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九州支部

健康な肝臓は食事とライフスタイルから

酒井 浩徳(独立行政法人 国立病院機構 別府医療センター 副院長)


【はじめに】

有名な孫子の兵法に「彼を知り己を知らば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に殆うし。」があります。戦いに望んで、敵のことを知り自分の力・状態を知っていれば負けることはなく、敵のことも知らない上に、自分の力も知らなければ危うい状態に陥ることを教える言葉です。病気と戦をするわけではありませんが、「病気のことをよく知り、自分の体の状態をよく知る」ことが病気と上手につきあっていくために大事であることは言うまでもありません。
日本における肝臓病の多くはウイルスが原因となっています。B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス、それぞれ百数十万の人が持続してウイルスを持っています。感染したC型肝炎ウイルスは火種として肝臓に存在し、年月を経て肝臓で火事(慢性肝炎)が起こります。火事が起これば肝臓も火傷をします。その結果肝臓にケロイドができ、たくさんケロイドが出来た状態を肝硬変といいます。こうなりますと肝臓の力も低下し、さまざまな症状が起こってきます。また、肝臓にがんが出来ることがあります(図1)。肝臓は「沈黙の臓器」といわれるように、火事が起こっている(慢性肝炎)程度ではほとんど症状がありません。しかし、このようにして徐々に進行するC型肝炎に対しては火種を取り除く治療(ウイルス駆除:インターフェロン治療)や、火事を消す治療(肝庇護療法)が必要になります。C型肝炎はきちんと対処すれば決して恐れる病気ではないこと、しかし、知らないことは致命的な結果にもつながりかねないことを理解しなければなりません。孫子の兵法が重要なことをわかっていただけると思います。
生活習慣・食習慣の変化、ライフスタイルの変化、ストレスの多い社会など私たちを取り巻く環境は大きく変化しています。肝臓病と上手につきあうためにはどういう生活を過ごせばいいのでしょうか?今回、栄養の視点から肝臓の病気を眺め、栄養・食生活、さらには好ましい生活習慣を維持することの重要性を考えたいと思います。

【肝臓と栄養を考える上で】

肝臓は人体の総合化学工場であり、代謝の中心臓器であると言われます。生物が「生きている」ということは、体の中で無数の生化学反応(代謝)を行っているおかげです。その代謝の中心的役割を担っているのが肝臓で、色々なものを作り出す(合成)、必要のない異物の処理・排泄(解毒)など、様々な代謝を行っています。そのなかでも糖質・脂肪・タンパク質など栄養の代謝は肝臓の重要な役割です。肝臓における様々な病気は代謝の乱れを招き、代謝の異常は肝臓に様々な病気を引き起こすと考えられます。したがって、食事や生活習慣(ライフスタイル)は肝臓の病気と密接に関わり合っています。肝臓が悪いことがわかると、栄養を摂らなければ、「高蛋白・高カロリー」が大事だといわれることがあると思います。安静にしなくてはいけないと言われることもあると思います。本当でしょうか? お酒は全く飲んではいけないのでしょうか? ゴルフもやめなくてはいけないのでしょうか? コーヒーは飲んでも……。わからないことはたくさんあります。肝臓の病気にもいろいろな原因があり、軽い状態から進んだ状態までありますので、一口に決めてしまうことは出来ませんが、肝臓の病気全てが栄養をしっかり摂って安静にすることが重要というわけではありません。肝臓病には急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝癌、脂肪肝などがありますが、急性肝炎や慢性肝炎において食事が十分食べられている場合、栄養はそれほど大きな意味を持つものではなく、食べ過ぎて肥満にならないようにバランスの良い食事を摂ることが大事ですし、肝機能が安定している場合には適度な運動も必要です。
今や飽食の時代、カロリー過剰摂取が問題となっています。肝臓においても例外ではありません。脂肪肝は栄養摂取状態の異常が病因であることが多く、栄養摂取の異常の是正・運動による栄養代謝状態の是正が治療につながると考えられます。一方、肝硬変においては病因に関係なく低栄養状態(栄養が足りないという意味だけでなく、十分に利用できないという意味もあります)が根底にあり、その是正が病気の進行を遅らせるだけでなく、生活の質や予後の改善につながると考えられます。しかし、たとえ肝硬変といえどもカロリー摂取過剰は好ましくなく、肝臓の状態に応じた生活を考える必要があります。運動も無理のない範囲で必要ですし、生活・運動の状況に応じた適正なカロリーを摂ることが大切でしょう。
日本病院会の人間ドックにおける異常な検査結果の頻度の年次推移をみますと、2000年代になってもっとも多いのが肝機能異常で約25%の受診者に認められます。次いで高コレステロール血症、肥満、耐糖能異常の順になっています。1984年の肝機能異常の頻度が10%弱であったことから、この20年間に2.5倍に増加したことになります。ここに、肝臓病と栄養を考える上での大きな問題の一つが隠されています。

