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北海道支部

胃がん、大腸がんの予防と早期発見、最新治療

篠村 恭久(札幌医科大学 第1内科)


【1.はじめに】

 がんはわが国の死亡原因の第一位であり、年間30万人以上ががんで死亡しています。そのなかでも胃がん、大腸がんは死亡原因の上位を占めています。胃がん、大腸がんは局所に限局している時期に発見できれば、がんを完全に除去して治すことができます。胃がん、大腸がんを除去する基本的な治療法は外科的手術ですが、より早期に発見されますと苦痛の少ない内視鏡治療でがんを完全に切除することが可能です。一方、胃がん、大腸がんが転移して全身に広がると切除は困難で、薬物治療が主体となります。胃がんと大腸がんについて原因や診断、治療について理解し、がんの予防と早期発見に努め、がんが発見された場合もあわてず対処できるよう心がけましょう。

【2.胃がん】

1)胃がんの予防
 日本は世界でも胃がんの発生頻度が高い国で、早期発見などの要因により胃がんの死亡率は低下傾向にあるものの、未だに年間5万人以上の日本人が胃がんで死亡しています。胃がんの原因には、ヘリコバクター・ピロリという細菌(以下ピロリ菌と略します)が関与していることが明らかになっています。ピロリ菌は、1983年にオーストラリアの学者WarrenとMarchallによってヒトの胃の中から発見された細菌で、アンモニアを産生して酸性度の強い胃の中でも生息することができます。ピロリ菌は、胃に慢性感染し、慢性胃炎や胃潰瘍の原因となるばかりでなく、胃がんの原因にも関わることが示されています。日本人では、中高年者でピロリ菌の感染率が高く、若年者では感染率が低いことが示されています。若年者で感染率が低い原因は明らかではありませんが、近年の日本の衛生環境の改善が関係していると考えられています。
 ピロリ菌感染者のなかでも、特に胃炎が進展して胃粘膜が薄くなる萎縮性胃炎の人や、胃のヒダが太くなっている胃炎の人、胃粘膜表面が鳥肌のように不整になっている胃炎の人では胃がんの発生が多いことが示されています(図1)。したがって、萎縮性胃炎や、胃のヒダが太くなっている胃炎、胃粘膜表面が鳥肌のように不整になっている胃炎を指摘されている人は定期的に胃がん検診を受けることが推奨されます。
 早期胃がんで内視鏡治療を受けた人にピロリ菌の除菌を行うと、胃がんの発生が約3分の1に減少することが報告されています。したがって、慢性胃炎になってからでもピロリ菌の除菌は胃がんの予防に有効であると考えられます。現在、ピロリ菌の除菌の保険適用は消化性潰瘍を伴ったピロリ菌感染に限られております。また、過剰な食塩の摂取は胃がんのリスク因子であることが示されています。胃がんを予防するために、アルコールとタバコを避け、塩分の少ない食事、ビタミンCの多い野菜や果物を摂取することが推奨されています。

2)胃がんの早期発見
 胃がんの症状には、上腹部痛や上腹部の不快感、体重減少、嘔吐・悪心、吐血・下血、食欲不振などがあります。胃がんは早期には症状がないことが多いので、中高年者は胃がんの検診を受けることが推奨されています。胃がんの検診法には、胃X線検査と内視鏡検査、ペプシノーゲン法があります。胃X線検査は最も普及している検診法で、バリウムを飲んで胃を撮影して異常を認めた場合にはさらに内視鏡で精密検査を行います。胃内視鏡検査は胃X線検査より小さな胃がんの発見が可能で、初めから内視鏡検査で調べる検診も行われています。また、血清ペプシノーゲン検査は胃がんの高リスク群である萎縮性胃炎の診断に有用であることから、血清ペプシノーゲン値を測定し胃がん高リスク群と判定された人に内視鏡検査を行う検診法も行われています。検診で胃がんが発見された人は、症状がでてから医療機関を受診して胃がんが発見された人に比較して5年生存率が高いことが報告され、胃がん検診の有用性が確かめられています。しかし、胃がんの検診を受けている人がまだまだ少ないのが現状です。40歳以上の人は積極的に検診を受けるようにいたしましょう。

