一般のみなさまへ for citizen

東北支部第41回市民公開講座

触れるだけでぴたりと診断(超音波の世界)

小原勝敏(福島県立医科大学附属病院内視鏡診療部)


I.はじめに

消化器のいろいろな病気の中には触れただけでぴたりと診断することができる病気がたくさんあります.触れる方法には,手で触れる方法(触診)と器械を使って触れる方法(腹部超音波検査や超音波内視鏡検査)があります.ここでは,器械を使った方法,すなわち超音波の力でぴたりと診断する方法(超音波の世界)についてお話したいと思います.

II.腹部超音波検査と腹痛をきたす病気

消化器内科の外来では腹痛を訴えてくる患者さんが多く見られます.心身症などによる機能的なものから急性腹症といった重篤なものまで様々です.腹痛の診療にあたっては,きめ細かな問診や診察,臨床症状や経過,血液検査を行いますが,それらの方法では確定診断できないことが多く,さらに有用な検査が必要となります.その検査の一つが腹部超音波検査(図1)であり,腹部超音波の器械(超音波プローブ)をお腹に触れることで,ぴたりと診断できる病気が多数あります.腹部超音波検査はお腹をさするだけですから侵襲がなく,簡便で何度でも繰り返し行うことができ,腹痛をきたす各種疾患の確定診断と適切な治療法の選択に有力な情報を与えてくれます.しかし,十分な技術がないと重大な病変を見落とすことがあり,患者さんの状況(体型や症状など)による検査の限界も知っておくことが大切であると考えています.

1.上腹部痛をきたす病気
上腹部痛の原因として心疾患(狭心症や心筋梗塞)と上腹部臓器(胃・十二指腸,肝臓,胆嚢,胆管,膵臓,脾臓,腎臓)の病変を考えますが,特に心窩部痛(まれに右季肋部痛)では,心筋梗塞などの心疾患を否定するために心電図の検査は必須となります.腹痛の程度は鈍痛から激痛まで様々であり,激痛の場合は胆石発作,急性膵炎,消化性潰瘍の穿孔,アニサキス症などを考えます.上腹部痛と発熱がある場合は,急性胆嚢炎,急性胆管炎,肝膿瘍,腎盂腎炎,腎膿瘍などの炎症性疾患を考えます.背部痛を伴う場合は急性膵炎,膵癌,胆嚢炎,消化性潰瘍の穿孔,腎盂腎炎,水腎症,腎結石,尿路結石,解離性大動脈瘤などが考えられます.これらの病気はほとんど腹部超音波で診断できますが,さらに問診や血液検査,腹部単純X線検査や腹部CT検査などから多くの情報を得て総合的に診断します.

2.下腹部痛をきたす病気
下腹部痛をきたす病気も様々であり,臨床症状や血液検査所見,そして腹部超音波検査が有用となります.間欠的な痛みで嘔吐や下痢を伴えば腸閉塞(イレウス),急性胃腸炎,感染性腸炎,クローン病,虚血性腸炎,腸重積などが考えられます.腹部超音波検査以外に問診や血液検査,腹部CT検査などから多くの情報を得て診断します.また,持続する痛みで,背部痛を伴えば尿路結石,解離性大動脈瘤などが考えられ,右下腹部痛を伴えば急性虫垂炎,大腸憩室炎などを,女性であれば急性付属器炎,卵巣出血,子宮外妊娠,卵巣腫瘍茎捻転などが考えられます.

