一般のみなさまへ for citizen

四国支部

沈黙の臓器、肝臓病の診断と治療

伊藤 嘉信(西条市立周桑病院 内科)


【はじめに】

肝臓は、病気が進行しても自覚症状が、余りみられないため、沈黙の臓器と言われます。今回は、その肝臓の病気につきまして、当院の患者様のデータを元に説明させていただきます。

【肝臓の概観】

 肝臓は人体最大の臓器で、重量は約1500gあります。左葉と右葉に分かれますが、右葉が大きく、右の上腹部のほとんどは肝臓が占めています。動脈と門脈の両方の血管が流入し、静脈が流出血管です。また肝臓の下面には肝臓で産生された胆汁の通路である胆管と、胆汁を一時的に蓄える胆嚢があります。肝臓は人体の化学工場とも言われ、腸管から吸収した栄養素を元に人体に必要な物質を合成するとともに、有害な物質を解毒する作用があります。また、外部から侵入する異物や有害物から人体を守る免疫機構も非常に発達しています。このように、肝臓は人体で非常に大きな働きをする臓器です。
肝臓の異常を発見するためには、まず血液検査が重要です。主な肝機能検査としては、肝細胞内で作られる酵素であるAST, ALT (以前はGOT, GPTと言ってました)があり、これらの酵素の上昇は肝細胞障害をよく反映します。またγGTP は胆道系の酵素とも言われ、胆汁のうっ滞、胆管の閉塞などで上昇しますが、飲酒者や脂肪肝の方でもよく上昇します。ビリルビン値が上昇すると黄疸がみられます。ビリルビン値の上昇や肝臓で合成されるアルブミン、プロトロンビン値、また血小板数の減少は、肝臓が弱ってきている状態を反映します。AFP は、肝臓癌の有名な腫瘍マーカーです。その他にも血液で多くの肝臓の状態が分かります。

【肝臓の病気の原因】

 当院の人間ドックを受診した方の約10%に、肝機能検査異常がみられました。
その原因の半分以上は肥満、糖尿病等の生活習慣病からくる脂肪肝でした。飲酒も含めると約90%の肝機能検査異常の方が、生活習慣の改善が重要と考えられました。残りの10%は肝炎ウイルスなどが原因の肝障害でした(図1)。脂肪肝は腹部超音波検査で診断が可能です。超音波検査では、肝臓全体が白く見え、腎臓との間に明瞭な差がみられます。またこのような方は、胆嚢結石を合併している方も多くみられます(図2)。
 現在、日本では肝臓癌による死亡者数が、年々増加しています。男女合わせて年間三万人を超え、特に男性では胃癌、肺癌に次いで癌死亡者の第三位を占めています。ところが、肝臓癌ができても症状がなく、血液による肝機能検査でも分からない事があります。当院でも大きな肝臓癌の患者さんで、症状や肝機能検査の異常もほとんどみられなかった患者さんがいました。これらの患者さんはそれぞれ、B型肝炎、C型肝炎ウイルスが陽性でした(図3図4)。当院で過去5年間に診療を行った、肝臓癌の患者さんの集計をみますと、C型肝炎ウイルス陽性の方が66%、B型肝炎ウイルス陽性の方が25%みられました。即ち、肝臓癌患者さんの90%以上は、B型及びC型の慢性肝疾患の方でした(図5)。
肝炎ウイルスは現在、A-Eまで5種類がありますが、日本で主に慢性肝疾患や肝臓癌と関わっているのは、B型とC型肝炎ウイルスの2種類です。どちらも、血液や体液で感染しますが、慢性化の経過に差があります。B型肝炎ウイルスは乳幼児期の主に母児感染した患者さんが、慢性化するのに対して、C型肝炎ウイルスは、母児感染は少なく、成人で感染しても約70%の方が慢性化します。図6は急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変の方の肝臓を腹腔鏡と言う、お腹の中を直接みるカメラで写した写真です。肝硬変になると肝臓の表面が凹凸不整になり、肝臓が委縮してくることがわかります。この様な状態になると肝臓癌が発生し易くなります。
当院受診患者のうち、2002-2003年の2年間でB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの検査を行った患者は約8000人いますが、B型肝炎のs抗原陽性者が約1%、C型肝炎抗体陽性者は約3%いました。それぞれの内訳をみると、B型では肝機能がほとんど正常値で経過している、無症候性キャリアと言われる方が59%、慢性肝炎が21%、肝硬変、肝臓癌の方もそれぞれ9%みられました。C型は抗体が陽性でも既に治癒し、ウイルスが存在しない方が24%みられました。慢性肝炎が55%いましたが、その内、約30%の方は肝機能検査は正常範囲内でした。肝硬変が11%、肝臓癌の方が9%みられました(図7)。このように肝臓癌発症の主な原因である、B型及びC型肝炎ウイルスに感染しても、症状がなかったり、肝機能検査が正常な方がみられるため、過去に肝機能検査異常を指摘された方や、輸血や大きな手術を受けた方は肝炎ウイルス感染の有無を一度は血液検査で調べる必要があります。この為、各市町村で2002年から5年間、40-70歳の人を対象にB型及びC型肝炎感染の有無を調べる5歳刻みの節目検診が行われました。また現在では、B型肝炎ウイルスの母児感染予防には、免疫グロブリンとワクチンの投与が行われ、C型肝炎ウイルスの輸血や血液製剤による感染は献血者の血液の厳重な検査で予防が可能となっていますので、新規の感染者は非常に減少しています。

