一般のみなさまへ for citizen

北陸支部

ここまでできる内視鏡治療-内視鏡で治そう胃腸の病気-

山崎幸直(福井大学光学医療診療部)


【はじめに】

去る平成18年7月8日(土)に福井県立大学講堂にて日本消化器病学会北陸支部主催
第36回市民公開講座が開かれました.本市民公開講座は「ここまでできる内視鏡治療 ―内視鏡で治そうおなかの病気―」をテーマとして,従来であれば開腹手術での治療が当たり前であった消化器疾患のいくつかが“より簡単でよりからだに優しい”内視鏡による治療が主流となってきた昨今の現状を一般市民の皆様にお伝えし,内視鏡による消化器疾患の早期発見・早期治療の重要さをアピールすることを目的として開催されました.新聞,ラジオ,テレビを活用してのコマーシャルのかいもあって,7月初旬と言うのに真夏を思わせるほどの炎天下の中,100名余の市民の皆様のご参加を得ることができました.

【市民公開講座概要】

第1部は3人の専門医の先生方にご講演をお願い致しました.講師の方々のご略歴とご講演内容をご紹介致します.

【講師紹介と講演要旨】

1.内視鏡で治そう胃腸の病気
福井大学医学部・第二内科 助手 伊藤 義幸 先生
【略歴】平成 2年 2月 福井医科大学医学部 卒業
    平成 2年 4月  同   上    第二内科 入局
    平成10年 9月  同   上    大学院 修了(医学博士)
    平成11年 7月  同   上    第二内科 文部教官・助手
    平成11年10月 米国ワシントン大学 博士研究員
    平成13年 9月 福井医科大学医学部 第二内科 文部教官・助手
【専門分野】消化器内科,特に内視鏡診断・治療
【資格】日本消化器内視鏡学会指導医,日本消化器病学会専門医,
    日本内科学会認定医

【はじめに】
 昭和38年(1963年)に国産の胃ファイバースコープが生まれ,その翌年には生検が可能になりました.昭和43年(1968年)には丹羽らによって胃ポリープの内視鏡的摘除の学会報告がなされています.それから約40年経った現在,日本は消化器内視鏡を用いた検査,治療では他国の追随を許さず,世界のトップを独走しています.特にこの数年間は,ダブルバルーン小腸内視鏡や内視鏡的粘膜剥離術など,新しい内視鏡機器や治療手技が日本で開発され,消化器内視鏡分野における革命となりました.
 今回の市民公開講座では,最新の治療手技を含めて,今,内視鏡を用いて何ができるのかを講演し,皆様に医学の進歩を享受し,今後の健康維持に役立てていただきたいと考えております.数ある内視鏡治療の中でも特に,消化性潰瘍と消化器癌に対する内視鏡治療に重点を置いて話をさせていただきます.最近の医学の進歩をご覧ください.
【出血性消化性潰瘍に対する内視鏡治療】
 昭和40年代までは,出血性消化性潰瘍の治療は外科的治療が一般的でした.昭和49年に胃酸を押さえる強力な薬が開発され,手術を回避できる症例が多くなりました.以後,潰瘍からの出血に対して内視鏡を用いた止血術も数多く開発されました.
 昭和50年にはクリップを用いた止血術が開発され,以後エタノール局注療法,レーザーやヒートプローブ,アルゴンプラズマを用いた焼灼療法など,多くの手技が開発されています.個々の治療手技について,実際の写真を提示しつつ,ご説明させていただきます.
【消化管腫瘍の対する内視鏡治療】
 胃癌は現在でも日本において最も頻度の高い癌の一つです.胃癌は早期に発見すれば,完治する疾患です.これまでの胃癌に対する内視鏡治療は治療可能な腫瘍の大きさの点で制限があり,ごく早期の癌であっても外科的治療を選択せざるを得ない場合がありましたが,最近開発された内視鏡的粘膜剥離術(ESD)は腫瘍の大きさに関わらず腫瘍の周辺部の粘膜を切開し,文字どおり腫瘍を“剥離”していく手技であり,大きな腫瘍も内視鏡治療が可能になった点で大きな変革をもたらしました.熟練を要する難易度の高い手技ですが,器具の改良が行われており,今後日本のみならず,世界で急速に普及する手技であると思われます.
 消化管の腫瘍の対する他の治療として,ポリープ切除術,内視鏡的粘膜切除術(EMR),またアルゴンプラズマを用いた焼灼術があります.症例によって,どの治療が適切かを判断します.ポリープ切除術やEMRはスネアと呼ばれる金属処置具で病変を絞扼し,通電することで腫瘍を切除します.アルゴンプラズマ焼灼術は,アルゴンガスをプラズマ化し,そこへ高周波電流を誘導することで組織の焼灼凝固を行う方法です.それぞれの治療法について概説いたします.
【早期発見,早期治療から癌の予防へ】
 これまでの癌に対する治療戦略は,早期発見,早期治療が原則でした.消化性潰瘍に対する薬物および内視鏡治療は格段に進歩しましたが,再発しやすいという難点がありました.1982年にピロリ菌が発見され,消化性潰瘍の主な原因であるということ,除菌治療をすることによって潰瘍の再発は低く抑えられることがわかってきました.昨年度のノーベル医学・生理学賞は,このピロリ菌を発見したオーストラリアの研究者2名に授与されました.
また,最近ではピロリ菌と胃癌との関連が指摘されており,ピロリ菌のなかでも毒性の強い菌の多い我が国では,一生の間に20人に1人の割合で胃癌を発症すると言われています.福井大学では,全国に先駆けてピロリ外来を設置し,慢性胃炎に対しても除菌治療を行い,ピロリ菌の除菌治療の胃癌に対する抑制効果を確認する研究を行っております.これらピロリ菌に対する我々の取り組みについても簡単にお話させていただきます.

