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甲信越支部

メタボリック症候群と肝臓病

柴崎 浩一(日本歯科大学新潟生命歯学部 内科学講座)


肥満症とくに内臓脂肪型肥満は、高血圧症や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を惹き起こすことが多く、また動脈硬化の促進因子として注目されています。内臓脂肪型肥満に高血圧症や高脂血症、糖尿病などを併発している状態はメタボリック症候群(内臓脂肪症候群)として注目されています。2008年4月からは40歳から74歳までのすべての中高年者を対象に特定健診(いわゆる、メタボ検診)が義務化され、メタボリック症候群の該当者または予備軍と判定された人に対して特定保健指導を行うことが義務づけられました。
ここでは、肥満とメタボリック症候群について一般的なお話をした後、メタボリック症候群と関連する肝臓病についてお話をします。

【1.肥満と肥満症】

1)肥満と肥満症の定義
「肥満」とは、正常状態に比べて体重が重いか、または体脂肪が過剰に蓄積した状態をいいます。これに対して「肥満症」とは、単に太っているだけではなく、「BMIが25以上で、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併しているか、将来、病気が併発しそうな場合で、医学的に治療が必要な病態」と定義されています。

2)肥満の診断
肥満の診断にはBody Mass Index(体格指数:BMI)と呼ばれる、世界共通の指数が用いられています。BMIは体重(kg)÷{身長(m)}2で計算されます。標準値は22であり、これは統計的にみて最も病気に罹りにくい体型とされ、標準から離れるほど病気に罹りやすいことを表しています。表1に示したように、BMIが18.5未満の場合には「やせ」、25以上は「肥満」、30以上は「高度肥満」とされています。18.5以上、25未満が標準とされていますが、概ね、22±2程度が理想的な体重といってよいでしょう。標準体重は{身長(m)}2 ×22で求められますので、生活習慣病に罹らないようにするためにも自分の標準体重を知り、出来る限り標準体重を維持するように努力して下さい。

表1 BMIからみた肥満の判定

    BMI 18.5 やせ
18.5 BMI 25 標準
25 BMI 30 肥満
30 BMI     高度肥満

3)かくれ肥満
体重は標準範囲内にあるにも関わらず、「体の中の脂肪組織の割合が多い状態」をかくれ肥満と呼び、過度のダイエットや運動不足により筋肉量が減少し、体脂肪が増えた状態をいいます。また、体重の変化がなくウエストが増えた状態も「かくれ肥満」であり、ミネラル・タンパク質・糖質の比率も低く、内臓の働きも衰えている可能性があり注意を要する状態とされています。

4)肥満のタイプ
肥満には皮下脂肪型肥満(下半身肥満・洋ナシ形肥満)と内臓脂肪型肥満(上半身肥満・リンゴ型肥満)の2つのタイプがあります。腹部コンピューター断層検査(CT検査)による両者の違いを図1に示します。
(1)皮下脂肪型肥満(下半身肥満・洋ナシ形肥満)
下半身肥満であり、お尻が大きく洋ナシ型肥満とも呼ばれます。皮下に集中して脂肪が付くタイプで、お尻、下腹部がふっくらとしていて、若い女性に多く、生活習慣病との関連は少ないことからあまり心配のいらない肥満とされています。皮下脂肪が多くても、内臓脂肪の少ないこのタイプの肥満の人は、糖尿病や高脂血症、高血圧症などの生活習慣病にはあまり罹らないといわれていますが、ダイエットや運動によっても短期間に簡単に減らすことはできないのが特徴です。
(2)内臓脂肪型肥満(上半身肥満・リンゴ型肥満)
上半身肥満であり、お腹が大きくリンゴ型肥満ともいわれ、メタボリック症候群と深い関係にあります。内臓の回りに脂肪がつくタイプの肥満で、中年男性に多く、女性では更年期以降に増加します。このタイプの肥満はダイエットや運動などにより比較的容易に内臓脂肪を減らすことができるのが特徴です。
しかし、両者は合併することも多く、BMIが25以上の人はやはり減量することが基本です。

