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九州支部

ここまできた小腸の検査

児玉眞由美(宮崎大学第2内科)


【小腸とは?】

私達が食べた食物は,食道,胃,小腸,大腸などの消化管という長い管を通して,消化・吸収されていきます(図1).その中でも,小腸は栄養の吸収を一手に引き受けている大事な臓器で,小腸の表面をおおっている絨毛(じゅうもう)と呼ばれるビロード状の突起を広げるとその面積はテニスコート1面分になると言われています.さらに,免疫(体を外敵から守る働き)をつかさどるリンパ組織でもあります.
小腸の位置は,胃と大腸の間にあり口や肛門から遠く,長さは6~7メートルもあります.胃につながる最初の25~30センチが十二指腸で,続いて口側が空腸(くうちょう),肛門側が回腸(かいちょう)と呼ばれます.胃や大腸は所々でおなかの内側に固定されていますが,小腸は固定されておらず自由に動き,長く曲がりくねっている構造のため内視鏡による精密検査が難しい臓器でした.そのため『暗黒の臓器』と言われてきました.

【これまでの小腸の検査は?】

以前はバリウムなどによる小腸造影検査が中心で,小腸内視鏡としては1970年台にプッシュ式,ロープウエイ式,ゾンデ式の3つの方式が開発されました.
プッシュ式は,長い内視鏡をスライディングチューブと呼ばれる筒を通して挿入し押し進めていきます.しかし,腸が伸びてしまったり急カーブを通過できなかったりして,観察できるのは長い小腸の一部分(上部空腸まで)に限られていました.
ロープウエイ式は前もって消化管内を通過させた長い紐(ひも)で内視鏡を誘導して挿入します.小腸全部を見ることが可能ですが検査準備に非常に時間がかかります.
ゾンデ式は細くて柔らかい内視鏡を鼻から挿入し,小腸を自然に通過するのを待って小腸を観察します.苦痛は少ないのですが見ることしかできず,組織の一部をつまんだり(生検といいます),ポリープを取るなどの処置はできませんでした.現在一般的に使用されている内視鏡は上下左右に内視鏡の先を動かすことができますが,ゾンデ式の小腸鏡は上下に動かすことしかできませんでした.
これらの小腸内視鏡は,検査を受ける患者さんの苦痛や検査の不確実性から限られた場合以外には行われず,以降,小腸の内視鏡検査は30年近く進歩していませんでした.他の部位の内視鏡が日々進歩する中,内視鏡の分野で小腸は忘れられた存在となっていました.

【新しい小腸鏡】

しかし,2000年に至って小腸の内視鏡にめざましい進歩がありました.2000年に夢の内視鏡であったカプセル内視鏡がイスラエルのギブンイメージング社により開発され,2001年には自治医科大学の山本博徳先生によってダブルバルーン内視鏡が考案され2004年フジノン東芝社により発売されました.これまで暗黒の臓器と呼ばれていた小腸が一躍脚光を浴びるようになり,現在では消化管検査の中でも話題の中心となっています

【カプセル内視鏡】

内視鏡検査といえば吐き気や痛みのあるつらい検査との印象があるかもしれませんが,カプセル内視鏡はカプセル型の小さな内視鏡(図2)を,錠剤のように少量の水といっしょに口から飲み込み,半日ほど普通に過ごすだけ(図3)で検査が終了します.2001年にヨーロッパ諸国やアメリカで相次いで認可され,これまでに世界で26万件以上の使用実績があり既に世界各国で広く行われている検査です.
日本でも2003年に臨床試験が終了し,2007年4月ようやく輸入販売が承認されました.
日本のオリンパス社もカプセル内視鏡を開発しており,大きさは長さが26ミリメール,直径が11ミリメートルで,口から飲み込んだカプセル内視鏡は消化管の自然な動きによって移動していきます.内蔵されたカメラが1秒当たり2枚の画像を6~8時間撮影し,画像データは体の外に送信されます(図4).カプセル内視鏡は,チューブ型の内視鏡とくらべて飲みやすく,患者さんの体への負担がかなり軽減されます.しかし,内蔵されたバッテリーのパワーと作動時間の問題,見たい部位へカプセルを誘導することができないこと,それから組織の採取やポリープ切除などの処置ができないなど課題も残されています.また,腸に狭いところがあると引っかかってしまうことがあり,手術やダブルバルーン内視鏡でカプセルを回収しなければなりません.これらの問題を克服し,現在普及しているチューブ型の内視鏡に近づくのはまだまだ先のことになりますが,バッテリーレスでさらに小型にしたものや,カプセルの向きや動きを体の外からコントロールすることができるものなど,さまざまな研究開発が進められています.将来的には病変のあるところにカプセル内視鏡を誘導し薬剤をまいたり,ポリープやガンを切除したりといった処置も可能になると考えられています.