2.内視鏡で治そう胆道・すい臓の病気
福井大学医学部附属病院 光学医療診療部 助手 須藤 弘之 先生
【略歴】平成 4年 3月 福井医科大学医学部 卒業
    平成 4年 4月  同   上    第二内科 入局
    平成12年 3月  同   上    大学院 修了(医学博士)
    平成12年 4月 福井社会保険病院内科医長
    平成14年 4月 福井医科大学医学部 第二内科 文部教官・助手
    平成14年 8月 米国ワシントン大学医学部 博士研究員(米国留学)
    平成16年 7月 福井医科大学医学部 第二内科 文部教官・助手
    平成16年10月  同   上    光学医療診療部 文部教官・助手
【専門分野】消化器内科,特に内視鏡診断・治療,ヘリコバクター・ピロリ感染症
【資格】日本消化器内視鏡学会指導医,日本消化器病学会専門医,
    日本肝臓学会専門医,日本内科学会認定医

胆道(胆のう・胆管),膵臓の病気の概略と内視鏡(カメラ)を使った治し方(治療法)について話をさせて頂きます.以前は手術で治療していた病気に対して,最近は内視鏡を用いて身体の負担のより軽い治療が行われてきております.
1)胆石,特に総胆管結石
概念と症状:胆管内にできる結石のこと.胆管に炎症を起こすと,悪寒を伴う高熱・右上腹部痛・黄疸(皮膚が黄色くなる)などの症状が出ます.時に重篤になり,死の危険もあります.
内視鏡治療:十二指腸乳頭部(胆管の出口)を切開(『内視鏡的乳頭切開術』)し,結石を砕いて取り除きます.時にプラスチックのチューブを胆管に入れて,胆汁の流れを良くする(『内視鏡的胆道ドレナージ』)こともあります.
2)胆道の悪性腫瘍(胆管癌・胆のう癌)
概念と症状:胆道に発生する悪性腫瘍.癌が大きくなると,腹痛や黄疸などの症状が出ることがあります.
内視鏡治療:黄疸が出ているような場合は癌の影響で胆汁の流れが悪くなっているので,プラスチックのチューブや“ステント”と呼ばれる筒状の管を胆管に入れて(『内視鏡的胆管ステント留置術』),胆汁の流れを良くします.
3)膵炎
概念と症状:膵臓の炎症性疾患で,アルコールの過剰摂取や胆石が主な原因です.みぞおちや背中の痛みを来し,アルコールや脂っこい食事で痛みが強くなります.
内視鏡治療:胆石が原因の膵炎の場合,『内視鏡的乳頭切開術』を行い,結石を砕いて取り除きます.またまれに,膵臓の液を外部に流出させる『内視鏡的膵管ドレナージ術』が行われることもあります.
4)膵臓癌
概念と症状:膵臓に発生する悪性腫瘍.癌が大きくなってくると,みぞおち,背部の痛みや体重減少,黄疸などの症状が出ます.
内視鏡治療:黄疸が出ているような場合,『内視鏡的胆管ステント留置術』を行います.

3.腹腔鏡で治そうおなかの病気
福井大学医学部・第一外科 講師 飯田 敦 先生
【略歴】昭和63年 3月 福井医科大学医学部 卒業
    昭和63年 4月 同   上    第一外科 入局
    平成 6年    同   上    大学院 修了(医学博士)
             福井循環器病院  消化器科医長
    平成 8年    福井医科大学医学部 第一外科 文部教官・助手
    平成10年    シダース・サイナイ メジカルセンター 外科フェロー
    平成11年    福井医科大学医学部 第一外科 文部教官・助手
    平成14年    福井医科大学医学部 第一外科 文部教官・講師
【専門分野】消化器外科,内視鏡外科
【資格】日本外科学会認定医・専門医・指導医,日本消化器外科学会認定医・専門医・指導医,日本消化器病学会認定医・専門医,日本消化器内視鏡学会認定医・専門医・指導医日本内視鏡外科学会技術認定医
日本内視鏡外科学会 評議員,米国内視鏡外科学会(SAGES)International member,
日本消化器病学会 北陸支部 評議員,日本消化器内視鏡学会 北陸支部 評議員