【脂肪肝と非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)・非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とは?】

肝臓はたくさんの細胞(肝細胞)が集まって作られています。その肝細胞の中に中性脂肪が過剰に蓄積した状態を脂肪肝といいます。いろいろな原因で脂肪肝を生じますがアルコール多飲によることが多いとされています。 ここで、単語の整理を行いましょう。脂肪肝という病気の中には、原因から考えてアルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が含まれます。NAFLDとはアルコールを飲まないのに肝細胞に脂肪が過剰に蓄積して脂肪肝の状態になった病気の総称です。NAFLDという病気の中には、単に肝臓に脂肪がたまっただけで病気が進行することのない単純性脂肪肝から、肝細胞の破壊や線維化を伴い肝硬変へ進行することのある非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が含まれます。NASHは火事を起こした脂肪肝ということができますし、NAFLDの重症型と考えると良いと思います。従来、脂肪肝は肝硬変や肝細胞癌へ進行することのない良性の可逆性の疾患で、放置しても差し支えのないものと考えられてきました(アルコール性脂肪肝はお酒をやめないと進行します)。肝疾患に携わっている医師の関心はウイルス性肝疾患の診断・治療に注がれ、脂肪肝が注目されることはありませんでした。1980年、お酒を飲まないのにアルコールによる肝障害に似て肝硬変への進展することもあるNASHが報告されました。しかし、当時はほとんど注目されることはありませんでした。
飽食の時代と言われる現代社会、ライフスタイルの変化は脂肪の多い食事と過食の原因となり、多忙でストレスに満ち、運動をするゆとりのない生活は肥満人口の増加をもたらしました。現在1300万人もの男性、1000万人もの女性がBMI〔体重(kg)/身長(m)×身長(m)〕25以上の肥満といわれ、この20年間で1.5 倍の増加を示しています。さらに毎年100万人ずつ肥満人口が増えているともいわれています。BMI30以上の高度肥満者も成人の30人に1人、350万人を占めるようになっています。肥満人口の増加は、肥満を基盤とする糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病患者の増加をもたらし、社会的にも問題となっています。2005年、心・脳血管の病気の抑制を目的としてメタボリックシンドロームという考え方が提唱され、広く国民の間に関心が集まっています。そうした健康や生活習慣病への関心の高まりとともに、脂肪肝にも注目が集まるようになりました。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、メタボリックシンドロームの肝臓での表現型として理解しなければなりません。
脂肪肝患者がわが国にどの程度いるのかは、今後さまざまな調査で明らかにされてくると思いますが、検診受診者の20~30%は脂肪肝を伴っているといわれています。脂肪肝の中にはアルコール性脂肪肝とNAFLDが含まれますが、1990年代になってそれまで増加してきていたアルコール消費量は停滞、一方、この時期から肥満人口は増加してきています。したがって、脂肪肝の中でNAFLDの占める割合が増加してきていると思われます。検診受診者全体の8%、肝機能異常を示した検診受診者の約30%がNAFLDであったという報告もあります。また、わが国におけるNASH症例は100万人に達すると推定されています。
B型やC型のウイルス肝炎の患者数と大きく変わらない数といえます。

