一般のみなさまへ for citizen

甲信越支部

肝炎 抗ウイルス療法と地域ネットワーク

坂本 穣(山梨大学第1内科)


【C型慢性肝炎の現状】

 C型肝炎とはC型肝炎ウイルスの感染によりおこる肝臓の病気です。C型肝炎ウイルスは血液を介して感染しますが、いったん感染すると、70%の患者さんでは、ウイルスは排除されることなく持続感染し、肝臓の炎症が続き、細胞が壊れて肝臓の働きが悪くなります。やがて長い経過のうちに慢性肝炎・肝硬変・肝がんへと進行しやすいことが知られています。しかも、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、病気が進行しても自覚症状がほとんどありません。このため、現在わが国には、100人に1~2人の割合でC型慢性肝炎の患者さん、あるいは本人も気づいていないC型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリア)がいると推測され、国全体では150~200万人もの方がC型肝炎ウイルスにかかっていると考えられています。一方、肝臓がんでは年間3万人が亡くなっていますが、このうち75%がC型肝炎に関連したものであり、しかも年々増加傾向にあります。これは、C型慢性肝炎は、軽い肝炎のまま経過する場合もありますが、多くの場合、長い間に徐々に病気が進行し、治療しないと10~30年でその3~4割が肝硬変、さらに肝がんに移行するためだからです。現在、全がん死亡のうち肝がんは男性3位、女性は5位を占めています。

【インターフェロンの治療効果-ウイルス量と遺伝子型】

 このため病気の進行を防ぎ、肝がんになるのを防ぐためにはC型肝炎ウイルスをからだから排除することが最も重要です。このための治療にはインターフェロンというくすりを使います。これまでの治療はインターフェロンだけを単独で注射する方法が一般的でしたが、治療効果が高くありませんでした。しかし、最近ではリバビリンという飲み薬を併用することで高い効果を期待できるようになり治療効果は格段に進歩しました。しかも、従来のインターフェロンは週3回の投与が必要でしたがペグインターフェロンという週1回の注射ですむ薬剤も開発され、治療効果が向上しただけではなく、患者さんの負担も軽くなってきています。しかしいろいろな副作用があり、なかには命にかかわる副作用があることから、従来は治療に対して消極的な先生方も多くいたことも事実です。しかし最近は治療効果が進歩したことや、C型肝炎ウイルス感染を放置すれば肝癌の危険性が高くなることから、私たち専門家は積極的に治療すべきであると考えています。
では、実際の治療効果を見てみましょう。インターフェロンの効果は感染しているC型肝炎ウイルスの量と型でだいたいがわかります。すなわち、血中のC型肝炎ウイルスウイルス量が多い患者さんは効きにくく、少ない患者さんは効きやすいことが明らかになっていますし、C型肝炎ウイルスの型1型で効きにくく、2型では効きやすいことがわかっています。1型(ほとんどが1b型)は日本人では感染者の70%を占めていますが最も効きづらく、10%を占める2b型、20%の2a型の順に治療効果は高まります。従来、最も「難治」の1b型でウイルス量が多い患者さんでは、インターフェロンだけで6ヶ月間治療しても5%程度したウイルスが排除できませんでした。しかし、現在最も強力なペグインターフェロンとリバビリンの併用療法を1年間行えば約50%の患者さんではウイルスが排除可能になりました。また、2a型や2b型では、6ヶ月間の治療で80~90%の患者さんでウイルス排除が可能になりました。(図1)。

【1b型のインターフェロンの治療効果】

しかし、治療効果が高まったとはいえ、1b型に感染している患者さんでは、ウイルスが排除できる確率は半数以下です。そこで私たちは、ウイルスが排除できる患者さんとそうでない患者さんの違いを見つけようと考えました。つまり、治りやすそうな患者さんには積極的に治療をすすめたり、副作用を出にくくするため薬の投与量や治療期間を減らすことを考慮し、治りにくそうな患者さんには、強力な治療を行ったりするための参考にするためです。
そこで、これまでに明らかになったことは、インターフェロンは
男性では効きやすく、女性では効きにくい。
若い人ほど効きやすく、高齢者では効きにくい。
肝臓の線維化が軽いほど効きやすく、重い(肝硬変に近い)ほど効きにくい。
治療開始してから、早く、血中からウイルスが消えた人ほど効きやすい。
ということでした。とくに女性の高齢者ではインターフェロンの効きがきわめて悪くなるので、女性は、若いうちに治療を開始したほうが良いことがわかりましたし、治療開始早期にウイルスが消えた患者さんは治療を早く切り上げることが可能で、なかなかウイルスが消えなかった(減らなかった)患者さんは治療期間を延ばすことが望ましいことなどがわかりました。そこで、現在は、1b型の患者さんで、治療開始12週間(3ヶ月後に)C型肝炎ウイルス量が治療開始前の1/100になったもののウイルスが陰性化(血中ウイルスが検出される)せず、36週(9ヶ月)までに陰性化した場合は72週(1年半)に治療を延長したほうが、治療効果が高まることが明らかになりました。