腹腔鏡とは腹腔(おなかの中)を見る内視鏡です.1988年より,おなかの手術が必要な病気に対して,おなかを大きく切らずに腹腔鏡を用いて手術治療ができる方法が開発され,進化してきています.おなかのキズが小さいことは,みかけ(整容性)がよいばかりでなく,術後早期の回復にも優れ,患者さんにやさしい手術として世界中に普及してきています.代表的な手術が「ラパコレ」と略される腹腔鏡下胆嚢摘出術です.重症の胆嚢炎・胆管炎に進行する前の胆石は,ほとんどがこのラパコレで治療可能となっています.また,大腸癌や早期胃癌でも進行程度により腹腔鏡下手術が可能です.十二指腸潰瘍が破れて腹膜炎になった状態でも発症直後であれば体にやさしく有効な治療ができます.特殊な器具,技術を要しますが,日本内視鏡外科学会技術認定医という指導医の一つの目安もあります.福井大学附属病院ではいずれも取り揃えて安全で質の高い治療を目指しています

【講演内容講評医】

伊藤先生には胃腸疾患全般における内視鏡治療についてお話頂きました.胃潰瘍などに代表される吐血をきたす出血性病変に対する内視鏡止血術やコインなどの異物を飲み込んでしまった時の内視鏡による異物摘出術など広範囲にわたる治療法について解説して頂きました.特に胃癌に対する内視鏡治療については従来の粘膜切除術(EMR)から最近話題の粘膜切開剥離法(ESD)までわかりやすく解説して頂き,内視鏡切除可能な現代における癌の早期発見の重要さを強調して頂きました.
須藤先生には胆のう・胆管と膵臓疾患に対する内視鏡治療についてお話頂きました.胆のう・胆管,膵臓の解剖とその生理機能に関する解説を導入として,特に総胆管結石を内視鏡にて十二指腸内へ取り出す治療法や癌などのよる閉塞性黄疸を軽減させる内視鏡的ドレナージ法については実際の治療手技をビデオでご紹介頂き,一般の方々にはなじみの薄い領域のお話を視覚に訴える形でわかりやすくご講演頂きました.
飯田先生には腹腔鏡による治療全般についてお話頂きました.外科医の立場から腹腔鏡手術が開腹手術と比較して優れている点についての解説から,胆のう結石に対する腹腔鏡下胆のう摘出術を始めとして,胸やけを引き起こす逆流性食道炎の原因でもある食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡治療,食道の出口が狭くなり食物が通りにくくなるアカラシアに対する治療法など多岐にわたり詳細にお話頂きました.

第2部では講師の先生方を回答者として“おなかの病気・何でも相談”を行いました.第1部終了時に参加者に記載して頂いたアンケート用紙の質問コーナーから抜粋した内容に対して講師の先生方に専門的立場からわかりやすくご回答して頂きました.また,フロアーからも直接にご指名の先生への質問も多数飛び出し,大変実りある相談コーナーとなりました.

【アンケート集計結果】

参加者の皆様にご協力して頂き,本市民公開講座に関するアンケート調査を行いました.
アンケート内容には講演に関する質問のほか,講演開始前や休憩時間に繰り返しビデオでご紹介したヘリコバクターピロリ菌に関する質問にもお答え頂きました.





【講演内容の理解度】

1.「内視鏡で治そう胃腸の病気」について


2.「内視鏡で治そう胆道・すい臓の病気」について


3.「腹腔鏡で治そうおなかの病気」について


【ピロリ菌に関するアンケート】
1.ピロリ菌の認知度


2.ピロリ菌についてどこで(何で)知ったか(複数回答)


3.ピロリ菌の検査を希望するか


4.ピロリ菌の除菌希望者(ピロリ菌検査希望者の内)


アンケート結果から今回の参加者はやや女性が優位で,年齢は各年代に平均的に分散し,開催会場である永平寺町だけでなく広範囲の地域から参加して頂いたことがわかりました. 講演内容の理解度も満足できる結果であったと考えられました.また,一般の方々のヘリコバクターピロリ菌の認知度,除菌治療への関心の高さも今回のアンケート結果から伺い知れました.

【おわりに】
日本消化器病学会北陸支部主催第36回市民公開講座の世話人を仰せつかり,「ここまでできる内視鏡治療 ―内視鏡で治そうおなかの病気―」をテーマにスタッフ共々,実りある市民公開講座にするべく鋭意尽力致しました.おかげさまで多数の市民の皆様のご参加を得て,何とか無事に本市民公開講座を終えることができました.この機会をお借りしまして本会開催に携わって頂いたすべての方々に深謝致します.

 

図  表 

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図1

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図6