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東北支部

がん検診の正しい受け方とセカンドオピニオンについて

渋谷 大助(宮城県対がん協会 がん検診センター)


【はじめに】

日本のがんの現状について見てみましょう。厚生労働省の統計によりますと、今から60年前は死亡原因の1位は結核でありました(図1)。2位は肺炎であり、感染症による死亡が全死亡原因の50%以上を占めていました。これは現在の発展途上国と同様であります。しかし、戦後の経済復興と公衆衛生の向上、抗生物質の発見によって感染症による死亡は激減しました。代わりに増加したのが脳血管疾患、悪性新生物、心疾患です。戦後しばらくは脳卒中が死亡原因の第1位でした。脳卒中は国民病として恐れられ、減塩運動などや医療の進歩によって着実に死亡率が減少してきました。ところが食生活の欧米化、アルコール消費の増大、高齢社会の到来 により、悪性新生物、心疾患が増加の一途を辿っています。肺炎による死亡の再増加は、耐性菌の増加と高齢者の増加が原因と考えられます。特に悪性新生物による死亡の増加は著しいものがあります。平成18年の人口動態統計概数によると、全死亡者は108万4488人で、がんによる死者は約33万人、がんによる死亡者は全死亡者の30.4%になっています。これは、100秒に1人が「がん」で亡くなっており、2人に1人が「がん」に罹り、3人に1人が「がん」で亡くなっていることを意味しています。

【早世とは】

ところで、早死にとは何歳ぐらいまでを言うのでしょう?厚生労働省の統計によりますと、65歳未満で亡くなる方を早世(早死に)と言っています。世界一の長寿国である我が国の早世者はどれくらい有るのでしょうか? 65歳未満の死亡確率の年次推移を見て下さい(図2)。青線が男性、赤線が女性を表します。今から60年前の日本では国民の50%が65歳まで生きられなかったことを示しています。世界一の長寿国である現在の日本でも、国民の15%は65歳まで生きられません。男性では20%、現在でも日本人の男性の5人に1人は65歳まで生きられないのです。日本人男性の5人に1人が早死にだということになります。多くの日本人はこのことを知っているのでしょうか?

【早世の最大の原因はがん死である】

早世の原因は何が主なものであるかご存知ですか?ライフステージ別の死亡割合を見てみますと、25歳から64歳までの死亡の原因の第1位は男女とも悪性新生物(がん)であることが分かります(図3)。特に45歳から64歳までの働き盛りの年代では男女とも死亡原因の50%近くが「がん」による死亡であることが分かります。つまり、早死にの最大の原因はがん死であり、日本人の3人に1人が「がん」で死亡すると言いましたが、働き盛りの人々の場合は、2人に1人が「がん」で死んでいるのです。この恐るべき事実に対して我々はあまりに鈍感なのではないでしょうか?

【がんは最も予防可能な疾病のひとつである】

ところで皆さんは、がんが最も予防可能な疾病のひとつであることをご存知でしょうか?逆説的ですが事実なのです。がんの原因の約70%が喫煙や食事、運動不足、飲酒などの生活習慣が関係していると言われています。つまり、それらの生活習慣に気をつけていればかなりのがんは予防可能なのです。がんが生活習慣病と言われる所以です。世界がん研究基金の「がん予防のための提言」では、禁煙は当然のことですが、野菜・果物をたくさん食べ、植物性の食べ物を中心に、動物性の食べ物は控え、アルコールも控え、塩分も控え、運動をすることががんの予防になると報告しています(表1表2)。

【がんで死なないためには】

生活習慣の改善だけでは予防できない「がん」もありますが、がん検診を受ける事によって「がん」になっても「がん」で死なないようにすることができます。病気に罹らないための予防を一次予防と言い、病気に罹っても大事に至らない、がんで言えば、早期発見・早期治療によって、がんで死なないための予防を二次予防と言います。がん検診がこれにあたります。生活習慣の改善とがん検診を受けることによって、がんで死なないようにすることができる時代になってきました。がんは最も予防可能な疾病のひとつであるとは、こういう理由からなのです(表3)。

【正しいがん検診とは】

検診によるがん死亡の減少のためには有効性が証明された検診を正しく行う(徹底した精度管理の基に行う)ことが必要であるとされています。有効性が証明された検診はガイドライン等で知ることができますが、自分が受ける検診機関が正しい検診をしているかどうかを一般の方々が知ることは困難です。そこで国は事業評価による精度管理を行い、都道府県がそれを把握し、結果をインターネット等で公表しようとしています。がん検診に精度管理が重要なのは、検診にはメリットとデメリットがあるからなのです。

【がん検診のメリット】

がん検診のメリットは言うまでもなく、早期発見・早期治療によってがんに罹ってもがんで死なないことです。胃がん、子宮がん、大腸がんとも検診を受けたことが無い人は、がん検診を受けている人の2〜7倍がんで死ぬ確率が高いと言われています(表4表5表6)。また、精密検査が必要になっても精密検査を受けなかった人は精密検査を受けた人よりも死亡率が4倍高いと言われています(表7)。がん検診を受けることの大切さと、精密検査を受けることの大切さがお分かりいただけると思います。