5)日本人における肥満者の割合(図2図3
日本人の肥満者の割合は1985年頃には男女間でそれほど差はなく、むしろ更年期以降(50歳以降)の女性では男性を凌ぐものでしたが、2005年の調査では男性の肥満者の割合は急激に増加し、20歳代で19.8%、30歳代で26.7%、40歳代で34.1%、50歳代で31.4%、60歳代で30.7%と、ほぼ3人に一人が肥満者でした。これに対して、2005年度の女性の肥満者の割合は、20歳代で5.6%、30歳代で14.3%、40歳代で19.3%、50歳代で23.9%、60歳代で29.0%と、年齢とともに増加していました。むしろ20歳代の若い女性では痩身志向が強く痩せの割合が多く、社会問題となっています。
世界的には、男性の24%、女性の27%が肥満との報告もあります。一般的には、欧米諸国で肥満者の割合が高く、最近では小児の肥満も増加しております。我が国でも小学校の高学年では男児の10%、女児の8~9%が肥満であるとの調査結果が報告されています。

【2.メタボリック症候群について】

高血圧症や高脂血症、糖尿病などの発症や悪化には、内臓脂肪型肥満が密接に関連し、また同時に複数の疾患が合併する危険性も高くなります。一つ一つの病気の程度が軽くても、あるいは病気と診断されない“予備軍“と呼ばれる病態でも、いくつか重なると、動脈硬化は急速に進展し、心臓病(心筋梗塞や狭心症)や脳血管障害(脳梗塞や脳出血)を発症する危険性が高くなることが報告されています。図4は肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症をそれぞれ1つの危険因子とした時に、危険因子が複数重なり合うと心臓病の頻度が高くなることを示したものです。すなわち、危険因子が2つ合併した場合には、1つもない場合の5.8倍、3-4個合併した場合には35.8倍も心臓病に罹る危険性が高くなります。

1)メタボリック症候群の診断基準
メタボリック症候群の診断基準を図5に示しました。必須条件は、内臓脂肪型肥満があることです。内臓脂肪型肥満は腹部CT検査で内臓脂肪面積が100cm2以上あれば確実に診断されますが、代わりに腹囲を測定することによって簡単に診断できます。すなわち、立位で臍の周囲を測定したとき、男性で85cm以上、女性で90cm以上あれば内臓脂肪型肥満と診断されます。これに加えて、高脂血症、高血圧、耐糖能異常の3項目のうちの2項目が満たされた場合にはメタボリック症候群と診断されます。しかし、上記の腹囲をこえている人では、1項目しか満たさない場合でもメタボリック症候群の“予備軍”として特定保健指導を受けることになっています。飽食と運動不足による栄養過剰が原因であり、内臓脂肪が蓄積すると高血圧症や高脂血症、糖尿病、さらには心筋梗塞や脳血管障害を発症するリスクも高くなります。メタボリック症候群の人はメタボリック症候群でない人に比べると、糖尿病を発症するリスクは7~9倍、心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクは約3倍になるとの報告があります。

2)我が国におけるメタボリック症候群の頻度
国民健康・栄養調査結果の概要(2004年度版)によると、メタボリック症候群の患者さんの頻度は図6に示すように、男では年齢とともに増加し、40歳以降では17-34%、予備軍も含めれば43-55%とほぼ2人に一人の割合になっています。一方、女性では50歳代までは10%以下で少なく、更年期を過ぎた60歳以降に多くなっています。すなわち、60歳代で14%、70歳代で19%、予備軍を含めると60歳代で24%、70歳代で31%と3-4人に一人の割合になります。

3)内臓脂肪はなぜ怖いか?
内臓脂肪型肥満の人では膵臓からのインスリン分泌は正常でも、インスリンの働きが弱くなる、いわゆる「インスリン抵抗性」の状態になるため高血糖が持続します。インスリン抵抗性による高血糖は動脈硬化を促進し、さらに高血圧や高脂血症の原因にもなります。内臓脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインと呼ばれるホルモンが、脂肪細胞の肥大化や壊死を起こし、それらを取り囲む形でマクロファージと呼ばれる炎症性細胞が集積し、脂肪組織の炎症とインシュリン抵抗性の増悪をもたらし、メタボリック症候群を発症させると考えられています。すなわち、内臓脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインがメタボリック症候群の病因に大きく関わっていることが分かってきました。

【3.メタボリック症候群と関連する肝臓病】

メタボリック症候群と関連する肝臓病としては、(1)脂肪肝、(2)非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)、(3)非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)の3つが挙げられます。以下に、簡単に説明します。