3)胃がんの治療
 胃がんは粘膜から発生し、粘膜下層、筋層、しょう膜へ浸潤していきます(図2)。がんが粘膜に留まっている場合は転移がありませんが、がんが粘膜下層、筋層、しょう膜へ広がっていくにしたがって胃周囲のリンパ節や肝臓など他の臓器に転移が起こりやすくなります。胃がんが粘膜下層までに留まるものを早期胃がんと呼びます。がんが胃粘膜のどこまで広がっているか、リンパ節への転移がどの程度あるか、肝臓や腹膜に転移があるかどうかを内視鏡検査やX線検査、CT、超音波検査などにより評価し、胃がんの進行度を診断します。胃がんの進行度(ステージ、病期)は、がんの胃壁への広がり(深達度)とリンパ節転移の程度からステージⅠAからステージⅣの病期に分類されます(図3)。胃がんの治療は、病期によって異なっています。がんの広がりが粘膜下層までに留まり、リンパ節転移がない場合はステージⅠAとなり、がんが肝臓や腹膜など遠隔転移がある場合や広範なリンパ節転移がある場合はステージⅣになります。
 胃がんの治療法には、内視鏡治療や外科治療、抗がん剤治療、放射線治療、緩和治療などがあります。胃がんの基本的な治療法は外科治療で、がんを含めた胃の切除、周辺のリンパ節の切除を行います。胃がんの存在する部位や大きさなどにより胃を部分的に切除するか、全部切除するかが決められます。胃がんは顕微鏡でみた形態により分化型がんと未分化がんに分けられます(図4)。分化型胃がんはがん細胞が腺管を形づくりながら塊として発育するのに対し、未分化型胃がんではがん細胞がばらばらに発育します。内視鏡治療では、切除した組織を用いてがんが完全に切除されたかどうかを判定します。分化型胃がんではがん細胞が完全に切除されたかどうかの判定が可能ですが、がん細胞がばらばらに存在する未分化型胃がんではこの判定が困難です。したがって、未分化型胃がんは内視鏡治療には適しません。ステージⅠAでがんが胃の粘膜に留まっている分化型胃がんが、内視鏡治療に適しています。
 内視鏡治療の方法としては、ポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除EMR, 内視鏡的粘膜下層剥離術ESDがあります。隆起してくびれがある早期胃がんの場合は、病変にスネアと呼ばれるワイヤーをかけて、高周波電流を流して焼き切るポリペクトミーが行われます(図5)。EMRは、平坦な早期胃がんに対してスネアがかけやすいように病変の粘膜下層に生理的食塩水を注入して隆起をつくってから、スネアをかけて切除する方法です。ESDはセラミック製の小球のついたITナイフやフックナイフを用いて病変を切り取る方法です(図6)。ESDは、EMRより大きな病変を切除することができます。
 がんが肝臓や腹膜などに広範に転移している場合は、外科治療で完全にがんと取り除くことが困難になります。外科治療ができないステージⅣの胃がんでは、抗がん剤による治療が行われます。胃がんに対して用いられる抗がん剤には、ティーエスワン (TS-1) などの代謝拮抗剤や、白金製剤シスプラチン、トポイソメラーゼ阻害薬イリノテカン、タキサン系抗がん剤などがあります。経口抗がん剤ティーエスワン (TS-1) と注射薬シスプラチンの組み合わせ治療は治療成績が優れていることが報告され、標準的な治療法になっています。この組み合わせの抗がん剤が効かない場合や副作用が強い場合は、他の抗がん剤に変更して使用されます。放射線治療は、胃がんが骨に転移した場合などで行われます。

