン,脂肪酸燃焼薬,抗炎症療法薬としてのフィブラート,抗酸化薬(ビタミンE,C),抗サイトカイン薬(ウルソ)などがあります.

症例3(図14図15)は,43才男性でC型肝炎に肥満,糖尿病,高脂血症,脂肪肝を合併しさらに飲酒歴があり,肝に腫瘤を指摘された患者です.検査では血小板数の著明な減少とトランスアミナーゼの上昇が著明であり,インスリン抵抗性が存在しHbA1c8.3%と顕著な糖尿病があります.血管造影にて肝右葉に典型的な肝がんの所見を認めたためラジオ波(RFA)による治療を行ないました.

本例では,若年発症肝がん症例で脂肪肝と同時に糖尿病,肥満,飲酒歴を認めており,C型肝炎に生活習慣病,脂肪肝,飲酒が伴なうと本当に若年で肝がんが発症するかという仮設が考えられました.そこで1996年から2000年に私どもの施設に入院した初発肝がん例150例で,肥満,飲酒,糖尿病がその肝発がん年齢に及ぼす影響について検討しました(図16).発がんは60~70才台に多く認められ,国民栄養調査による40才以後の平均BMIは40~60才まで差がみられませんが,肝がん発症例においては若年ほど肥満を伴なう症例が多いことが分かりました(図17).

各因子の発がん年齢に影響する「リスク」をCOX比例ハザードモデルを用いて検討しました.そうすると飲酒によって1.9倍,糖尿病は1.6倍,肥満は1.5倍,発がんを若年化させることが分かりました(図18).次に各因子の有無による平均発がん年齢の差について検討しました.症例を肥満,非肥満例に分類して,さらに糖尿病,飲酒が加わると発癌年齢がどのくらい若年化するかを検討しました.3つの因子が重なると,発癌年齢は50才まで若年化することが分かりました(図19).

これらの結果,C型肝炎に肥満,糖尿病,飲酒が重なると,脂肪肝が発症し,肝臓の炎症が強くなり,さらに酸化ストレスが加わることにより,肝臓病の進行が促進され,若年で肝がんが発症することがわかりました.C型肝炎においても合併する生活習慣病の改善が必要であり,肝がん予防につながることが推定されます.

このように,肥満や運動不足による生活習慣病の一病態である脂肪肝はその中にNASHとして肝硬変や一部肝がんまで進行する「恐い脂肪肝」を含んでおり,食事,運動,薬物療法による積極的な治療が必要です.さらに,C型肝炎の場合も,合併する生活習慣病を積極的に治療することによって肝発がんリスクを減少させる可能性が考えられます.本日は「恐い脂肪肝」というテーマでお話させていただきました.

図  表 

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図1

図2

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図7

図8

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図10

図11

図12

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図14

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図16

図17

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