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近畿支部

ストレスと胃腸病-心と胃腸のキャッチボール

中井 吉英(関西医科大学心療内科学講座教授)


【脳と胃腸は二輪車の関係です】

“胃腸は心の鏡”と昔からいわれますね。逆に、“心は胃腸の鏡”でもあるということが分ってきました。身体と心はどちらが先ではなくキャッチボールのように相互に関係しあっているのですよ。それを図に描きますと次のようになります。
たとえば、胃の痛みが一ヶ月ほど続けばどうでしょう。だれでも、いらいらしたり、気分が滅入ったりするはずです。勉強にも仕事にも支障をきたしますね。そのような状態が半年続けばどうなるでしょう。このように胃や腸の刺激が脳に影響することが分ってきたのです。
(図1)

【検査で異常がない胃の痛み、腸の痛み】

検査で異常がないのに“胃が痛い”“胃がもたれる”“下痢と腹痛が続く”のはどうしてでしょうか? 病気にはレントゲン検査や内視鏡検査、腹部超音波検査などで診断がつく器質的病気とそのような検査では診断がつかない機能的病気があるのですよ。胃潰瘍や胃がん、潰瘍性大腸炎、大腸がんなどが器質的病気です。では機能的病気は? 片頭痛はだれでもご存知ですね。頭のCTやMRIなどの検査では異常が認められませんね。消化器では過敏性腸症候群が代表的な機能的病気です。消化管の機能的病気を総称して機能性胃腸障害(または消化管運動機能異常)と呼んでいます。食道にも胃にも胆のうにも腸にも機能的に異常をきたす疾患が存在します。胃腸の症状で病院を受診される患者さんのうち、60~70%は機能的病気といわれています。それでは、その頻度はどれくらいでしょうか。
右の表を見てください。一般住民の調査です。こんなに実は多いのです。急性腹痛にも50%に特別な病気が認められなかったという報告もあるくらいです。
(図2図3)

【ストレスと胃腸】

胃腸は不安や怒り、悲しみといった情動にすばやく反応しています。そのような感情が長期に続くとどのようになるのでしょうか。
WolfとWolff(1947年)は胃瘻患者トムについて胃と情動の関係を研究しました。トムは幼いころ、誤って煮えたぎったスープを飲み、食道に強い炎症をきたし狭窄してしまつたため、口から飲み食いができなくなってしまったのです。そのため胃瘻をつくり、そこから食べものや水分を入れるようにしました。その結果、トムの胃の粘膜や運動が外から容易に観察できるようになったわけです。
トムが恐怖や悲しみ、絶望に陥ったとき、胃の分泌や運動は低下し胃粘膜の血流は低下して貧血様になります。反対に不安、怒り、敵意、葛藤状況に陥ったときには、胃の分泌と運動は亢進し、胃粘膜の血流は増加し、やがて充血するようになりました。このような状況が長く続くと、胃の粘膜から出血や浅い潰瘍(びらん)にまで発展したと報告されています。同様に、大腸については、Graceら(1951年)が大腸瘻のある患者を観察し、情動と大腸の血流、運動、分泌との関連を明らかにしています。
胃腸は感情の変化に脈拍や血圧と同様、すばやく反応しているのです。
(図4)

【機能性ディスペプシアについて】

過敏性腸症候群は腸管の代表的な機能性の病気ですが、胃の機能性の病気を機能性ディスペプシア (Functional dyspepsia略してFD)と呼んでいます。先ほどお話したように、この病気の頻度はとても高いのです。
私たちはFDの診断や治療に胃電図(EGG)を用いています。胃は心臓と同じように自動能(脳からの指令で活動していますが、半分は胃自身の指令により動いていると言われています)を持つといわれています。図のような箇所へ電極をつけ、コンピュターで解析します。(図5
胃は一分間に3回の規則正しい波形を描きます。FD患者では、その波形が遅くなったり、不規則になったり、速くなったりしています。また、胃の運動は例えば右手を冷水につけるコールドストレスや1000から順番に7を引いていく暗算ストレスで容易に変化します。(図6図7
正常な人で胃は素早く反応しますが、痛みや不快感といった症状は起りません。下の図はFD患者さんに催眠に導入し、三次元で胃の運動の変化を見たものです。胃の運動の急激な変化とともに、患者さんの訴えである症状が再現します。(図8
では、正常の人に症状として出ずに、FD患者さんにはどうして現れるのでしょうか。FD患者とそうでない人に胃の中に内視鏡を使いバルーン(風船)を入れて外から一定の圧をかけ膨らませていきます。そうしますと、正常の人では相当膨らませても胃の膨満感や不快感など症状として感じないのですが、FDの人では、わずかに膨らませることで症状を感じてしまうということが分りました。刺激に対する胃壁の閾値が低下しているのか(知覚過敏)、中枢(脳)の刺激に対する反応が亢進しているのか、現在研究が進められています。

【機能性胃腸障害の特徴】

特徴についてまとめてみますと、(1)不安や抑うつを合併しやすい、(2)消化管の知覚過敏性が関係している、(3)プラシボー効果(偽薬効果)が高い、(4)症状が長期に及ぶことがある、(5)消化器科や胃腸科を受診する頻度が高い、といった点になると思います。

【機能性胃腸障害の原因は】

図のように多岐にわたる要因が関係しあって症状を形成しているといわれています。ストレスと関与し、また症状その ものがストレスになり不安や抑うつを引き起こし、仕事や勉強、家事や人間関係にまで影響してしまうこともあるのです。
(図9

【機能性胃腸障害の診断】

RomeⅢという世界的な診断基準があり、それに基づいて行なうのですがやはり、丁寧な問診と診察が重要です。並行して、がんや炎症などの重大な病気を除外していくことも重要です。
また、心理面社会面との関係を評価していくことが何より大切です。内視鏡検査、レントゲン検査、腹部超音波、CT、MRIなどの検査は器質的な病気を診断するための検査ですが、機能性の消化器の病気を診断する検査が必要になります。胃電図もその一つですが、たとえば、狭心症や心筋梗塞と同様の胸痛を訴える患者さんのうち50%は心臓由来の痛みでないことが分ってきました。そのような胸痛を非心臓性胸痛と呼びます。その中で、びまん性食道けいれんは食道の代表的なの一つです。レントゲン写真はびまん性食道けいれんの写真です。確実に診断するためには写真のような食道内圧検査をします。グラフが胸痛時の内圧曲線です。
(図10図11図12)

【治療はどのようにするのか】

治療をまとめますと図のようになります。心身両面より治療することが必要になります。その中でも、機能性胃腸障害について熟知した消化器専門医や心療内科医による治療が必要になります。
(図13)

図  表 

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