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東北支部

検診で「脂肪肝」−安全?危険?

後藤 隆(秋田大学医学部消化器内科)


【はじめに】

最近,家庭の体重計でも簡単に体脂肪率を測定できるようになりました.テレビや雑誌でも内臓脂肪症候群など生活習慣病としての内臓脂肪沈着が注目されています.臓器脂肪沈着の大きな舞台である肝臓,その脂肪沈着した状態である脂肪肝についてお話しいたします.

【脂肪肝の診断】

脂肪肝とは肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態であり,医学的には肝臓内の肝細胞の30%以上に脂肪空胞が認められる状態をいいます.肝臓の組織をとって調べてみると矢印のような空胞が認められ,これが脂肪の沈着であり,それが多くを占めた状態が脂肪肝と診断されます(図1).しかし,肝臓の組織を検討するためには,肝臓に針を刺して組織を採取しなければならず,この検査は患者さんに侵襲を伴うため,簡単には施行できません.そこで痛みがなく,間接的に脂肪肝の有無を簡単に診断する検査として,腹部超音波(エコー)検査があります.エコー検査でみますと正常の方では,楕円形に見える右腎臓の外側の部分の黒さと肝臓の黒さはほとんど同じ程度ですが,脂肪肝になると肝臓が白く見えるようになり,その分の黒白の差(医学用語では肝腎コントラスト)が明らかとなって脂肪肝と診断できます(図2).皆さんの中にも人間ドックのエコー検査で脂肪肝を指摘された方はいませんか.人間ドック受診者の20−30%が脂肪肝との報告もあり意外と脂肪肝のかたは多いようです.また,CTでみますと脂肪肝では,脾臓に比較して肝臓が黒くなってくるのが特徴です(図3).さらにCTでは,皮下脂肪や内臓脂肪(図4)もわかりやすく描出され診断の助けとなります.

【脂肪肝の原因】

脂肪肝の原因としては大きくアルコール性のものと非アルコール性のものに大別されます.さらに非アルコール性の原因としては,肥満,糖尿病,高脂血症,一部の薬剤(タモキシフェン,ステロイド,テトラサイクリンなど),栄養障害などがあげられます.
最近の我々の検討では,秋田県の場合,肝疾患に占めるアルコール性肝障害の割合が高率です.これは,秋田県は成人のアルコール消費量が日本でも有数に高いためだと考えられています.慢性肝疾患の進行した状態に肝硬変があります.一般的に肝臓は沈黙の臓器といわれ特徴的な症状はでにくい臓器です.しかし肝硬変になると,白目が黄色になる黄疸,手のひらが赤くなる手掌紅斑,前胸部に毛細血管の拡張像を認めるクモ状血管腫,おなかが腫れてくる腹水,男性でもおっぱいがはれてくる女性化乳房など特徴的な身体所見を観察することができます(図5).日本全体でみますと肝硬変の原因はC型肝炎ウイルスによるものが66%,B型肝炎ウイルスによるものが12%で,アルコール性の割合は13%です(図6)が,秋田県の場合アルコール性の割合が22%と非常に高率です(図7).
医学的には,お酒飲みのことを常習飲酒家といいます.常習飲酒家は,日本酒換算で1日あたり3合以上を5年以上飲みつづけている人です.また,大酒飲みのことを大酒家といい,日本酒換算で5合以上を10年以上つづけて飲んでいる人です.さらに積算飲酒量が100%アルコールに換算して1トンを超えると肝硬変になる確率が高くなると言われています.もし1日5合の日本酒を毎日飲んでいる大酒家の方であれば20数年同じように飲酒を続ければ,肝硬変へ進んでいる可能性が高くなります.
このようなアルコール性肝硬変の初期の段階にアルコール性脂肪肝があります.できればこの段階で対策をとりたいものです.
アルコール性脂肪肝の場合,第一に,節酒や禁酒によって過剰な飲酒を抑制することが重要です.「わかっちゃいるけどやめられない」ではなくて,肝硬変になる前にお酒を控えること,自分の適量を体に覚えさせることが重要です.一方,非アルコール性の原因としては肥満が重要です.BMI 25〜30kg/m2の軽度の肥満では50%に脂肪肝が認められ,BMI 30kg/m2以上の高度肥満ではなんと75%に脂肪肝が認められるとの報告があります.肥満以外の脂肪肝の原因としては,糖尿病,高脂血症が代表的です.ここで何か思い浮かぶことはありませんか.そうですメタボリックシンドロームです.最近よく生活習慣病の代表格としてこの疾患群が注目されています.

【脂肪肝とメタボリックシンドローム】

現在,日本のメタボリックシンドロームの診断基準(図8)では,ウエスト周囲径の増加と,高トリグリセライド血症,高血圧症,高血糖のいずれか2項目を満たすことで診断されます.内臓脂肪症候群の危険因子ということになりますが,肝臓も内臓脂肪を蓄える重要な臓器ですから,このメタボリックシンドロームの予防が脂肪肝の予防に重要なわけです.日本では中高年の940万人がメタボリックシンドロームであり,さらにその予備軍が1020万人いると推定されていますので,さらなる脂肪肝の増加に注意が必要です.メタボリックシンドロームになりやすい生活習慣としては,暴飲暴食,過剰な間食,過剰な糖分摂取,濃い味付け,緑黄色野菜の不足,運動不足などがあげられます.そのためメタボリックシンドロームを防ぐための生活習慣の注意点として,適正体重を維持する(具体的には,BMI:体重(kg)/身長(m)2を25未満に保つ),野菜や乳製品や豆類などをしっかり食べてバランスのとれた食事を心がける,規則正しい食事を心がける,脂肪のとりすぎに気をつける,塩辛い味付けはさける,ジュースやお菓子や清涼飲料など糖分の多い食事を食べ過ぎない,毎日適度な運動をする,十分な睡眠や休養をとることが重要であります.