【B型慢性肝炎の診断と治療】

 B型肝炎の抗原、抗体には様々な種類があります。HBs抗原が陽性である人がB型肝炎ウイルス感染者であり、逆にHBs抗体が陽性の方はB型肝炎が治癒した状態を示します。B型慢性肝炎の方で、よく問題になるのはHBe抗原、抗体系です。HBe抗原はB型肝炎ウイルスの増殖と関与しており、HBe抗原陽性者はB型肝炎ウイルス量の増殖が活発であるとされ、感染や慢性肝炎を繰り返す危険性が高く、HBe抗原が陰性化し、HBe抗体が陽性化すれば、ウイルス量が減少し、肝炎はほとんど発症しない状態となります。しかし、最近ではウイルス量を直接測定すると、HBe抗体ができてもウイルス量が多かったり、肝炎を繰り返す症例もみられますので、定期的な検査が必要です。当院におきましてもHBe抗原が陰性で、HBe抗体が陽性、肝機能検査が正常のため、無症候性キャリアーとして、定期的な経過観察を行っていた患者さんが急激に肝機能が悪化し、肝性脳症がみられる劇症肝炎の状態になった経験があります(図8)。またB型慢性肝炎の方で、特に肝機能が変動する方は、肝硬変や肝臓癌に移行し易いので治療が必要です。
 B型慢性肝炎の治療の目標としましては、肝機能の変動を抑え、正常化を得ることです。先ほども述べましたように、HBe抗原陽性者では肝機能の変動がみられる方が多く、HBe抗原を陰性化しHBe抗体を陽性化させる、セロコンバージョンをめざします。この為に、使われる薬剤としては抗ウイルス剤のインターフェロンと各種の核酸アナログ製剤があります。インターフェロンは注射が必要であり、副作用も多くみられます。また、若年者の方が効果があり、主に30歳以下の方で使用されます。それに対して、B型肝炎ウイルスの増殖を阻害する核酸アナログ製剤は内服薬であり、1日1回投与で副作用もほとんどありません。しかし、受精や妊娠、出産時の安全性が確立されていないこともあり、主に35歳以上の方が投与の対象となっています。当院でも核酸アナログ製剤を使用した患者さんは、肝機能が速やかに軽快し、HBV-DNA量も低下しています(図9)。しかし、この薬剤は勝手に中止するとリバウンド現象により、肝機能が急激に悪化したり、長期に投与しているとウイルスに薬剤耐性株が出現し、肝機能がやはり悪化することがあります。肝臓専門医の管理の下で投与していただくことが望ましいと思われます。

