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近畿支部

膵臓がん治療の最前線

藤田 直孝(仙台医療センター仙台オープン病院)


【1.膵臓とは】

 膵臓は胃の裏側(背中側)に存在し、脾臓のそばから背骨(脊柱)や大動脈などの上を横切り、十二指腸に囲まれるように位置する15‐20cm程度の長さの臓器です(図1)。脾臓側を尾部、十二指腸側を頭部、中間部分を体部と呼びます。重量は100g程度で、消化酵素を含んだ消化液(膵液)を分泌する(外分泌)、ホルモンを分泌する(内分泌)という機能を持ちます。1日の膵液分泌量は1L程度といわれています。前者の代表的なものとしてはアミラーゼ(炭水化物の消化を助ける)、トリプシン(タンパク質の消化を助ける)、リパーゼ(脂肪の消化を助ける)があり、後者にはインスリンやグルカゴン(血中の糖(血糖)の濃度を調節する)があります。

【2.膵がんの特徴】

 現在日本では、膵がんは消化器がんによる死亡の第5位(男性の第5位、女性の第6位)になっています。胃がんや肝臓がんは減少傾向にありますが、膵がんは大腸がんとともに増加傾向にあり、対策の急がれるがんといえます(図2)。膵がんは男女ともに50歳代から70歳代に多く発症しています。
 膵がんは治りにくいがんの一つとしても知られています。これは、膵癌に特有の症状がなく、また症状がみられるようになった段階では、手術で完全に取り去ることが難しい場合が多い、お薬で完全に治るということが難しい、早期に発見するための検診の方法が確立されていないなどの理由によります。

【3.膵がんの症状】

 膵がんの症状としては、おなかや背中の痛み、体が黄色くなる(黄だん)、体重が急に減る、食欲がなくなる、だるさがでてきた、あらたに糖尿病と診断された、以前から糖尿病の方で血糖のコントロールが急に悪くなった、などがあげられます(図3)。先にも述べましたが、このような症状は他の良性の疾患でも見られるような症状であり、すぐに病院に行って相談しようと考えない患者さんが多くみられるのもやむを得ない状況にあります。

【4.なおる膵がんとは】

 図4(縦軸:生存率、横軸:月)に示しますように、無症状の段階で何らかのきっかけをもとに診断ができると、手術後の成績が症状があって治療を受けた患者さんよりもいいというデータがあります。このことから、早期発見のための方法の開発に向けて、現在遺伝子学的な問題も含め精力的に研究が進められているところです。一方図5は、膵がんの大きさと手術後の成績の関係を示したものです。膵がんが小さい段階で手術できれば、治療成績がよいことが明らかです。したがって、「症状に頼らず」、「小さいうちに見つける」ということが膵がんの診療上きわめて大切ということになります。
 最近の成績では、手術を受けた患者さんの割合は、40%程度で推移しています。

【5.膵がんの危険群】

 症状のないうちに発見するということになると、集団検診や人間ドックなどがいい機会となります。しかし、膵がんではいい集団検診の方法がないということで、効率の問題から、国や地方自治体も予算化していない状況です。したがって、現実的には膵がんの危険群、すなわち膵癌にかかりやすい人に定期的な受診をお勧めするということが行われています。では、膵がんの危険群とはどのような人たちでしょうか。ご家族に膵癌になった方がいらっしゃる人、煙草を吸う人、糖尿病の人や慢性膵炎の人、そしてあまり聞き慣れないかと思いますが膵管内粘液性乳頭腫瘍(IPMN)の人が、通常の人々よりも膵がんになりやすいといわれています。したがって、このような方々は自覚症状の有無にかかわらず定期的に検査を受けて、膵がんの早期発見に努めることが有用と考えられます。もちろん、このような条件に当てはまらない人でも、自ら人間ドックなどで健康をチェックし早期発見に努めようとすることも大事なことです。