3.腹痛をきたす病気の腹部超音波診断

1. 急性膵炎〔図2
急性膵炎を疑った場合,腹部超音波検査は最初に行われるべき検査の一つであります.発病の初期には腹部超音波検査で異常が認められないことがあるので注意が必要です.経時的に繰り返し検査を施行するのが大切となります.急性膵炎に特徴的な膵腫大(通常は膵臓が全体的に腫大)や膵実質エコー像の変化(高エコーや低エコーパターンを呈する),膵周囲の帯状の低エコー域や液体貯留,仮性のう胞などの有無を観察します.膵炎の所見がある場合はもちろんのこと,膵炎の所見が明らかでない場合でも腹部CT検査を行います.急性膵炎の重症度を判定することは,適切な治療をするために重要であり,臨床症状,血液検査による炎症反応(CRP),腹部CT検査などから判定します.腹部超音波だけでは膵炎の重症度判定は難しいからです.
2. 消化性潰瘍の穿孔
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の穿孔では腹部全体の痛みを訴え,上腹部の筋性防御(腹部が板のように硬くなった状態)を呈してきます.腹部のX線検査やCT検査で腹腔内の遊離ガス(free air)が証明されれば診断は確定できますが,ごく少量の遊離ガスの場合は,これらの検査法では診断できません.しかし,腹部超音波検査は,少量の遊離ガスの診断においても優れています.
3. 急性胆嚢炎(図3
腹部超音波の特徴的な所見としては,胆嚢の腫大や緊満,胆嚢壁の肥厚,胆泥の貯留,胆石嵌頓などがあります.発病早期には胆嚢壁の肥厚はなく,次第に層状の肥厚が観察されてきます(3層構造).
4. 腸閉塞(イレウス)
腸閉塞の診断においては,腸液の貯留や異常ガス像が特徴的です.麻痺性イレウスでは小腸内に貯留した腸液内に小腸のヒダがみられ,まるで“キーボード”のように認められることがあります(キーボードサイン).閉塞性イレウスでは拡張した腸管内に液体の水面形成や腸液が行ったり来たりする動きが認められたり(単純性イレウス),あるいは消化管壁の肥厚やその口側の腸管の著明な拡張で内容物の動きがなくなり,腹水を認めることもあります(絞扼性イレウス).
5. 急性腸炎
急性腸炎では,腸管は軽度の拡張を呈し,イレウスのような高度拡張を呈することは少ないのが特徴です.そして,腸管壁には低エコーの肥厚像や浮腫が認められます.

III.腹部超音波検査と肝臓病

肝臓病の中で食生活と関連しているのが脂肪肝(図4)やアルコール性肝障害(急性肝炎,慢性肝炎,肝硬変(図5))です.その他にウイルス性肝炎(B型肝炎,C型肝炎など)があります.とくに肝硬変の原因としては,C型肝炎ウイルス感染が約60%,B型肝炎ウイルス感染が約15%,アルコール性が約20%を占めています.これらの肝硬変の経過観察中に肝癌(図6)が発生してきます.肝癌を早期発見するためにも,いつでも簡便にできる腹部超音波検査が,重要な検査法の一つとなっています.

IV.超音波内視鏡検査とは

腹部超音波検査では,胃や腸管内の空気貯留,腹壁や腹腔の脂肪,あるいは骨の影響で各臓器(とくに膵臓)が見えにくい人がいます.また,腹部超音波検査でぼんやりとしか観察できないといった場合もあります.そこでこのような問題を解決するために,空気,脂肪,骨などの超音波の妨げになることもなく,もっと病変に近づいて,より鮮明な超音波画像を作り出すために開発されたのが超音波内視鏡検査です.超音波内視鏡は文字通り超音波装置を伴った内視鏡で,消化管の中(内腔)から超音波検査を行います.観察目標の近くから5~30MHzという比較的高い周波数の超音波により,高い分解能の超音波観察をすることができます.現在,一般的には通常型超音波内視鏡と細径超音波プローブ(図7)が使用されています.通常型超音波内視鏡は通常の内視鏡スコープの先端に超音波装置を合体させたものであり,消化管の病変の他に,直接内視鏡で見ることのできない部位(膵臓,胆嚢,胆道)の病気の診断に有用とされています.細径超音波プローブは20MHzのプローブ(探触子)を用い,通常の内視鏡の鉗子口から挿入し,病変に近づけて観察します.通常型超音波内視鏡に比べてより近くの病変の観察に適しています.超音波内視鏡では通常の内視鏡では見ることのできない組織の内部を観察することができます.食道,胃,大腸の層構造を見ることができるので,癌などの病巣がどのくらい深くまで及んでいるのか(深達度診断)や,表面には見えない粘膜下の腫瘍などを詳細に検査することができます.また,病理検査のために,超音波内視鏡ガイド下穿刺(Fine needle aspiration:FNA)といって,超音波で胃壁,あるいは周囲の臓器(膵臓,リンパ節など)の状況を確認しながら細胞や組織を採取することができます.