【脂肪肝と非アルコール性脂肪性肝炎】

これまで脂肪肝は,ほとんど進行せず重篤な病態にはならないと考えられていて,臨床的にあまり注目されていなかったかもしれません.しかし,非アルコール性脂肪性肝炎NASH(ナッシュと発音します)という疾患概念が提言されて注目されています.非アルコール性脂肪性肝炎では,肝臓に脂肪の蓄積だけでなく,炎症を伴い,慢性の肝障害が進行し,末期には肝硬変や肝癌へと進行することがあります(図9).日本の肝硬変の原因としても原因不明のものが数%あります.これまではその原因として,新たな肝炎ウイルス(G型肝炎ウイルス,TTウイルス,SENウイルス)や非定型の自己免疫性肝炎が候補として考えられました.新たに,肝硬変の原因の候補としてこの非アルコール性脂肪性肝炎が挙げられています.非アルコール性脂肪性肝炎の診断は,非飲酒者であること(エタノール換算1日20g以下),病理組織学的に脂肪性肝炎を認めること,他の肝障害の原因を認めないことにより診断されます.日本における非アルコール性脂肪性肝炎症例総数について西原らは,非アルコール性脂肪性肝炎症例に占めるBody mass index: BMI≧30の割合が36%であることから,非アルコール性脂肪性肝炎全体では100万症例に達すると推定しております.非アルコール性脂肪性肝炎が埋もれている可能性があり,非アルコール性脂肪性肝炎の疾患概念に対する認識の向上が重要であると考えられています.脂肪肝の方が,高齢,高度の肥満,糖尿病合併,AST(GOT)/ALT(GPT)比が1以上,血小板低値,ヒアルロン酸高値(肝臓の線維化が進行している可能性)の場合,非アルコール性脂肪性肝炎が進行していることが危惧されますので,できれば肝臓の組織検査をして肝組織の変化を把握していただきたいと思います.もし肝生検の機会がなく,厳密には非アルコール性脂肪性肝炎の診断がついていなくとも,このような検査値の変化がある場合は厳重に生活習慣の改善を試みるべきです.

【脂肪肝予防の生活習慣改善のポイント】

脂肪肝の治療は,その原因により異なります.アルコール性の場合は,とにかく節酒,禁酒が一番になります.非アルコール性の場合は,肥満,高脂血症,糖尿病が原因であれば,食事療法,運動療法をもとに高脂血症,糖尿病の薬物療法が必要になります(図10).ただし,急激な体重減少は,かえって脂肪肝の悪化をまねくことがあるため,1ヶ月に2〜3kgの体重減量を目標としましょう.食事療法のこつは,第一に,ごはん,くだもの,おやつ,ジュースを減らすことにあります.具体的には,一食にご飯はお茶碗に軽く一杯とします.味付けはうす味にします.また,甘いものや間食の習慣をやめるようにします.お菓子,缶ジュース,ペットボトル飲料,アイスクリームなどのとり過ぎに注意します.油っこい料理を減らします.良質のたんぱく質,新鮮な野菜はきちんと食べるようにします.これは,食物繊維が便通を整え,便とともにコレステロールを排泄すると考えられているためです.食事の取り方の工夫としては,三食きちんととり,夕食は軽めにします.食物はゆっくりよくかんで食べます.揚げ物,炒め物より,「ゆでる,煮る,蒸す」料理を多くとるようにします.運動療法は中性脂肪やVLDLを減少させ善玉コレステロール(HDL)を増加させる効果が期待されます.肝臓に溜まった中性脂肪を減らすには,食事療法と運動療法の両者を組み合わせて行うことが効果的です.脂肪を燃やしてエネルギーとして利用するために,歩行・ランニング・水泳など酸素を十分に取り込んで全身の筋肉を使う運動(有酸素運動)が効果的です.運動中,汗はかくが,運動しながら会話ができる程度の強さの運動が理想的です.歩行のときは,姿勢を正して,歩幅を大きくリズミカルに歩くことが大切です.できれば一日30〜60分は,時間を決めて歩きましょう.食事の直後の運動は避けて,早朝か夕方に歩きましょう.一日7000歩(4km:一時間)以上歩くことを目標とします.少なくとも5000歩(3km)は歩きましょう.日々の生活のなかでもなるべく積極的に歩くよう工夫しましょう.例えば,会社ではできるだけエレベーターを使わないようにし階段の上り下りを行うようにします.

【終わりに】

脂肪肝は,アルコール性にしろ,非アルコール性にしろ,生活習慣と密接に関連します.生活習慣を再考し,脂肪肝を予防することは非アルコール性脂肪性肝炎など慢性の肝疾患の進行を予防することになることはもちろん,メタボリックシンドロームのような生活習慣病対策にも通じます.脂肪肝の有無は体の健康の一つの鏡となるものですから検診で指摘された場合は十二分に注意し,早めに対策を練って肝臓の脂肪をのぞくことが大切です.

 

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10