一般のみなさまへ for citizen

東海支部

苦痛の少ない検査

後藤秀実(名古屋大学消化器内科)


近年,工学系の技術の進歩がCTscan,PET,MRIなどの医療機器に導入され,医療機器の発展は目覚しいものがある.この状況は消化器疾患の診断や治療にも当てはまり,内視鏡や腹部超音波などの光学医療機器の発展には目を見張るものがある.我々医師はその進歩を難しい診断・治療に応用し,正確かつ安全な治療を開発することとも重要であるが,むしろ患者さんに対しては楽な検査すなわち苦痛の少ない検査を開発していくことの方が必要と思われる.検査を楽にすることにより,患者さんの定期検査を増やし,それが早期発見に繋がり,その患者さんは低侵襲の治療を受けられるという利点をもつ事になる.
本稿では,消化器疾患における現在の診断・治療法について述べるとともに医工連携によってさらに発展すると思われる将来の診断・治療法についても言及したい.

【食道・胃疾患の診断・治療】

最近,患者さんにとって苦痛が少ないという理由から,鼻から内視鏡を挿入する経鼻内視鏡検査(図1)が臨床の場で使用されることが多くなってきた.確かに検査中も会話ができ,口からの経口内視鏡検査で最も苦痛である咽頭の通過が,麻酔なしでも(麻酔をしている施設もある)楽に挿入できるという利点を持つ.実際ある施設でのアンケート調査でも経口内視鏡検査経験患者のうち約80%の人が,次回の検査では経鼻内視鏡検査を希望するとの結果も出ており,各施設においてその導入に対処しているのが現実である.しかし,このように拡がりつつある経鼻内視鏡検査ではあるが,その麻酔法や挿入法,あるいは鼻出血などの合併症が出現した場合の対処法などの統一化したマニュアルなどがまだ作られていないのが現状であり,その普及に併せて早急に標準化した方法と対策を整備する必要があると思われるし,また実際作られようとしている.経鼻内視鏡のもう一つの問題点は画質が経口内視鏡より劣ることである.このことは癌などの早期発見が遅れることにも繋がる重要な問題である.現在経鼻内視鏡を施行されている先生方は,色素を用いたり,ゆっくりと丁寧に観察する方法で,その欠点を補われているので心配はないと思われるが,検査が拡がるにつれ解決しなければならない問題が出てくるのではないかと心配している.その他の問題では,胃の中の水を吸う力や空気を挿入する力が経口内視鏡に比べ3分の2程度であるので,その分検査時間が長くかかるなどの問題が存在する.しかし,楽な検査ということで患者さんの要望も強いことから,今後スクリーニング検査として汎用されることが予想されるため,患者さんにとって楽であるとともに問題のない内視鏡になるように努力したい.
一方,外国では食道用のカプセル内視鏡が開発され,すでに実用化に向け研究されている(胃に対するカプセル内視鏡はまだ開発されていない).1秒間に14枚(最新の内視鏡では18枚)を撮影する技術など,小腸用のカプセル内視鏡に比べ技術は進んでいる.外国ではバレット食道癌が多く,その発生部位も食道・胃接合部であるので食道用のカプセル内視鏡でも充分に対応できるが,日本に多い中部や下部食道の扁平上皮癌が発見できるか否かは非常に心配である.今後の発展を期待するが,日本では上部の内視鏡検査を比較的患者さんが苦痛もなく受けられることが多いので,将来実用化された場合の検査価格などを考えた場合あまり期待できないと思われる.
食道,胃癌の治療法は,ここ数年間で最も進んだ技術である.方法が従来のスネヤー(径2cmほどの丸いワイヤー)を用いて隆起したポリープを切除するポリープ切除術,あるいは扁平や陥凹した病変を切除する内視鏡的粘膜切除術から大きな病変でも切除できる内視鏡的粘膜下層剥離術に変わってきた(図2).内視鏡的粘膜切除術や粘膜下層剥離術の特徴は,粘膜下層に生理食塩水などの液を内視鏡を通して注射することにより,扁平あるいは陥凹の病変をポリープ様に隆起させることである.この方法が各施設に拡がったことにより,早期胃癌の内視鏡治療は大きく進んだ.しかし,切除できる癌の深さの問題や技術の難しさなど種々の問題を抱えていることも事実である.今後医工連携を通じて,安全でかつ容易な内視鏡的粘膜下層剥離術を開発したい.実際胃あるいは大腸などの管腔から虫垂切除などが行われる方法が外国では開発されようとしており,楽な治療法も近い将来期待がもてると思われる.