V.超音波内視鏡と消化器病

1.通常型超音波内視鏡(EUS)による検査
先端に超音波探触子がついたスコープを胃ないし十二指腸に挿入し,そこから胆嚢・胆管,膵臓を観察します.次に代表的な胆膵疾患のEUS所見を呈示します.

1. 胆嚢ポリープ(図8
胆嚢の中に隆起した病変(ポリープ)を認める病気で,超音波検査によって数多く発見されるようになりました.胆嚢ポリープの殆どは症状がなく,コレステロールポリープか腺腫性ポリープとよばれる良性のポリープでです.小さいものであれば治療の必要はありませんが,大きさが10mm以上になると,腺腫性ポリープの一部が癌化したり,まれには小さくても悪性の腫瘍(癌)を認めることがあります.したがって,10mm以上のポリープや,経過観察中に増大したポリープは危険であり,手術(胆嚢摘出術)が望ましいと考えられています.現時点では残念ながら腹部超音波検査やEUSを用いても,良性と悪性の鑑別診断が難しい場合もあるので,胆嚢を摘出して病理検査が一番確実な方法です.
2. 総胆管結石症
結石が総胆管にある場合は総胆管結石症,肝臓内の胆管にあるときは肝内結石症といいます.この胆石で胆管内の胆汁の流れが悪くなると,右上腹部の激しい痛みや吐き気・嘔吐が起こってきます(胆管の炎症や急性膵炎による),さらに胆管が塞がり,感染が起こると発熱,悪寒,黄疸が出てきます(化膿性胆管炎,肝臓内への細菌感染,敗血症)の危険性がでてきます..胆のう結石の60%はコレステロール胆石ですが,胆管結石ではカルシウム・ビリルビン結石が主体です.総胆管結石は内視鏡を用いた治療法で安全に除去できます.
3. 総胆管癌
胆管が癌の増大によって徐々に閉塞してくると胆汁の流れが悪くなり,その流れの上流は拡張し,胆汁が血中から排泄されなくなると,胆汁中に含まれるビリルビンのために黄疸を生じてきます(閉塞性黄疸).また,胆汁が十二指腸に排泄されなくなると,クリーム状の白色便に変化してきます.また,黄疸があると,血中胆汁酸濃度が上昇し皮膚にかゆみが出てきます.一方,癌が小さく胆管内の胆汁の流れを障害しない時期はまったく症状がないので病院を受診することはなく,この時点で発見されるのは,他の症状で来院したり,あるいは人間ドックなどで偶然に発見される場合です(図10).

2.細径超音波プローブ(UMP)による検査
細径超音波プローブは20MHzのプローブ(探触子)を用い,通常の内視鏡の鉗子口から挿入し,病変に近づけて観察します.病変部の通常観察の後に,病変部位に脱気水(一度沸騰させ冷ました水)を充満させておいて,UMPで病変部の観察を行います.UMPの観察においては,とくに消化管癌(食道癌,胃癌,大腸癌)の深さ(深達度)の診断や消化管周囲のリンパ節転移の診断に役立ちます.代表的な消化管癌のUMP所見を図11図12図13に呈示します.

VI.おわりに

以上“超音波の世界”についてお話しました.消化器病の拾い上げ診断においては,腹部超音波検査は日常診療において不可欠であり,超音波内視鏡検査は精度の高い診断能を発揮してくれることがご理解いただけたのではないかと思います.

図  表

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11

図12

図13