【1b型のインターフェロンのさらに精密な治療効果予測-ISDRとコアアミノ酸変異】

 私たちは、さらに詳細に治療効果を予測できないかと考え、C型肝炎ウイルスのウイルス遺伝子に注目しました。これまでにも同じ1b型のC型肝炎ウイルスでもウイルス遺伝子の一部の違いでインターフェロンの感受性が異なることを報告していたからです。すなわちインターフェロン感受性領域(ISDR)という領域の変異、すなわちキズが多いとインターフェロンが効きやすいという事実です。そこで、現在の標準的かつ最強の治療でもISDRの変異と治療効果との関連をしらべてみました。この結果は、この領域に2個以上のキズがあれば、80%の確率でウイルス排除が可能であるのに対し、0~1個では40%程度でしたウイルス排除はできませんでした。インターフェロン単独治療ではこの領域のキズは4個以上ないと治療効果が期待できませんでしたが、治療法の進歩により2~3個でも十分治癒可能となったわけです(図2)。しかし、現在の最強の治療でもISDRの変異数0~1個の患者さんの半分以上は治療効果が期待できません。その一方、約半数では治療効果が期待できるわけですから、これが治療開始前に予測できれば、治療に取り組むために役立つのではないかと考えました。そこで次に、ISDRの変異数が0~1個の患者さんで、ウイルスが早期に排除された患者さんと、治療してもなかなかウイルスが減らない患者さんに注目して、感染しているウイルスの全遺伝子を検討しました。これは、治療してすぐにウイルスが減る患者さんは最終的にウイルス排除が可能で、なかなかウイルスが減らない患者さんは、いったんウイルスが血中から消失しても治療終了後にまたウイルスが再出現してしまう現象を利用したものです。この結果は、なんと早期に排除されるウイルスはC型肝炎ウイルス遺伝子の「コア」という領域の70番目のアミノ酸がアルギニン(R)であるのに対し、そのでないものはグルタミン(Q)に変化していたのです(図3)。
そこで、私たちは患者さんにインターフェロン治療を勧めるにあたり、健康保険で測定可能なC型肝炎ウイルスのウイルス量や遺伝子型検査のほか、ISDRやコアのアミノ酸変異を測定して治療方針を決定しています。

【C型慢性肝炎の新しい治療法】

 さらに、最近はC型慢性肝炎に対する新しい治療法が開発されてきています。これまでの治療はインターフェロンやリバビリンなど、からだのなかにある免疫反応といったC型肝炎ウイルスを追い出す働きを強めるものでしたが、最新はC型肝炎ウイルスそのものに働くくすりが注目されています。すなわち、C型肝炎ウイルスが増殖するときに必要な、プロテアーゼやポリメラーゼといった酵素を阻害し、ウイルスの増殖を妨げようとする薬です。このうち最も開発が進んでいるのがテラプレビルというプロテアーゼ阻害剤で、インターフェロン・リバビリンと3ヶ月間併用し、そのあとインターフェロン・リバビリン併用療法を3ヶ月間追加することで、1b型かつ高ウイルス量症例でも70%もの高いウイルス排除が期待できるとのことで、わが国でも臨床試験が行われています。また、このほかにも、C型肝炎ウイルスが増殖するのに必要な脂質を制御することでインターフェロン治療効果を高めようとする試みも進んでおり、C型肝炎治療の進歩が期待されています。

【インターネットを利用した診療ネットワーク】

 インターフェロン治療についてはここ数年大きな進歩がありました。しかしこの進歩を広く共有するには、私たち消化器病専門医のみならず、非専門医の先生方をふくめた、診療ネットワークづくりが重要です。つまり、地域の先生方にはC型肝炎ウイルス感染の重要性を広く知っていただき、専門医にご紹介いただくこと、インターフェロンなどの治療中の副作用などの患者さんの相談に乗っていただくことなど、病診(専門医-非専門医)連携を築くことが大切です。そこで、私たちは、インターフェロン治療が可能な病院を中核にY-PERS(Yamanashi‐PEG‐interferon‐Ribavirin Study)という名前での研究組織をつくり、これに協力していただく形でのY-PERSネットワークをいうシステムを構築いたしました。この趣旨は、肝炎の患者さんを、インターフェロン治療ができるY-PERS参加施設にご紹介いただき、ともに新しい治療法など研究しつつ診療してゆこうというネットワークです(図4)。
 これには、現在「慢性疾患診療支援システム研究会」で構築したインターネットを利用した「マイ健康レコード」を用いたシステムを使うことを検討しています。これは、患者さんに個人認証のためのカードを持っていただき、インターネットでの診療情報をやり取りしようとするものです。このためには、インターネット商取引と同等のセキュリティシステムを用いた個人情報保護システムを採用し、簡便かつ閲覧性を高めた画面により、病院・診療所・登録患者さん自身にも診療情報を公開しようとするもの(図5)で、現在検証実験を行っています。

図  表 

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図1

表1

図2

図3

図4

図5