【NAFLDやNASHはどうして発症するのでしょう】

NASH・NAFLDの基本的病変である脂肪肝はどのようにして生じてくるのでしょうか? 脂肪肝では肝臓に中性脂肪(脂肪滴)が過剰にたまっているのですが、中性脂肪は脂肪酸から作られます。つまり、脂肪肝は肝臓における脂肪酸の増加が原因であるということができます。何故脂肪酸が増加するのでしょうか?肝臓において(1)脂肪酸の取り込みの増大、(2)脂肪酸合成の増大、(3)脂肪酸燃焼の減少が起こることにより生じていると考えられます。
肝臓に取り込まれる脂肪酸は、食事からと体の脂肪組織からやってきます。また、肝臓では糖などから脂肪酸の合成が行われています。一方、脂肪酸は肝臓で燃やされて(酸化を受けて)エネルギー源になります。さらに肝細胞から血液中に放出され全身へも運ばれます。肝臓への過剰な脂肪の蓄積は、脂肪酸の合成が脂肪の燃焼・肝細胞からの分泌を上回る場合に生じます。その原因として、(1)脂肪の過食や全身の脂肪組織(特に、内臓脂肪型肥満による内臓脂肪)の増加による肝臓への脂肪酸の取り込み増加、(2)糖の過食などによる肝臓での脂肪酸合成の増加、(3)脂肪酸の燃焼(酸化)の低下、などが考えられます。このような脂肪酸の代謝の過程には、インスリンなどのホルモンやサイトカイン(各種の細胞が産生する、生体調節機構に関与する細胞間相互作用を担う物質)などが複雑に関与して調節を行っています。肥満、特に内臓脂肪型肥満では、インスリンに対する体の反応が悪くなったり(インスリン抵抗性)、各種のサイトカイン産生異常などが起こるため、脂肪酸の代謝調節機構に破綻を生じ、肝細胞内に過剰な脂肪の蓄積を生じるようになります。
 それでは、なぜ脂肪肝が肝細胞の破壊を伴うようになりNASHを発症していくのでしょうか?肥満(内臓脂肪型肥満)・過食などを第一要因として肝細胞内に中性脂肪を蓄積させて脂肪肝を生じ、さらに肝細胞を障害する要因(第二の要因)が加わることによりNASHが発症する考えられます。肝細胞障害を起こす第二要因として、(1)酸化ストレス(活性酸素による組織障害力)、(2)サイトカイン、(3)エンドトキシン(細菌の毒素)、(4)インスリン抵抗性などがあり、これらの様々な要因が複雑に関与することにより、脂肪肝に壊死・炎症、線維化を生じると考えられています。
(図2図3図4)

【NAFLD/NASHの臨床(診断と治療)】

1)診断:通常行われる血液検査ではNAFLD/NASHの診断は難しいのですが、超音波検査で脂肪肝の診断ができます。単純性脂肪肝とNASHとをきちんと区別して診断することは非常に重要ですから、脂肪肝といわれたときは安心しないで肝臓専門医を一度受診されることが必要です。
2)治療(図5):NAFLDは単なる肝臓病としてだけでなく、メタボリックシンドロームとして捉えて治療を考えなければなりません。したがって治療の原則は食事療法、運動療法であり、生活習慣の改善により、代謝の異常を是正し、背景にある肥満、さらには糖尿病・脂質異常症・高血圧の改善を目指すことにあります。しかし、過剰な食事制限は脂肪肝を悪化させることもあり、また過度な運動は膝に負担をかけることになります。標準体重あたり総カロリーは25~35kcal/kg・日、タンパク質は1.0~1.5g/kg・日を目安とします。運動療法は内臓脂肪減少やインスリン抵抗性改善に有効ですが、最大運動負荷の60%程度の有酸素運動(運動中息が弾み脈が速くなりますが、隣の人と会話が可能な程度の運動)が有用で、継続することが重要です。NASHやNASHへの進展が危惧される症例に対しては病態を考え、インスリン抵抗性や酸化ストレスを標的として薬物療法が行われています。