【6.膵がんの診断法】

現在、膵がんの診断に使われている検査法は多数あります。おのおのの検査には特徴があり、拾い上げ診断に適したもの、精密診断に用いるものがあります。一般に、拾い上げ診断に用いられる検査法は負担の軽いものが用いられ、精密検査となるとそれよりも負担が増える傾向があります。病変があることの確からしさに応じて選択していくことになります。
 拾い上げ診断法の代表的なものとして、腹部超音波(エコー)検査、コンピューター断層法(CT)、磁気共鳴胆管膵管造影法(MRCP)が挙げられます。
 腹部超音波検査は探触子といわれる器械をおなかにあてがうことにより、超音波の反射を利用しておなかの中の臓器を画像化して、形の変化をとらえる検査法です(図6)。「おなかの聴診器」と呼ばれており、聴診器同様に負担なく受けていただける検査法です。
 CT検査はX線を用いる検査法で、比較的大型の装置を使います。寝台に横になった状態で装置の丸い輪の中をくぐることにより、からだの輪切りの像を得ることができます。痛みなどは全くなく、全身の検索が行える方法です。従来は、いい画像を得るために息止めが必要でしたが、最近では装置の進歩により、息止めをすることなく短時間で検査が可能となりました。さらに検出感度を高めたり精度の高い検査を行うために、造影剤というお薬を静脈注射することもあります。
 MRIもCT同様大型の装置を使います。強い磁気を用いて画像を撮影するため、周囲から遮断された部屋で検査を行います。この検査もCT同様、装置の寝台に寝ていれば体の内部の状態を反映した画像が撮れる、負担の少ない検査法です。またMRIでは、MRCPという画像診断を行うこともできます。MRCPはからだの中の動きのない水を画像として描出することを可能にする検査法です。特にX線を用いたり造影剤を注射したりすることなく、胆管や膵管の画像を得ることが可能です(図7)。磁気を用いるために、からだの中に金属が入っている方、たとえばペースメーカーを埋め込んでいる方では検査ができないのが難点です。また、検査室に一人で入っていただくため、閉所恐怖症の方は受けることが難しいという問題があります。
 この他、PET(ペット)と呼ばれる検査法が最近普及しつつあります。がんでは代謝が亢進し、ブドウ糖の取り込みが正常組織より活発になります。PETはがんのこのような特性を利用して、放射性同位元素というもので目じるしを付けたブドウ糖を注射し、集まったところを画像として表示することによって、がんを発見する方法です(図8)。PETでは全身の検索が可能で、PET検診も行われるようになっています。現在のところ自費負担で、高額であることが難点です。
 膵がんの精密検査法としては超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)があります。EUSは外来で受けることのできる検査で、いわゆる胃カメラのような内視鏡の先端部分に超音波検査装置が付いており、これを口から挿入して胃や十二指腸から隣り合って存在する膵臓のくわしい超音波断層像を得ることができます。膵臓に癌があると、その部分で超音波の反射が弱まり黒い影として描出されます。一方、ERCPは入院の上で行うのが一般的です。ERCPも内視鏡を口から十二指腸まで挿入し、内視鏡を通じて細いチューブを膵管の出口にあてがって、造影剤を注入することにより膵管のレントゲン像を記録します(図9)。また、同時に膵管の組織や膵液を採取して、病理学的な検索(顕微鏡で細胞の様子を観察し、がんかそうでないかを見極める)のための試料を手に入れることが可能です。
 これらの検査で膵がんが疑われる場合には、手術ができるかどうかをみるための検査が重要となります。この評価にはEUSとCTが有用と考えられています。残念ながら手術のできない状態であると診断された場合には、抗がん剤による化学療法が有効かどうかを知るために組織検査(組織診、細胞診)を行います。

【7.膵がんの治療】

 膵がんの治療法としては、外科手術、化学療法、放射線療法、これらの組み合わせ、があります。前に述べましたように、現在完全に治るためには、手術で病気の部分を残らず切り取り体の外に出すという方法が唯一の治療法と考えられています。がんの発生部位により手術の方法が異なります。一般に、尾部のがんの手術よりも頭部のがんの手術の方が切除、再建の侵襲が大きく、入院期間も長くなります。
 抗がん剤による化学療法は、以前よりも治療効果が期待できるようになっています。現在、点滴注射や内服薬で治療が行われており、多くの部分が外来で治療可能な状況になっています。抗がん剤は新しいお薬が開発され、臨床試験としてこれらの新薬を用いた治療に参加することができます。
 放射線照射による治療も行われています。手術の前や手術中、手術後、手術のできない患者さんへと、さまざまなタイミングで治療が試みられています。入院が必要である点などから制約があります。

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9