【小腸患の診断・治療】

最近2-3年で最も診断・治療が進んだ領域が小腸である.以前は口からあるは肛門から共に約1.5m中に存在し,しかも長さが約7mと長いことからも,内視鏡で内部を観察することは非常に困難で,そのような理由からも暗黒大陸と呼ばれていた.3-4年前に外国からはカプセル内視鏡が,日本からは自治医科大学の山本先生が考案されたダブルバルーン内視鏡が登場し,7mという長い小腸が内視鏡で観察できることが可能となった.当科ではカプセル内視鏡は150例ほど検査を施行し,ブルバルーン内視鏡は350例ほど検査を施行しているのでその経験について述べると共に今後の展望についても述べたい(図3).
カプセル内視鏡は26x11mm(3.7g)の大きさで,口から飲み込んで,食道,胃,小腸,大腸と進み肛門から体外へ排出されるディスポーザブル(1回しか使用できない)な内視鏡である.2007年4月に日本で承認され使用ができるようになったのは小腸用のカプセル内視鏡のみである.当科で施行した150例ほどの患者さん(高齢者も含む)のすべてがカプセル内視鏡を簡単に飲み込むことができたので,飲み込むことには問題はないと思われる.胃を平均30分ほど(中には数分で通過,あるいは最高4-5時間停滞した患者さんも見えた)で通過し,小腸に入っていく.小腸は平均5時間ほどで通過し,次に大腸へ入っていくが,当科の経験では全小腸を観察できたのは80%弱である(表1).この結果からも人の腸管の動きは様々であることがよくわかる.当科でカプセル内視鏡が最も多く使用されている疾患は不明出血である.すなわち,上部内視鏡検査や大腸内視鏡検査を施行しても原因がわからない出血あるいは貧血患者さんである.カプセル内視鏡は絶対にイレウス(腸閉塞)の患者さんやクローン病の患者さんに対しては施行してはいけないことになっている.その最も大きな理由がカプセル内視鏡の滞留(小腸内で止まってしまって出てこないこと)である.大部分はブルバルーン内視鏡で回収できると思うが,一部は外科的手術になる可能性もあり,使用には充分に注意している.カプセル内視鏡でわかったことは数々ある.小腸出血の原因,小腸腫瘍,潰瘍性病変などが発見されている.今までは限られた施設でしかできなかったが,保険認可により多数の施設でできるので,今以上に小腸疾患が診断されると思っている.
一方のダブルバルーン小腸内視鏡は,苦痛の少ない検査というよりは精密検査である.楽な検査の代表であるカプセル内視鏡で病変を疑い,このダブルバルーン小腸内視鏡検査で確かめていくことが最も理想的な小腸検査法である.しかし,従来のプッシュ小腸内視鏡に比較し,楽に全小腸を観察できることは,これも楽な検査法と言えるかもしれない.当然,検査中は静脈麻酔を使用して,患者さんは寝ている間に終わる検査法である.この検査の特徴は,やはり食道,胃,大腸などの疾患の場合と同じく生検ができることである.これを行うことによって病変自体の診断あるいは良・悪性が確実に診断できる.現在ではさらに発展し,小腸ポリープのポリープ切除やクローン病あるいは非ステロイド系抗炎症剤による小腸の狭搾などに対して内視鏡下でのバルーン拡張術などを行っている.このように小腸疾患に対しても,もはや胃あるいは大腸と同様に観察,生検,ポリープ切除,バルーン拡張術などが行われるような時代になった(図4).
今後さらにカプセル内視鏡とダブルバルーン小腸内視鏡を併用することにより多くの小腸疾患が発見されるとともに,疾患の病態の解明や薬剤などの開発など種々の点で発展していく分野と予想される.