それでは全小腸の観察ができ,さらに胃や大腸のように組織をつまんだりポリープを取ったりすることはできないのでしょうか?それを実現したのがダブルバルーン内視鏡です.

【ダブルバルーン内視鏡】
従来のプッシュ式の小腸鏡では,内視鏡が小腸内に50センチから1メートルはいったところで,先に進まなくなります.理由は小腸が伸びるためです.それでは小腸が伸びないようにするためには,何かで腸をおさえればよいのでは?筒に風船状のバルーンをつけてバルーンで腸管をおさえて,その中をとおして内視鏡をすすめればよいのでは,と開発されたのがダブルバルーン内視鏡です(図5).内視鏡をオーバーチューブと呼ばれる筒の内側に通して二重構造にし,内視鏡と筒を尺取り虫のように交互に進ませる方法です(図6).内視鏡と筒の先端にはそれぞれバルーンを付け,空気を入れて膨らませると腸管の内壁に密着して腸が固定できるようになっています.また先端を腸管に固定して内視鏡と筒を手前に引くと,内視鏡が入っている部分の小腸は縮み,先の部分はまっすぐになるので,内視鏡を進めやすくなります.これを繰り返すことで,わずか長さ約2メートルの内視鏡で小腸全体をみることができます.小腸全部をみるためには口からと肛門からの2回検査を行います.1回の検査で小腸の1/2から2/3を観察し印をつけます.2回目に反対の方向から検査し,前回つけた印を確認できれば全小腸が観察できたことになります.
現在市販されているダブルバルーン内視鏡は3種類で観察用と処置用,そして長さの短い大腸用があります.処置用の内視鏡では組織をつまんだり,色素をまいたりに加えて,クリップなどの血止めの処置,ポリープ・腫瘍をとる,狭いところを広げるなどといったさまざまな治療を行うことが出来ます.(図7)また,引っかかったカプセル内視鏡やその他の異物などもダブルバルーン内視鏡で回収することができます.これまでなら手術になっていた患者さんが内視鏡で治療できる場合も出てきたのです.さらに,ダブルバルーン内視鏡は大腸が長く伸びやすい方の大腸検査にも応用され,苦痛が少なく短時間で全大腸内視鏡検査が行えるようになりました.また,胃や腸が複雑につなげられた手術後の消化管では,通常の内視鏡やカプセル内視鏡が到達できない場所があります.そんな場合でも,ダブルバルーン内視鏡を用いることで検査や処置が可能になりました.このようにダブルバルーン内視鏡は比較的苦痛が少なく,全小腸の観察のみならず処置や内視鏡治療へ応用できる画期的な検査法なのです.
ダブルバルーン内視鏡の適応(表1
ダブルバルーン内視鏡の偶発症(表2

【それぞれの長所をいかして】
カプセル内視鏡は検査に伴う苦痛や時間的制約が少ないという利点がある一方,カプセルが使い捨てであるため検査費用が高価となり,1検査あたり2名の医師による6万枚程度の画像解析が必要で時間と労力も要します.また,ダブルバルーン内視鏡に比べると診断能がやや劣るとも言われており,処置や治療は行えません.
一方,ダブルバルーン内視鏡は患者さんの経済的負担が軽く,診断能にすぐれ処置・治療が可能ですが,カプセル内視鏡よりは検査に伴う身体的負担が大きく,検査に医師2名,看護師1名以上の人手と場所が必要で,検査時間も1時間半程度かかります.
今後はそれぞれの長所をいかして,カプセル内視鏡は病気の拾い上げ検査として,ダブルバルーン内視鏡は精密検査や治療が必要な場合の検査に用いられるようになって行くと考えられています.
そして,さらに研究開発が進んで小腸内視鏡が進化し,近い将来,映画やアニメで見たSFの世界が現実のものとなる日が来るかもしれません.

 

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

表1

表2