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中国支部

C型肝炎の新しい食事療法

岸本幸廣(山陰労災病院内科)


【今,なぜ新しい食事療法が注目されているのか】

今,なぜC型肝炎に対して新しい食事療法が注目されているのでしょうか.その答はこれから述べる講演の中にあります.

【C型肝炎の治療目標とは】

まず症例を呈示します.50歳代の男性です.下半身の腫れを訴えてH16年11月15日に受診されました.H13年に他の疾患で入院しておられ,その時C型肝炎を指摘されています.しかし,その後は医師の指導もないまま,また自覚症状もないため放置されていました.飲酒量は2合/日です.H16年10月25日頃より下半身の腫れに気付き,体重が10kg増加しました.当科初診時の身長は160cm,体重は70kgでした.貧血,黄疸は有りませんが,腹部は膨隆しており,肝臓を右季肋部に4cm触知しました.肝臓は硬く,また表面がごつごつした感じでした.なお,腹水はありませんが下肢に著明な浮腫を認めました.その時行った血液検査で,肝細胞癌のマーカーであるAFPとPIVKA-Ⅱが著明に上昇していました.腹部血管造影では,肝臓内に5cm大と2cm大の2個の肝細胞癌をみとめ,手術を行いました.現在まで,2回の再発を繰り返していますが,その度に治療を行いご健在です.そしてもう一例,60歳代の男性です.C型肝炎を指摘されておられ,一時期治療を受けていましたが,自覚症状が無いため途中4年間治療が中断したときに,肝臓に10cm大の巨大な肝細胞癌を発症しました.残念ながらこの患者さんの場合はその他にも2~3cm大の肝細胞癌が多発しており,十分な治療が出来ずにお亡くなりになりました.
このように,C型肝炎の患者さんは,肝癌発生の高危険群です.C型肝炎では,非感染者に比較して肝癌の発生率は2000倍です.B型肝炎では,非感染者に比較して500倍の肝癌発生率です.ちなみに,喫煙者の肺癌発生率は非喫煙者の3~5倍程度と報告されていますから,いかに肝炎ウイルスが肝発癌の危険因子であるか,ご理解いただけると思います.すなわち,C型肝炎の本質は穏やかな肝炎が休むことなく続き,最終的に肝癌が高率に発生することにあります.よって,肝癌にならないためにはC型肝炎を治療することが必要です.

【C型肝炎の薬物治療について】

C型肝炎の最終的な治療目標は,前にも述べましたように肝癌にならないため,そして健康人と変わらない生活をするためです.
治療方法としては,(1)ウイルスを完全に排除し,肝炎を治癒させる目的で,インターフェロン療法があります.(2)また,ウイルスは排除できなくても肝炎の炎症を抑制することによって,肝炎の進行を遅らせ,肝癌の発生を防ぐ方法として,インターフェロンの少量長期投与,肝庇護剤(ウルソデオキシコール酸など)の内服,グリチルリチン製剤の静脈注射法などがあります.1992年12月~2007年3月までに当科で行ったC型慢性肝炎に対するインターフェロン治療例は延べ309例でした.そのうち,最近開発されたC型肝炎ウイルス消失効果が高いと報告されている,ペグインターフェロン+リバビリン併用療法を行った症例は52例です.ペグインターフェロン+リバビリン併用療法例を除いた257例中,ウイルスの消えた方(著効)が67例(26%),ウイルスは消えなかったが,肝機能が安定した方(一過性有効)が46例(18%)でした.すなわち,残り56%の144例の方がインターフェロンの表向きの効果がありませんでした(無効)(図1).しかし,インターフェロン治療はウイルスが消失しなかったからといっても肝発癌抑制効果があります.すなわち詳しく分析しますと,インターフェロン療法を受けられたC型肝炎の方は,受けられなかった方より有意に発癌率が減少していました(図2).また,ペグインターフェロン+リバビリン併用療法52例中.現在効果判定が可能な症例は28例で,そのうちウイルスが消失した方が13例(46%)でした.しかし,それでも肝機能が改善しない方が5例(18%)おられました(図3).
さらに,医療現場では(1)高齢者社会になって,副作用のためインターフェロン療法が出来にくくなったり,インターフェロンの治療効果の減少が認められる,(2)インターフェロン療法の費用が高価である,(3)肝庇護療法で肝機能が安定しないなど十分な治療効果の認められない方がなお30%前後にみられ多くの問題が残っています.
そのため,最近新たな治療法の開発が求められ,C型肝炎に対する食事療法が注目されてきました.特に,鉄制限食が話題となっており,次にこのお話をします.