1)脂肪肝
肝臓に過剰な中性脂肪が蓄積した状態をいいます。原因としては肥満、糖尿病、高脂血症や飲酒があげられますが、ある種の薬剤や低栄養状態、妊娠などでも脂肪肝を呈することがあります。腹部超音波検査(エコー検査)や腹部CT検査などにより比較的容易に診断することができます。腹部CT 検査では、図7右側のように肝臓が低吸収域(黒くなる)になるため容易に診断できます。脂肪肝の肉眼所見と組織所見は図8のように、肝臓は赤くなく黄色の色調を呈し、組織学的には大小の脂肪滴を認めます。
日本人における脂肪肝の頻度は、診断方法や報告者によりまちまちですが、肥満者の割合とほぼ相関し、男性では30-60歳代の男性で20-25%、女性では50歳以降の閉経後で15-25%と報告されています。

2)NASH (非アルコール性脂肪肝炎)

3)NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)
1980年Ludwigらは、アルコールを全くか少ししか飲まないにも関わらず、アルコール性肝炎と類似した脂肪肝と肝炎像を示す病態をNASH として報告しました。わが国でも古くから飲酒歴のない脂肪肝の患者さんから肝硬変や肝臓がんが発生することは知られていましたが、近年、その頻度が増すに連れ、本疾患の重要性が認識されるようになりました。原因としては、脂肪肝と同様に肥満や糖尿病、高脂血症やある種の薬物などが挙げられますが、原因不明のものもあります。高度の肥満者では肝生検を行うと25-70%がNASHであったとの報告もみられます。NASHは通常の臨床検査成績からは診断できません。非飲酒者で肝障害と脂肪肝があり、他に肝障害を起こす原因が考えられない場合に肝生検を行い、脂肪肝と肝炎の組織所見があった場合にはじめてNASHと診断されます。したがって、正確に診断するためには肝生検が必須となります。多くは食事療法と運動療法による肥満に対する治療で軽快しますが、他に糖尿病や高脂血症などを合併している場合には、それらに対する治療も行います。NASHは5-10年で5-20%の症例が肝硬変に進行し、NASH肝硬変では5年で約10%に肝臓がんが発生するといわれています。
NAFLDは非飲酒者で主として脂肪肝の所見を示すが肝炎の病態を呈していない状態のものをいい、非アルコール性脂肪肝の大半を占めます。非アルコール性の定義は、欧米ではエタノール換算で男性30 g/日以下(日本酒換算で1合以下)、女性20 g/日以下とされていますが、日本人では体格、遺伝的素因などを考慮すれば、欧米の2/3位が妥当と考えられています。

【4.メタボリック症候群にならないために】

まず肥満対策が最も大切です。生活習慣や食事を少し改善するだけで、内臓脂肪を減らしメタボリック症候群を防ぐことができますので実行してみてください。

1)食事は時間を決めて腹八分目に!
基礎代謝量は加齢や運動不足により低下します。したがって、年齢とともに食事量を減らさないと肥満になります。また、よく噛むことは満腹中枢を刺激し、食事量を減らす効果があります。一回当たり30回位は噛むようにしましょう。

2)夜遅く食べない!
夜は腸の働きがよくなり食べ物の吸収がよくなります。消化には約4時間かかるため、夕食は寝る3時間前までに済ませるようにしましょう。また、睡眠中は成長ホルモンが分泌されて、たんぱく質の合成が高まる時間です。夜間の消費カロリーは少なくて済むため、夕食は出来るだけ脂質を控えてカロリーを少な目にし、たんぱく質の多い食事をとるようにしましょう。

3)長時間の空腹の後に食事をとると、一気に沢山食べてしまう傾向にあるため肥満になり易いといわれています。朝食をしっかりとって空腹時間が長くなりすぎないようにすることが大切です。

4)食事の前にコップ一杯の水(常温)を飲むと、おなかが膨らみ満腹感を得ることができ、食事の量を減らすことができるといわれています。同じ理由から、ごはんや主菜よりも低カロリーで食物繊維の多い、副菜(野菜や海草)を先に食べることで、ある程度お腹が満たされ、肥満防止になります。

5)料理の味付けは塩分や脂肪を控え、甘すぎず薄味にします。塩分はかえって食欲を増進させ、コレステロールの吸収を促進します。食塩の変わりに香辛料を使えばコレステロールの吸収も抑えられます。

6)適度な運動をすることにより基礎代謝量を高め、エネルギー消費を促します。

7)お酒は適量に!日本酒なら一日1-2合以内で、少なくとも週1-2日は全くお酒を飲まない休肝日をつくることが大切です。

以上、メタボリック症候群とそれに関連する肝臓病についてお話をしました。肥満、とくに内臓脂肪型肥満は万病のもとです。自分の標準体重を知り、出来るだけ標準体重を維持することが、ひいては生活習慣病の予防にもつながり、健康な生活が送れることになるのです。

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8