一般のみなさまへ for citizen

甲信越支部第37回市民公開講座

むし歯と消化器病

加藤喜郎(日本歯科大学新潟生命歯学部 歯科保存学第2講座)


噛むことは,口腔との関連ではむし歯や歯周病を予防し,あごの発育を促し,歯並びを良くし,唾液分泌を良くする等の効果がある.消化器との関連では食べ物の消化を助け,栄養の吸収を良くします.姿勢との関連では,背骨を正しい位置に保ち,姿勢を良くし,頭痛,肩こり,腰痛を予防します.成人病との関連では,肥満,高脂血症を予防し,糖尿病を予防し治癒効果を高め,ガンを予防する効果もあります.その他,情緒を安定させ,脳を刺激し活力を与え,顔の表情を生き生きさせる効果もあります.歯の数と美味しく食べられると感じるヒトの割合(%)は,28本で100%,20~14本で75%程度あるのに対し,13~7本では30%以下と激減してしてしまうので,健康な歯が口の中にたくさんあることが重要なのです.一方,歯を失う原因の9割はむし歯と歯周病なのです.

ヒトの体に棲みつく細菌の数を図1に示します.ヒトは約100兆個の細胞でできていますが,それとほぼ同じ数の微生物がテリトリーをもって棲みついているといわれています.また,地球上に100万以上の種類があるが,ヒトには原虫,真菌,そして約700種類の細菌が棲息しているという.デンタルプラーク(歯垢)1011/gと糞便1011/gおよび唾液108~109/ml と膣分泌液109/ml の細菌数はほぼ同じであるとはれている.

現在,むし歯原因菌は,ストレプトコッカスミュータンスとストレプトコッカスソブライヌスであるといわれている.これらの細菌が存在し図2に示すような4因子が整った時にむし歯ができる可能性があると考えられている.できたむし歯は,図3に示すように進む早さや深さにより分類されるが図中(3)進行深度による臨床的分類/保険診療による分類C1~C4がよく用いられる.後者ほど重症で歯の中の神経(歯髄)も死に,歯根周囲の骨の中に病気ができて痛みや腫れが伴う状態となり噛むことも困難となる.

成人期や高齢者の特徴的なむし歯として,二次齲蝕(図4)や根面齲蝕(図5)を挙げることができる.前者は一旦綺麗に治した歯が再びむし歯を再発した状態をいい,後者は歳と共に歯茎が下がって歯根が露出することによって歯根面にできるむし歯をいう.むし歯ができることによって発生する障害を表1にまとめた.この中でも特に全身との関わりは,3~7の障害が重要でる.唾液酵素(ペルオキシダーゼ)は発癌毒素を消す効果があるとされることから,30回以上よく噛んで唾液分泌を促し,活性酵素を消去することが癌を予防する有効な方策であると認識されている(図6).

歯性病巣感染とは,体のどこかに慢性の限局性感染病巣(原病巣)が存在し,この病巣が臨床的にほとんど病状を示さないか,あるいは周期的に軽度の症状を示すにすぎないにもかかわらず,原病巣が原因となって病巣とは無関係の遠隔部の臓器・組織に一定の気質的ないし機能的障害(二次病変)を引き起こす現象をいう.この内原病巣が歯に関連した組織にある場合,特に歯性病巣感染という(図7図8).病変の成立機序は,菌血症,毒血症,免疫生物学的反応,神経作用ならびにストレスやレイリー現象等の諸説があるがはっきりとは判っていない.

むし歯以外で,歯周病が全身に及ぼす病気として,誤嚥性肺炎,心内膜炎,菌血症,敗血症,早産,低体重児出産等が挙げられている.特に,高齢者における誤嚥性肺炎は嚥下機能が障害されると,唾液,逆流した胃内容物や飲食物が下気道に吸引される.正常時には咳反射によって喀出されるが,障害があるとそのまま下気道に吸引されてしまう.健常高齢者では,嚥下反射も咳反射も20歳代の若者と変わりがないが,肺炎患者では明らかに鈍くなる.誤嚥の量が多かったり,嚥下物内の細菌量が多いとき,あるいはそれらは普段と同じでも,体力や精神力が消耗し,全身や局所の免疫能が低下したときに肺炎を発症すると考えられるので,注意を要する.また,肺癌については,男性では1998以後,死亡率は胃癌を抜いて1位となった.扁平上皮癌が多く,女性では腺癌が多い.この場合口腔からの二次感染を惹起しやすい.

幸福人生を送るために:むし歯と歯周病を避け,生涯健康な口腔で飲んだり,食べたり,談笑したりする人生を送るために次のことを守っていただきたい.

1) 暴飲暴食を避け,30回以上よく噛んで食べる.
2) 口の中を常に清潔に保ち口臭もとる.
  (1) プラークコントロールの厳守
  (2) 含嗽剤の活用
毎食後と就寝前の計4回の歯ブラシ清掃と含嗽剤による口腔洗浄.
3) かかりつけ歯科医院によるプロフェッショナル管理
  (1) 定期的チェック(3~6カ月毎)
  (2) PMTCによるバイオフィルムの除去(歯科医院における歯面研磨)
  (3) カリエスリスク検査(むし歯に成りやすい因子の見つけだし)
  (4) むし歯治療時は歯質保存的(MI)接着修復を受ける
  (5) 欠損歯の幹細胞高度再生医療に期待があるが実用化はまだ先の話である

参考文献は表2に示した.詳細を望まれる方はご参照ください.

 

 

図  表

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図1

図2

図3

図4

図5

表1

図6

図7

図8

表2