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北海道支部

消化管(胃・大腸)がんの診断と治療

高後 裕(旭川医科大学内科学講座 消化器・血液腫瘍制御内科学分野)


【はじめに】

本邦における死因の第一位は悪性腫瘍であり,全死亡原因の約3分の1を占めます.悪性腫瘍の中でも,消化管がんは死因の上位を占めており,男性では胃癌が2位,大腸癌が3位,女性では大腸癌が1位,胃癌が2位となっています(図1).一方で,これらの消化管癌は,適切な診断・治療により比較的高い確率で治癒することが知られており,早期に発見されれば決してこわく無い病気であると言えます.そこで本稿では,消化管がんに関する理解を深めていただくため,その診断や治療方法,さらに予防法について解説します.

1.消化管癌がんの診断

1) 症状
早期の消化管癌は,ほとんどが無症状です.そのため,多くの早期胃癌や早期大腸癌は,自分では分かりません.ある程度大きくなって初めて,腹痛や,便秘,下痢,下血などの症状が出現してきます.したがって,自覚症状が無くても積極的に検査を受けることが重要です.図2に示したように,外来受診者に比べ検診受診者では,治療によって治る胃癌が多く見つかっています.これは,胃癌診療において,がん検診がたいへん役立っていることを表しています.症状が無くても定期的にがん検診を受けましょう.また,何らかの症状がある場合は躊躇せずお近くの消化器専門医を受診されることをお勧めいたします.

2) 検査法
消化管がんの検査法には,X線検査,内視鏡検査,便潜血反応検査などがあり,それぞれの利点を生かして診療に用いられています.また最近では,カプセル内視鏡や分子イメージングなども開発されています.以下,胃癌,大腸癌の検査法および近未来の検査法について解説します.

(1)胃癌

胃X線検査はバリウムを飲んでX線撮影をする検査法で,比較的簡便でコストが安く,高い診断率を有するという利点があります.また,医師のみならず放射線技師による検査が可能であり,胃癌検診の一次検査として広く行われています.一方,胃内視鏡検査は癌の発見診断を行うと同時に,生検という方法で組織検査を行うことができる利点があります(図3).しかし,内視鏡を専門とする医師により行われるため,施行可能な検査件数には限界があります.胃癌検診の流れとしては,まずX線検査を行い,異常が見つかった場合は内視鏡検査を行うのが一般的ですが,最初から内視鏡検査を行ったり,血液中のペプシノーゲンという酵素を測定して高危険群を選別してから検査法を選ぶ方法なども行われています.

(2)大腸癌

大腸癌を発見する検査法として,便潜血反応検査が広く用いられています.この方法は非常に簡便でコストが安いという利点を有しています.便潜血反応検査は大腸癌を直接診断することはできませんが,最近の調査により,大腸癌の死亡率を下げる有効な検査法であることが証明されています.欠点としては,便潜血反応陽性であっても実際には癌がない症例(偽陽性)が多いことです.
大腸X線検査は肛門からバリウムを入れてX線撮影を行い,癌を直接診断する方法です.胃X線検査と同様に医師のみならず放射線技師による検査が可能ですが,少し手技が複雑で,食事の変更や下剤などの前処置が必要です.一方,大腸内視鏡検査は,胃内視鏡検査と同様に癌の発見診断に加えて組織検査を行うことができる利点を持っていますが,大腸内視鏡を専門とする医師はそれほど多くないため,施行可能な検査件数には限りがあります.大腸癌検診の流れとしては,まず便潜血反応検査を行い,陽性であればX線検査や内視鏡検査を行うのが一般的です.

(3)近未来の検査法

・カプセル内視鏡
CCDカメラを内蔵したカプセルを内服することで,消化管を調べる検査法です.お薬とほぼ同じくらいの大きさであるため非常に飲みやすく,検査中は特に行動制限がない利点を持っています.現在のところ小腸の病気の診断にのみ用いられておりますが,今後は胃や大腸の診断にも応用されることが期待されます.

・CTコロノスコピー
CT検査で得られた画像をコンピューター処理し,大腸内視鏡と同様の画像を構築する方法です.これによって,X線や内視鏡を行わなくても癌を直接診断することができます.今後は,がん検診などにも応用されることが期待されます.

・光デジタル法
癌の血管成分を強調したり,消化管組織が発する蛍光を利用して診断する内視鏡システムです.この方法により,癌の発見が容易になることが示されており,効率のよい内視鏡診断が可能となります.

・分子イメージング
癌の遺伝子異常を直接検出して診断に応用する検査法です.この方法により,癌の発見やその性質,適切な治療法の判断を分子レベルで行うことが可能となり,消化管がんの診断精度を飛躍的に向上させることが期待されます.

2.消化管がんの治療

消化管がんの治療は大きく分けて,1)内視鏡治療,2)外科治療,3)化学療法があります.以下,それぞれの特徴と最近の進歩について解説します.