【大腸患の診断・治療】

大腸の検査で最も進んだのはCTscanを用いたvirtual colonography&colonoscopyである.今まで大腸検査といえば内視鏡あるいはレントゲン検査により非常に苦しいというイメージがあったが,この検査方法は楽と言える.方法であるが前処置(便をなくす方法)は従来の大腸内視鏡あるいはレントゲン検査と同じく下剤によって1日で大腸内の便をなくすため苦しい前処置である(但し従来と変わらない).その後は,空気を大腸内に挿入し大腸を膨らませれば終了である.そして仰向け1分,腹ばい1分のCTscanによる撮影が行われる.その後は30分程度でCTによるcolonography&colonoscopyの像が作られ診断される(図5).この検査の特徴は,最大の利点は苦痛が少ないことであるとともに,従来より問題となっていた大腸癌症例で癌による狭搾部位より口側大腸(狭搾部位より奥の大腸)の情報が得られることである.しかし,その一方で生検あるいはポリープ切除などの治療がその場でできないというデメリットもある.いずれにしても今後CTscanの発展とともにさらに楽な検査になり,これらの問題点も解決できると思われる.まだ日本ではできないが外国では大腸用のカプセル内視鏡が実用化され始めようとしている.画像を見たが,非常に鮮明で価格の問題がなければ,使用したい検査法であるが,小腸用のカプセル内視鏡のことを考えれば日本で使用できるのは遠い将来と思われる.
治療に関しては上部消化管と同じく,従来のスネヤーを用いて隆起したポリープを切除するポリープ切除術,あるいは扁平や陥凹した病変を切除する内視鏡的粘膜切除術から大きな病変でも切除できる内視鏡的粘膜下層剥離術に変わってきた(図6).現在は大腸はポリープが多いため,まだまだポリープ切除が盛んに行われているが,次第に扁平や陥凹性の病変が発見されることが多くなり内視鏡的粘膜切除術や粘膜下層剥離術も各施設で行われ始めつつある.前述したようにこれらの方法の特徴は粘膜下層に生理食塩水などを内視鏡を通して注射することにより,扁平あるいは陥凹の病変をポリープ様に隆起させる方法であるが,大腸粘膜は薄いことから胃よりも注意を要する.大腸の場合特に横に拡がっていく病変も多く認められるので,今後の内視鏡的粘膜下層剥離術の大腸の早期腫瘍病変に対する臨床応用が期待される.

【拡大内視鏡】

CTscanなどによるvirtual colonography&colonoscopyについては前述したが,最近virtual pathologyという言葉をよく耳にする.virtual pathologyとは内視鏡観察を拡大することにより,生検をして病理診断を待つというプロセスを省き,その場で良性か悪性かを知りたいと思うことから開発された診断方法である.また,最近高齢者社会になり,患者さんも循環器疾患あるいは神経疾患などの合併症が多く,そのため低用量アスピリンやワーファリンなど抗血小板や抗凝固剤を服用されていることが多く,内視鏡中の生検が容易にはできなくなってきた時代でもある.その意味で拡大することにより,生検をしなくても良・悪性か否かを知ることは重要なこととなってきた.現在,通常拡大内視鏡(80倍),NBI(Narrow Band Image),共焦点内視鏡(1000倍)(図7),エンドサイトなどを用いて検討している.いずれこれらの画像を病理医に転送し,その場で病理医に見ていただき即時に診断できる体制作りが必要であると考えている.勿論,これらの機器がカプセル内視鏡に装備されることが最大の夢であるが,その実現は遠い.

【結語】
以上述べたように,消化器疾患の診断・治療が今大きく変わろうとしている.今こそ工学部を初めとする種々の分野と協力して,私が常にモットーとしている“検査は楽に,治療はより安全に”を目標とし,今後も新しい診断と治療法の研究・開発に取り組んでいきたい.

 

図  表 

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図1

図2

図3

表1

図4

図5

図6

図7