【ライフスタイル(食事と運動の工夫、嗜好品など)と肝臓】

脂肪肝(NAFLD/NASH)の治療の基本は食事療法と運動療法と耳にタコができるほど言われます。少しのお菓子でもカロリーは予想外に高いのです。したがって、少々の運動ではお菓子を食べた分のカロリーを落とすことは難しいものです。運動療法と食 事療法が大事とよく言われますが、運動と食事で体に入るカロリーを落とすことはそれほど簡単なことではありません。食事制限を極端にしても続きません。食事にちょっとした工夫を行うことにより無理のない食事療法として継続することも必要でしょう。例えば、(1)鶏ささみ80g、鶏もも肉皮なし60g、鶏もも肉皮付き40g、豚ロース肉40g、牛ロース肉30g、豚バラ肉20gが同じカロリーです。お肉の選択は? (2)特選国産牛ロース肉150gは692kcal(1食分)で脂肪66g(1.5日分)です。脂身を40gほど除くと383kcalへと309kcal下げることが出来ます。美味しいお肉の落とし穴。(3)鰺1匹、焼くと90kcal、煮ると115kcal、揚げると270kcal、調理法を考え、揚げ物は控えめに。(4)野菜300gは80kcal、牛ロース肉30gは80kcal。量は10倍違いますがカロリーは同じ、上手に野菜を食べましょう。などなど、工夫すれば上手な食事療法ができます。好きなスポーツがあれば継続した運動療法が出来るのでしょうが、そうでない場合は継続して運動を行うことは難しいものです。歩くことが良い有酸素運動なのですが、続かない方が多いものです。ライフスタイルが悪くて生じる病気ですから、ライフスタイルを少し変えることで運動療法を行うことが良いでしょう。自宅から職場まで、ドアto ドアの車で通勤。階段を使わずエレベーターを利用。肝臓はフォアグラ(ガチョウの脂肪肝で三大珍味として珍重)になってしまいます。ちょっと生活パターンを変えましょう。
近いところは歩いて、自転車で。バスや電車で通勤の場合、一駅か二駅歩いてから乗りましょう。「昇り三階、下り五階は階段で」、ビルの階段に貼ってあるのを見たことがあります。生活パターンを変えるちょっとした工夫で運動療法はできるものです。
生活習慣というと嗜好品が気になります。お酒と肝臓、これだけで大きなテーマになりますのでここでまとめるのは難しいのですが、基本は「お酒に関してセルフコントロールができる」ことが大事だと思います。上手な体に負担をかけない飲み方が大事です。チャンポンはやめて、お酒の種類は1~2種類。決められた量を守ってはしご酒はしない。食事をしながら飲む。ゆっくりとしたペースを守って、一気飲みはしない、などが大事でしょう。ただし、アルコール性肝障害の方は禁酒です。健康な肝臓の方の場合その他の嗜好品はあまり問題にならないようですが、慢性の肝臓病の方の場合は、ちょっとした嗜好品も気になるものです。診察室でよく尋ねられるのですが、「珈琲は一杯くらいなら飲んでも良いですか?」珈琲や緑茶は肝臓に良いようです。常識はずれにたくさん飲むのではなければ、慢性の肝臓病の方も気にされなくても良いと思います。煙草は肝臓には良くないといえます。毎日20本の煙草を吸う方は、3合のお酒を毎日飲む方と同じ程度肝臓に影響するようです。慢性肝炎の方の場合、毎日20本の煙草を吸う方は、吸わない方に比べて数倍肝がんになる危険性があるとも言われています。慢性肝炎の方は禁煙が好ましいようです。
嗜好品に関しては限りがありません。運動は慢性の肝臓病の方にも良いといえます。もちろん肝臓の状態にもよりますが、安定した状態の方の場合は適度の運動は肝臓の働きを高めてくれます。肝硬変といわれたため高タンパク・高カロリー食に努め、必要以上に安静にして、肥満になった場合は肝がんを発症する危険が高まる可能性も示されてきています。
慢性の肝臓病の方は、主治医の先生とよく相談されて、最適の食事と運動を守ったライフスタイルを決めていただけるのが良いと考えます。

【おわりに】

脂肪肝発症の基礎となっている肥満について最近の報告をみますと、わが国における問題点は男性と小児にあるといえます。成人男性の各年齢層においてBMIの平均値が年々増加し、BMI 25以上の肥満人口の割合も年々増加しています。一方、成人女性においてはBMIの平均値、BMI 25以上の肥満人口の割合は、いずれをみても経年的な変化はないか、むしろ若年層においては年々減少傾向にあります。つまり、日本の男性には未来がないと言えるのではないでしょうか。さらに大きな問題は、学童・生徒における肥満者の割合が年々増加していることであり、NAFLDを含むメタボリックシンドロームの予備軍であることを考えると早急な対策が望まれます。
わが国におけるNASH研究は始まったばかりであり、今後多くのことが明らかにされてくると思われます。飽食とストレスの時代、メタボリックシンドロームの肝臓における表現型としてもっとも注目されている肝臓病といえます。

図  表 

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図1

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図5