【C型慢性肝炎の診断と治療】

 C型肝炎の特徴は輸血や他の原因で本人が知らない間に感染し、感染すると約70%の方が慢性化し、症状が余りみられないまま、肝硬変や肝臓癌に進行している方が多いことです。ですから、肝硬変や肝臓癌に進行する前にウイルスを駆除し、陰性化させることが大事です。この為の、主な治療はインターフェロン投与です。ところが、C型肝炎ウイルスの遺伝子型、ウイルス量を調べると日本人はインターフェロンが効き難い、1型、高ウイルス量の症例が多いとされ、当院の統計におきましても約3分の2の方が1型、高ウイルス量でありました(図10)。当院では、1998年から2007年の10年間に70例のC型慢性肝炎の方にインターフェロンが使用されました。インターフェロン投与終了後も6か月以上C型肝炎ウイルスの陰性化が続いている、ウイルス学的著効が得られた患者さんが55%、インターフェロン投与終了後、C型肝炎ウイルスが陽性になったものの、肝機能検査は正常化している、生化学的著効が12%みられました。当院でインターフェロンを使用したC型慢性肝炎患者さんの約3分の2の方が、肝硬変や肝臓癌への進行を停止ないしは遅らせることが可能であったと考えます。しかし、ウイルスの型と量別にインターフェロンの効果を検討すると、1、2型とも低ウイルス量の方は、100%ウイルス学的著効が得られたのに対して、2型、高ウイルス量では53%、1型、高ウイルス量では23%の方に著効が得られたに過ぎませんでした(図11)。このような、難治性の1型、高ウイルス量患者さんに対しては、最近では週1回投与で効果のある、PEGインターフェロンと経口抗ウイルス製剤のリバビリンの併用が治療の主流となっています。しかし、インターフェロン使用に際しては、悪寒、発熱、筋肉痛などのインフルエンザ様症状の他に、白血球、血小板の減少、うつ病、間質性肺炎、脳血管疾患などの死亡につながる重篤な副作用がみられますので、やはり、肝臓専門医の厳重な管理下に投与されることが望ましいと思われます。
 インターフェロンを使用してもウイルス学的著効が得られない方や高齢者、副作用でインターフェロンを使用できない患者さんにおいては、なるべく肝機能を正常化させておく事が、肝臓癌出現を遅らせるとされています。これらの目的で使用される治療薬としては、ウルソデオキシコール酸の内服、グリチリルサン製剤の静脈注射が、また、肝臓の余分な鉄分を除く、瀉血療法があります。最近では、脂肪肝と肝臓癌発症の関係が注目されており、肥満の予防並びに是正も大切です。

【肝臓癌の診断と治療】

 今までも、述べてきましたように肝臓癌は、B型、C型の慢性肝疾患の方が 高危険群と言えます。このような患者さんを早期に発見し、腹部超音波検査を中心とする腹部画像診断検査を定期的に行えば、肝臓癌を早期に発見することが可能です。
 当院で過去5年間に診断、治療を行ってきた76例の肝臓癌患者さんについて検討すると、平均年齢は70歳、男性が80%、女性が20%、成因はC型肝炎が66%、B型肝炎が26%と90%以上の方がウイルス性肝炎の方でした。肝臓癌の腫瘍マーカーであるAFPが20以下の方が43%もあり、また、肝線維化の進展度をよく示すとされる血小板の平均値も15.7万でした。血液検査だけでは、肝臓癌の発見が困難であることがよくわかります(図12)。また、76例の患者さんのうち、当院で経過観察を行っていた患者さんの腫瘍径の平均値が2cm以下であったのに対して、症状が出現して当院を受診した方や他院から紹介された方の平均腫瘍径は5cmを超えていました。肝臓癌の早期発見に、如何に定期的な経過観察が重要であるかと言うことがよく分かります。
 次に肝臓癌の主な治療につきまして説明します。普通、癌は早期に発見して、手術で完全に摘出することが重要と考えられます。しかし、肝臓癌の場合は腫瘍部を切除しても、ウイルス性の慢性肝疾患がある限り、5年以内にほぼ100%、新規病変が出現します。また、基礎疾患としてある肝硬変などによる肝予備能の低下のため、手術後肝不全に陥る危険性もあります。このため、肝臓癌の治療として、内科的局所療法が選択されることが多くなっています。最近の局所治療の中心は腹部超音波検査ガイド下にラジオ波発生電極針を肝臓癌に穿刺し、ラジオ波を10-15分間通電して、腫瘍の焼灼凝固壊死を起こさせる、ラジオ波熱凝固療法(RFA)です(図13)。既に進行した大きい肝臓癌や、多発性の肝臓癌に対しては、肝臓癌を栄養する肝動脈を細かく切ったゼラチンスポンジなどで、選択的に塞栓する、経肝動脈塞栓術(TAE)(図14)や抗がん剤を体内に埋め込んだリザーバーを通じて肝動脈内に持続的、間歇的に投与する治療などがあります。また、手術や内科的局所治療で局所制御が可能であった方では、新規病変の出現を防ぐために、肝機能や患者さんの状態が許す限り、基礎疾患に対する抗ウイルス療法を行っていくことで、肝臓癌根治の可能性も期待されます(図15)。
 以上、肝臓癌の原因となるB型、C型肝炎ウイルス性慢性肝疾患を中心に、肝臓の病気の診断と治療について述べさせていただきました。

図  表 

拡大画像へ
リンクします

図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11

図12

図13

図14

図15