【3.大腸がん】

1)大腸がんの予防
 大腸がんは近年わが国で増加しているがんで、男性と女性が同頻度でみられます。大腸がんが増加している要因としては、ライフスタイルの変化による運動不足や過栄養による肥満が指摘されています。WHO (世界保健機関)は2003年に肥満を大腸がんの確実なリスク因子であると認定しています。わが国における大規模疫学研究においても肥満は大腸がんのリスク因子であることが明らかにされています。肥満は、大腸がん以外にも乳がん(閉経後)や子宮がん、腎がん、前立腺がんのリスク因子であることを示されています。WHOは、肥満をタバコに次ぐがんを予防できる重要な原因に指定して予防に力を入れています。大腸がんの予防には、高脂肪食を控え、野菜、果物を多くとり、定期的な運動を継続して、内臓脂肪の蓄積を予防することが重要であると考えられています。
 消化管の粘膜から発生し消化管の管腔内に突出した組織をポリープと呼びますが、大腸がんのかなりの割合は大腸の良性のポリープから発生すると考えられています(図7)。大腸がんの発生を予防する観点から、大腸ポリープを内視鏡治療で切除することが行われています。

2)大腸がんの早期発見
 大腸がんの症状としては、血便や便秘、下痢、便が細い、お腹が張るなどがあります。このような症状がある場合は医療機関を受診して大腸の検査を受けることをお勧めします。しかし、大腸がんの場合も早期がんでは症状がないことが多いので、40歳以上の人は大腸がん検診を受けることが推奨されています。大腸がん検診では、便潜血検査2日法が一般的です。便潜血検査は目にみえない程度の出血を便中で検出する検査です。便潜血反応陽性者に大腸内視鏡による精密検査を行うことにより大腸がんや大腸ポリープなどを発見します。40歳以上の人は積極的に大腸がん検診を受けるようにしましょう。

3)大腸がんの治療
 大腸がんの治療法は、内視鏡治療、外科治療、放射線治療、抗がん剤治療などがあります。大腸がんの治療は、がんの進行度(病期)に応じて治療が選択されます。大腸がんの原則は、がんを残すことなく切除することです。大腸がんが粘膜に留まっている場合や粘膜下層へのがんの広がりが軽度の場合は内視鏡治療が可能です。粘膜下層より深部にがんが広がった場合は手術が原則で、がんとともに口側と肛門側の腸管を一部切除し、同時に周囲のリンパ節の切除を行います。大腸がんが肝臓などの遠隔臓器に転移した場合も、安全に切り取れる場合は手術で切除します。外科治療ができない大腸がんでは、抗がん剤による治療が行われます。
 大腸がんの治療に用いられる抗がん剤には、代謝拮抗剤5-FUやトポイソメラーゼ阻害薬イリノテカン、白金製剤オキサリプラチンなどがありますが、最近は、これに加えて、がん細胞に選択的に作用して副作用が少ない分子標的治療薬も用いられるようになっています。従来の抗がん剤は、細胞のDNAの合成や細胞分裂を抑制する薬で、がん細胞ばかりでなく骨髄の造血細胞や胃腸の上皮細胞など増殖の盛んな正常細胞にも作用して、白血球の減少や嘔気、下痢などの副作用を起こします。一方、分子標的治療薬はがん細胞が産生する分子に選択的に作用するよう創薬された薬で、ミサイルのようにがん細胞に選択的に作用します(図8)。大腸がんに用いられる分子標的治療薬には、ベバシズマブとセツキシマブがあります。ベバシズマブは、血管内皮増殖因子VEGFに対する抗体医薬で、がん細胞が産生するVEGFと結合することにより血管新生を阻害してがん細胞の増殖を抑えます(図9)。ベバシズマブは、単独では効果が弱く、従来の抗がん剤と併用して用いられます。セツキシマブは、がん細胞の表面に存在する増殖因子受容体EGFRに対する抗体医薬です。セツキシマブは、EGFRに結合することによりEGFRの働きを抑えて、がん細胞の増殖を抑制します(図10)。セツキシマブは、従来の抗がん剤が効かなくなった例でも有効であることが示され、他の抗がん剤が効かなくなった大腸がんに用いられます。最近、KRAS (けーらす) という遺伝子の変異がある大腸がんではセツキシマブが効かないことが明らかになっており、治療前にKRAS遺伝子変異を調べ、KRAS遺伝子変異のない大腸がんの治療にセツキシマブを使用することが推奨されています。

【4.おわりに】

 胃がんと大腸がんの予防と早期発見、最新治療について解説しました。本稿が、皆様のがんに対する理解に役立ち、健康管理や医療機関を受診する際の参考になれば幸いです。

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10