【C型肝炎に対する鉄制限食の背景】

鉄制限食の背景ですが,鉄は生体の主要金属であり,生体の維持に必須な元素です.また,肝臓は体内の鉄貯蔵の中心的臓器ですが,なぜかC型肝炎においては肝細胞に鉄の過剰沈着が認められています.この過剰沈着の鉄を介して活性酸素などといった酸化ストレスというものが生じ,その結果,肝細胞障害あるいは肝細胞の遺伝子の障害が発生して,C型肝炎の病態を悪化させるのです.そこで,インターフェロンをはじめとした,いろいろな薬物治療が有効でなかったC型肝炎の患者さんに肝臓内の鉄を少なくすると肝機能が良くなるのではという考えの基に,まず瀉血療法が行われました.瀉血とは体から血液を抜くことですが,1回に200~400mlの瀉血を数回行うことによって体を貧血状態にすると,鉄は赤血球の重要な構成成分ですので,貧血を是正するために肝臓内の貯蔵鉄が放出され,その結果肝臓内の貯蔵鉄が減少し,検査所見上確かにトランスアミナーゼなどの肝機能が改善しました(図4).しかし,この治療法は肝機能改善のためには良いのですが,現在保険の適応がないなど多くの問題点もあります.そこで,鉄制限食という治療法が考え出されました.

【C型肝炎に対する鉄制限食について】
一般に私たちは一日約10mgの鉄を食物から摂取しています.そこで,一日の鉄摂取量を6~7mgへ減少させるという,鉄制限食をする方法です.では,鉄制限食をするとその結果どうなるのでしょうか.インターフェロンあるいはその他の治療法で肝機能が軽快しなかったC型肝炎の患者さんが,鉄制限食を実施すると大部分の方がAST,ALTといったトランスアミナーゼの数値が改善します(図5).その結果,肝病変の進行が抑制されて,肝癌の発生を減少させると考えられています.鉄制限食の食事療法については主に栄養士さんに指導していただきますが,鉄を控えめに摂取するためのポイントがあります.(1)食品に含まれている鉄には,ヘム鉄と非ヘム鉄があり,ヘム鉄は体内に吸収されやすい.(2)動物性食品にはヘム鉄が多い.(3)肉は控えめに,特に鉄を多く含む牛肉,レバーには注意.(4)魚は赤身魚,青魚は鉄の含有量が多いので控えめに.白身魚は鉄の含有量が少ないのでしっかりと摂取する.(5)貝は鉄を多く含むので控えめに.(6)卵は卵黄が鉄を多く含むが,卵白は大丈夫.(7)野菜は緑の濃いものは避け,その他の野菜をとる.(8)大豆製品,豆類,海藻類はやや鉄分が多いので少し控えめに.(9)牛乳,乳製品は摂取して良い.(10)食べ合わせに注意.ビタミンCは鉄の吸収を促進するので,ビタミンCを多く含む果物は食後の摂取とせず,間食とする.(11)緑茶,コーヒー,紅茶類は鉄と結合するタンニンを多く含むので多めに摂取.(12)禁酒.アルコール摂取は肝臓の負担になるし,酒類には鉄分が多く,特にワインは鉄を多く含んでいる.(13)鉄製の食器,調理器具からは鉄分が食物に多少とも混ざり込むので,鉄製の器具は使用しない.などです.しかし,誤った鉄制限食を行うと,(1)鉄以外の栄養素の摂取にも障害が生じる.(2)特に欠乏しやすいものとして,マグネシウム,亜鉛,銅,マンガン,ビタミンB6,ナイアシンなど.(3)エネルギーや蛋白摂取の減少などが主なものです.よって鉄制限食の実施にあたっては,栄養士の指導が必須です.それも1回限りの指導ではなく,ご自身が行っている鉄制限食が適正であるかどうか,数日間のメニューを持参して,数ヶ月に一度は繰り返し栄養士の指導を仰いで評価することが是非必要です.また,鉄制限食の献立の例がレシピ集としてインターネット上で公開されていますし(神戸学院大学栄養病理学研究室),玉野市民病院の木村文昭先生が食物に含まれる鉄分の量を記載した論文(MINOPAHGEN MEDICAL RVIEW:49(5),310-335,2004)を発表しておられますから,これらを栄養士と相談して参考にするのも良いでしょう.いずれにしても,鉄制限食は長期にわたるものです.自分に合った鉄制限食を独善的にならず,医師,栄養士と共に見つけて実践してゆきましょう.

 

図  表 

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図1

図2

図3

表1

図4