【がん検診のデメリット】

一方、がん検診のデメリットとして、偽陰性(がんが有っても異常なしと判定)と偽陽性(がんが無いのに精密検査が必要と判定)の存在があります。これは検診に限らず全ての検査に存在します。偽陰性(見逃し)も偽陽性(不必要な精密検査)も無い方が良いのですが、実際にはいくらかの存在は避けられません。偽陰性を減らそうとすれば偽陽性が増えます。このように一方を良くすれば他方は犠牲になる関係をトレード・オフの関係と言います。その他に過剰診断の問題があります。過剰診断というと誤診を思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、誤診ではありません。がんはがんなのですが、死ぬまで症状が出ない(進行がんにならない)がんを診断してしまうことです。不必要な治療、精神的苦痛、経済的損失を伴うことになります。さらに、検査による偶発症(医療ミスとは違う、適切な医療行為を行っても出現する予期せぬ傷害)があります。これは一般の医療でも起こりうることなのです。さらに過剰診断の場合は治療による偶発症の危険も加わります。がん検診にはこのように色々なデメリットがあるので、メリットがデメリットを上回っているという科学的証拠がある検診だけを行い、それを徹底的な精度管理の基に行う必要があるのです。

【正しいがん検診の受け方とは】

以上のことから正しいがん検診の受け方とは、「日頃より健康に気をつけて良い生活習慣を身につける。有効とされるがん検診を毎年または隔年で受ける。精密検査が必要と通知されたら精密検査を受ける。検診で異常なしと言われても、症状があれば早めに医療機関を受診する。症状が有る方はがん検診を受けるのではなく、初めから医療機関を受診する。」ことだと言えるでしょう(表8)。

【上手なセカンドオピニオンの受け方とは?】

最近セカンドオピニオンという言葉を良く聞くようになりました。セカンドオピニオンは医者を変えることだと思っている方がいらっしゃるようですが、そうではありません。「がんと宣告された時、自分が納得した治療法を受けるために、主治医とは違う医師の意見を伺うこと」と説明されています。
そのため、多くのセカンドオピニオン外来では次のような方はお断りをしている場合がほとんどです。すなわち、主治医に対する不満、医療過誤および裁判係争中に関する相談、医療費の内容、医療給付に関わる相談、死亡した患者さんを対象とする場合、主治医が了解していない場合、特定の医師・医療機関への紹介を希望されている場合、指定された相談に必要な資料(診療情報提供書・検査データ・レントゲンフィルムなど)を持っていない場合、相談内容が専門外である場合、予約外の場合などです(表9)。
以上を踏まえますと、上手なセカンドオピニオンの受け方とは、まずは主治医の説明や意見をきちんと聞いて、セカンドオピニオンを聞きたいと思ったら、その旨を主治医にお話して理解を得ることが必要です。それから主治医に紹介状を書いてもらい、病理検査、レントゲン、内視鏡検査などの診療情報をもらいます。ほとんどのお医者さんは快く引き受けて頂けるはずです。受診前に病院に電話をして、受け入れ体制、予約の有無、持参する資料などを確認します。これまでの経過や質問事項、それに対する主治医の意見などを整理メモにまとめておくとスムーズにいくでしょう。当然のことですが、受診後は主治医への報告を忘れないようにするのが良いと思います(表10)。

【がんについての悩みごとの相談は?】

セカンドオピニオンではないけれど、がんについての悩みごとで困っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか?(財)日本対がん協会ではそのような方のために「がんホットライン」、「医師による面接相談」、「医師による電話相談」を受け付けています(図4)。予約が必要ですが、いずれも無料で行われています。また、各都道府県にある支部でも同様の試みが行われているところも有ります。(財)宮城県対がん協会でも、事前予約制ですが、隔週木曜日の午後に、1人30分、4人まで、医師による面接相談を行っています。詳しくは、(財)日本対がん協会および各都道府県支部のホームページを参照するか、お電話でお問い合わせ下さい。

【おわりに】

“がん”は2人に1人が罹る病気であり、進行がんで見つかった場合は肉体的・精神的苦痛を伴うばかりでなく、経済的にも困難に陥り、しばしば家族をも犠牲にします。しかし、今や“がん”は、社会がその意思さえ持てば克服出来る病気であり、たとえ治癒できなくても治療初期からの緩和ケアの導入により、苦痛を取り除き、人間が尊厳を持って人生の最後を全う出来る病気になりました。今私たちに求められているのは、全ての国民が“がん”に対する正しい知識を持つこと、がん診療に携わる全ての医療従事者への高度な専門知識の普及、そして何よりも「がんに負けない社会を作る」という強い意志ではないでしょうか?

図  表 

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図1

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表1

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表5

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表7

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表9

表10

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