一般のみなさまへ for citizen

北海道支部第26回市民公開講座

消化管のがんの早期発見と最新治療

篠村恭久(札幌医科大学医学部内科学第一講座)


1.はじめに

がんはわが国の死亡原因の第一位であり,年間30万人以上ががんで死亡しています(図12).そのなかでも胃がん,大腸がん,食道がんなどの消化管のがんは大きな比重を占めています.消化管のがんは局所に限局している時期に発見されれば,がんを完全に除去しがんを治すことができます.消化管のがんを除去する基本的な治療法は外科的手術ですが,より早期に発見されますと苦痛の少ない内視鏡治療でがんを完全に切除することが可能です.一方,消化管のがんが転移して全身に広がると非常に治りにくくなります(図3).したがって,どうすれば早期に消化管のがんが発見できるか,どのような治療法があるのかを理解し,消化器のがんが早期に発見されるように心がけることが重要です.

2.消化管のがんの早期発見

1)胃がんの早期発見
胃がんは日本人に多いがんで,中高年者に多く男性に女性の約2倍高い頻度でみられます.胃がん検診の普及などにより胃がんの死亡率は低下傾向にありますが,未だに死亡数の多い病気です.日本人に胃がんが多い原因には日本人に慢性胃炎の人が多いことが関係しているといわれています.日本人の中高年者にはヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌が胃のなか住み着いている人が多く,このヘリコバクター・ピロリが日本人の慢性胃炎の主な原因になっています.また,食塩の摂取が多いことも慢性胃炎を悪化させ,胃がんになりやすくする要因になっていると考えられています.慢性胃炎のなかでも,特に胃炎が進展して胃粘膜が薄くなる萎縮性胃炎の人や,胃のひだが太くなっている胃炎の人,胃粘膜表面が鳥肌のように不整になっている胃炎の人では胃がんの発生が多いことがいわれています(図4).また,胃の手術を受け胃の一部が残っている人,血縁者が胃がんにかかった人なども胃がんにかかりやすいことがいわれています.胃がんの症状には,上腹部痛,上腹部の不快感,体重減少,嘔吐・悪心,吐血・下血,食欲不振などがあります.胃がんは早期には症状がないことが多いですので,中高年者は胃がんの検診を受けることが推奨されています.胃がんの検診法ではバリウムを飲んで撮影する胃X線検査が一般的で,胃X線検査で異常を認めた場合に内視鏡で精密検査を行います.しかし,胃内視鏡検査ではより小さな胃がんが発見されるため,直接,内視鏡検査による検診も行われています.また,血清ペプシノーゲン検査が胃がんになりやすい高危険群である萎縮性胃炎の診断に有用であることから,血清ペプシノーゲン値を測定し高危険群と判定された人に内視鏡検査を行うペプシノーゲン法による検診も行われています.検診で胃がんが発見された人は症状があって病院を受診し胃がんが発見された人に比較して再発が少ないことが報告されています.しかし,胃がんの検診を受けている人がまだまだ少ないのが現状で,日本人の胃がんの死亡数はあまり減少していません.40歳以上の人は積極的に検診を受けるようにしましょう.

2)大腸がんの早期発見
大腸がんは近年日本人に増加しているがんで,男性と女性が同頻度でみられます.大腸がんが増加している要因としては,食事の欧米化による脂肪摂取の増加や運動不足などライフスタイルの変化が指摘されています.消化管の粘膜から発生し消化管の管腔内に突出した組織をポリープと呼びますが,大腸がんのかなりの割合は大腸の良性のポリープから発生すると考えられています.良性のポリープがたくさんできる人は大腸がんにかかりやすいことが指摘されています.また,血縁者に若年で大腸がんにかかった人がある場合も大腸がんになりやすいことが知られています.大腸癌の症状としては,血便,便秘あるいは下痢,便が細い,お腹が張るなどがあります.このような症状がある場合は大腸の検査を受けることをお勧めします.大腸がんの精密検査としては,全大腸内視鏡検査,S状結腸内視鏡検査と注腸X線検査があります.このうち全大腸内視鏡検査がより精度の高い検査です.大腸がんの場合も早期がんでは症状がないことが多いので40歳以上の人は大腸がん検診を受けることが推奨されています.大腸がん検診では,便潜血検査2回法が一般的です.便潜血検査は目にみえない程度の出血を便中で検出する検査です.便潜血反応陽性者に大腸内視鏡による精密検査を行うことにより大腸がんがあるかどうかを検査します.40歳以上の人は積極的に大 腸がん検診を受けるようにしましょう.

3)食道がんの早期発見
食道がんは,50歳以上の中高年の男性で,特にタバコやお酒を好む人によくみられます.男性が女性の5,6倍多いことが知られており,この要因に喫煙や飲酒が関係すると考えられています.食道がんの症状には,食事がつかえる,熱いものや冷たいものを飲み込んだ時に胸の奥がしみる,体重が減少する,胸が痛む,背中が痛む,声がかすれるなどがあります.しかし早期の食道がんは症状がないことが多いですので,50才以上の男性でタバコやお酒を好む人は軽い症状でも病院を受診して検査を受けられることをお勧めします.食道がんの検査には食道X線検査と食道内視鏡検査があります.食道がんは早期の段階では平坦なものが多く食道のX線検査では見つからないことがありますので,内視鏡検査が早期の食道がんの発見に適しています.また,内視鏡検査時に食道にヨードを撒布すると食道がんが見つけやすくなります.50歳以上の男性でタバコやお酒を好む人は胃の内視鏡検査を受ける機会には食道もよくみてもらうようにしましょう.