1) 内視鏡治療
早期の胃癌および大腸癌の中には,内視鏡を用いた治療法である内視鏡的粘膜切除術(EMR)によって根治できるものがあります.この方法は腹部を切開する必要がないので,外科治療に比べて体に対する負担が少なく,多くの例で1日から5日程度の入院期間で治療が終了します.この治療法が適応となる病変は,リンパ節や肝臓に転移がない,大きさ2cm以下の癌に限られます.最近では,内視鏡的粘膜剥離術(ESD)という方法が開発され,大きさの制限が無くなりつつあります.検診によって早期発見された例では,内視鏡治療で癌が治癒する患者さんが多くなっています(図4).

2) 外科治療
内視鏡治療が発達した現在でも,消化管がんの多くは外科手術にて治療されています.最近では,腹腔鏡を用いた手術が積極的に行われており,開腹手術に比べて食事を始めるまでの期間や入院期間が短縮されるようになりました.また,腹部の切開創も非常に小さく,退院後の生活に対する制限もかなり軽減されています.

3) 化学療法
消化管がんの中でも比較的進行した癌に対して,化学療法が行われます.これは,手術した場合でも,しなかった場合でも適応となる治療法です.ときに,化学療法の後で手術を行う例もあります.胃癌,大腸癌ともに,注射で行う方法と経口薬を使う方法があり,外来通院あるいは短期間の入院により化学療法が受けられるようになりました.いくつかの薬剤を組み合わせて行うのが主流であり,効果の高い,いくつかの組み合わせが提唱されています.最近では,基礎的研究の成果から生まれた,分子標的治療などの新しい化学療法剤が開発され,治療成績が向上してきています(図5図6).これらの化学療法は治療と同時に患者ケアが非常に重要であり,化学療法の専門医や専門看護師,その他の専門的なスタッフにより,独立した部門として治療を行う施設が増えています(図7).

3.消化管がんの予防

1) 生活の改善
消化管がんの発生は摂取食物と関係があることが指摘されています.胃癌の予防法としては,塩分を控えること,禁煙すること,が挙げられます.また,大腸癌では,脂肪を控える,食物繊維をよく摂る,運動を心がける,などが重要であると言われています(図8).

2) ピロリ菌の除菌
胃癌の発生原因に,ピロリ菌感染が関係していることが分かってきました.ピロリ菌とは胃の中に生息する病原菌で,発癌の発生母地となる慢性胃炎を引き起こし,胃・十二指腸潰瘍や胃癌のリスクを増加させると言われています.ピロリ菌は,40歳以上の方で高率に感染しており,抗生物質などの内服治療で除菌することができます.当科の研究により,胃癌の前癌状態である慢性胃炎の段階で,すでに癌関連遺伝子の異常が高頻度に認められ,ピロリ菌の除菌によりその異常が改善することが明らかになりました(Watari J, Kohgo Y. J Clin Pathol, 2007).ピロリ菌の感染は内視鏡検査,尿素呼気試験,血清抗体価検査などで調べられますので,積極的に検査を受け,陽性の場合は消化器専門医の受診をお勧めいたします.

3) 腸内環境の整備
大腸には,800種類を越える細菌が存在し,宿主である我々の腸管とお互いに利益をもたらしあって共存しています(共生).これは腸内細菌叢と呼ばれており,健康を維持するうえで欠かせないものとなっています.また,腸内細菌叢の異常は,消化管の病気と密接に関係していることが知られており,大腸癌も例外ではないと考えられています.一方,腸内細菌の中でも,特に宿主腸管によい影響を及ぼす,プロバイオティクスと呼ばれる菌群が存在し,健康維持や病気の治療に広く用いられるようになってきまた(図9).ヨーグルト菌やナットウ菌などは,このプロバイオティクスの一種です.我々の研究室では,納豆菌の一種から抽出した有効成分のひとつに抗腫瘍効果があることに気づき,新しい抗腫瘍薬としての臨床応用を検討中です(図10).

4.がん患者の生存期間を20%向上させる(国家的目標)ためには?

がん予防がもっとも効果の高い方法であるとされています.禁煙により30%,生活習慣の改善により30%の効果が望まれると推定されています.次に効果的な方法は,検診受診率の向上です.現在は対象年齢のわずか10%-20%しか検診を受けていません.国民の全てががん検診を受けると,生存期間の飛躍的な向上が期待されます.その他,延命効果の確かな治療法を全国民にいきわたらせる,がん専門医や専門医療機関の充実などが,必要事項とされています(図11).

【おわりに】

消化管癌の診断や治療方法,さらに予防法について解説いたしました.本稿が,皆様の消化管がんに対するご理解に,少しでも役立てば幸いと考えております.消化管がんは,最も身近にある悪性腫瘍であり,本邦の死亡原因の多く占める病気ですが,早期発見により体に大きな負担をかける事なく治療することが可能です.禁煙や生活習慣の改善などのがん予防を心がけると同時に,検診などの機会を積極的に利用して,癌の早期発見に努められることをお勧めいたします.

図  表 

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リンクします

図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11