一般のみなさまへ for citizen

四国支部第28回市民公開講座

必要な部分だけ取る縮小手術

黒河達雄(済生会西条病院外科)


わが国の主要部位別癌の年齢調整死亡率の推移

かって癌の中で死亡率トップの座を守ってきた胃癌が男性では急速に増えてきた肺癌に逆転され,女性でも胃癌で亡くなる方が減少してきて大腸癌とほぼ同じ率となりました. 全体としては,胃,子宮が減少し,肺,大腸,肝臓,膵臓,胆道,前立腺,卵巣,白血病がいずれも急増しています.食道は横ばい状態です.

癌に対する縮小手術とは

各臓器の進行がんに対する標準手術はすでに確立されていますが,縮小手術とはその術式よりも(1)切除する範囲が少ない(2)低侵襲である(手術時間が短い)(3)その臓器の機能が残されている(4)術後の生活に手術の影響が少ないものをいいます.

食道がん

食道がんに対する標準手術とは胸部を通る食道ほぼ全部と頚部,胸部,上腹部の3箇所のリンパ腺を取ってしまう方法で,首,胸,腹の3ヵ所を切開して食道と胃の1部,リンパ節を取ってしまい,胃を細長く円筒形に作り直して食道の代わりとして使う術式です.これに対する縮小手術はリンパ節転移がないか,腫瘍のごく近くに限られている場合に,(1)開胸・開腹だけで胸腔内で食道胃吻合を行う,(2)胸腔鏡で食道とリンパ節を切除し小さい創で食道胃吻合を行う,(3)胸を開けないで食道だけ引き抜く,(4)内視鏡で粘膜切除をするなどの方法があります.しかし最近は,進行がんについてはかなり高率に再発し予後が悪いので抗癌剤と放射線治療を選ぶ人が多いようです.一方早期がんとは,食道の粘膜層(筒の内側で食べ物が通る側)から発生,発育したがんが食道の筋肉層にまでは食い込んでいないものを言いますが,粘膜層をさらに2層に分けると,浅い方を粘膜層(m)とその下(深い層)を粘膜下層(sm)とに分類しています.早期がんは転移さえなければ,がんの部分だけ取り除けばよいわけで,今まで手術してきたたくさんの標本を調べてみました.その結果,粘膜層・粘膜下層をそれぞれ3層に,全部で6層に区分けしてそれぞれの層まで侵潤した症例につきリンパ節転移率を調べてみました.その結果,表面から順に,m1,m2,m3,sm1,sm2,sm3の各層のうちm1,m2の層までの腫瘍にはリンパ節転移は見られなかった.m3以下の層ではsm3までリンパ腺転移を認め,深くなるほど個数・数とも増加していました.従って,m1,m2までの人は手術せずに内視鏡的粘膜切除術で治し,m3以深の症例は手術適応となっています.

胃がん

胃がんの標準術式は長い間,どんなに早期でも,幽門側(胃出口に近い側)の亜全摘術+リンパ節郭清(胃の周りのリンパ節をかなり遠くまで切除してしまう)であった. しかし,乳房温存手術が注目されだして,多くの分野で「不必要なところまで取る必要はないのでは」と言う意見がではじめ,胃がんでも縮小手術が検討され始めだした.即ち縮小手術とは,早期胃がんのうち粘膜内(いちばん内側のぬるぬるした層)にだけにとどまっているものだけに限って施行される治療法ですが,その根底にあるコンセプトとしては,余分なところは取らない,切除は必要最小限にとどめ,臓器の機能は最大限残す術式を目指すもので,即ち,(1)内視鏡的粘膜切除術(2)腹腔鏡による胃部分切除(3)小開腹による胃分節切除,リンパ郭清(4)小開腹による幽門輪温存胃切除術,リンパ郭清などがある.
胃がんの場合リンパ節転移が起こるがんの深さを調べてみると,組織のタイプによって転移率が異なることが分かりました.組織型を大きく二つに分けると,高分化型と低分化型となり,高分化型だとリンパ節に転移しにくく,2.0cm以下までならリンパ節転移は見られなかったので内視鏡的粘膜切除術の適応となります.ところが低分化型だと大きさ0.5cmを超えるとわずかながら(0.4%)リンパ節転移を認め,このタイプだと0.5cm以下の微小がんでないと内視鏡的には取れないということになり,低分化型の胃がんという病理結果が出れば内視鏡的切除は勧めないという医師も多いようです.私たちも同じ意見でして,粘膜内胃がんで2.0cm以下の高分化型以外の症例は腹腔鏡による胃部分切除か幽門輪は残して胃分節切除(病変を含めて胃を筒状に切除)+近くのリンパ節を取る(郭清)方法を選びます.ここで何故幽門輪を残すかを説明しましょう.
幽門輪は胃の出口で,胃と十二指腸の境目にある弁の役目をしています.筋肉が発達しており胃の内容(食べたもの)を少しづつ十二指腸へ送り出すとともに,十二指腸内の胆汁の胃内への逆流を防ぐ役目も持っている.幽門輪を残すと残った胃の動きが悪くなり,食べ物が胃内に停滞するという報告もありますが,きちんと胃や幽門輪へゆく神経を残せば問題ないようで,当院の症例でも残った胃の貯留能もあり,胆汁の逆流も防げて良好な成績です.

大腸がん

大腸がんでは以前に比べて術式で大きく変わったところは,直腸がんの手術で人工肛門を回避できる症例が飛躍的に増えたことと,骨盤内の神経を残すことによって術後の排尿,排便,性的機能が障害されることなく,生活の質が保たれたことです.これは,不必要なリンパ郭清をしないことと,腸の吻合器械が優秀になったことによります.がんの進行が深くもぐってなければ肛門に近い部位でも大腸肛門吻合をすれば人工肛門をつけなくてよい場合もあります.

写真の解説

図1:食道表面からの深さとリンパ節転移
粘膜の表面から筋肉層までを6層にわけると,m1,m2までは手術せずにカメラで取れるが,m3より深いと手術適応となる.
図2:内視鏡で粘膜切除をしている.
図3:早期胃がんの治療法
粘膜がんのうち顕微鏡分類で分化型2cm以下なら内視鏡で治せるが,それ以外だと縮小手術となる(低分化型なら2cm以下でも手術).
図4:胃に分布する神経
胃の神経を残してリンパ節郭清すれば胃の機能を残してがんを取ることができる.
図5:幽門輪温存胃切除術
胃の幽門を残すと胃の容量もおおきく胆汁の逆流も防げる.
図6:直腸がんの手術方法
30年前までは75%の率で人工肛門がつけられていたが,現在では約30%の人がやむなく人工肛門にしている.
図7:直腸がんの術式
左の図ではがんが腸の筋肉までなのでその外側の括約筋は残せるが,右の図ではがんが進行しており外の筋肉までも同時に切除している.
図8:図7で切除した後,大腸と肛門を縫合したところ.

図  表 

拡大画像へ
リンクします

図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8