3.消化管のがんの治療

1)胃がんの治療
胃がんの治療法には,内視鏡治療,外科治療,抗がん剤治療,放射線治療のおもに4つの治療法があります.このうち放射線治療は,胃がんが骨に転移した場合など特殊な場合に限って行われ,胃がんに対しては一般的な治療法ではありません.どの治療が適しているかは,胃がんがどの程度胃の壁へ広がっているか,転移がないか,などがんの進行の程度を評価して判断されます.消化管のがんの基本的な治療法はがんを切り取ってしまう外科的切除ですが,小さな早期がんが発見されますと苦痛の少ない内視鏡治療で完治することが可能です.内視鏡治療は,内視鏡の先端からスネアとよばれる金属製の輪や電気メスを出して,がん部を高周波電流で焼き切る治療法です(図5).それではどのような場合に内視鏡的治療が可能なのでしょうか.内視鏡治療ではがんが転移したリンパ節を取り除くことはできませんので,リンパ節転移のない早期のがんであることが内視鏡治療の重要な条件になります.がんが粘膜にとどまっている場合は転移がありませんが,がんが消化管の壁に根を張って広がっていくとリンパ節に転移が起こります(図6).したがって,粘膜内にとどまったがんが内視鏡治療に適しています.内視鏡の先端から超音波を出して粘膜の下の様子を調べる超音波内視鏡検査はがんが胃の壁にどの程度根を張っているかを調べるのに用いられます(図78).また,内視鏡で見やすい場所にできたがんであること,大きさが小さいことなども条件になります.胃がんの内視鏡的治療の場合は,胃粘膜にとどまったがんで,大きさが小さいがんであること以外にも,分化型がんであることが条件になります.胃がんは分化型がんと未分化がんに分けられ(図9),未分化がんではがん細胞がばらばらに胃の壁の深部に入り込むため内視鏡治療には適しません.胃がんの外科治療では,がんを含めた胃の切除,周辺のリンパ節の切除を行います.胃がんの存在する部位や大きさなどにより胃を部分的に切除するか,全部切除するかが決められます.早期胃がんの場合は外科治療あるいは内視鏡治療でほとんどのがんを治すことができます.外科治療ができない胃がんや外科手術後に再発した胃がんでは,抗がん剤による治療が行われます.胃がんに用いられる抗がん剤にはいくつかありますが,フルオロウラシルやその仲間のお薬がよく用いられます.経口抗がん剤ティーエスワン(TS-1)は飲み薬ですので通院で治療ができます.抗がん剤による治療成績は向上してきていますが,長期間使用していると効かなくなることや副作用の問題があり今後さらに良い治療薬が開発されることが期待されます.

2)大腸がんの治療
大腸がんの治療法も,内視鏡治療,外科治療,放射線治療,抗がん剤治療の4つあります.リンパ節転移の可能性のない早期大腸がんは内視鏡治療の適応になります.大腸のポリープはしばしばがんが発生してきますので,予防的に大腸ポリープを内視鏡治療で切除することが行われています.大腸ポリープを切除すると大腸癌が発生する率が低くなることが報告されています.外科治療は,がんとともに口側と肛門側の腸管を10cmほど切除し,同時に周囲のリンパ節の切除を行います.大腸の早期がんも内視鏡治療あるいは外科治療によりほとんど治すことができます.外科治療で切除できない場合や,手術後に再発した場合には抗がん剤治療を行います.2005年わが国においてオキサリプラチンという新しい抗がん剤が保険適用になり,フルオロウラシルおよびホリナートと併用して使用され優れた効果が認められています.

3)食道がんの治療
食道がんの治療にも,内視鏡治療,外科治療,放射線治療と抗がん剤による治療のおもに4つの治療法があります.食道がんの場合も食道の壁の深い層に達していないもので,大きさが小さいものですと内視鏡治療が可能になります.リンパ節転移があってもわずかで完全に切除が期待でき,体力にも問題がないと判断された場合は,外科的切除の適応になります.食道がんの外科治療は,がんを含めて食道を切除し,あわせてリンパ節を含む周辺の組織を切除します.食道を切除した後には,胃などを用いて食物の通る通路を作ります.がんが外科的に切り取れる範囲を越えている場合は,放射線治療と抗がん剤治療を行います.放射線治療と抗がん剤治療を併用して行ったほうがより高い効果が期待できます.抗がん剤としてフルオロウラシルとシスプラチンの併用療法がよく用いられています.

4.おわりに

胃がんや大腸がんなど消化管のがんは早期に発見されますと内視鏡治療や外科治療により完全に治すことができます.消化管の早期がんは症状がないことが多いため,早期に発見するにはがん検診を受ける必要があります.40歳以上の人は積極的にがん検診を受けるようにしましょう.一方,進行したがんでは抗がん剤を用いた治療や放射線による治療が行われていますが,完全に治るまでに至らないことが多いのが現状です.抗がん剤も新しいものが開発されてより治療効果が改善してきています.近年,癌の増殖や転移に関わる生体分子が明らかにされ,これらの分子を標的とした抗がん剤の開発が進められ一部は実用化されています.これまでの抗がん剤が効かなかった消化管間質腫瘍(GIST)と呼ばれる悪性腫瘍ではイマチニブという分子標的薬が優れた抗腫瘍作用を発揮することが示され,GISTに対するイマチニブ投与はわが国において2003年に保険適用になっています.大腸がんに対しても新しい分子標的治療薬が開発され,すでに欧米では大腸がんに対して使用され優れた効果がみられています.わが国でも新しい分子標的治療薬が消化管のがんに対して有効かどうか試験が行われています.今後新しい治療薬の開発が進み,進行した消化管のがんの治療法が大きく進歩することが期待されます.

図  表

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9