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四国支部

新しい内視鏡 —経鼻内視鏡—

岡村 誠介(徳島大学消化器内科)


【内視鏡検査とは?】

内視鏡検査(上部)とは、食道・胃・十二指腸にスコープを挿入して、中の様子を観察する検査です。昔は胃カメラ、その後ファイバースコープになり、今ではビデオスコープになっています。ビデオスコープとは、皆さんがお持ちのデジタルカメラについているのと同じ固体撮像素子(Charge coupled device: CCD)というレンズのようなものが先端に付いている1mぐらいの長い棒のようなものです。そのスコープを手元で上下左右に操作して中を進んで行き、CCDで観察した画像を電気信号に変換しモニター画面に映し出して、病気があるかどうかを診断します(図1)。病気が見つかると組織を採取して検査したり、病気によっては内視鏡を使って治療をすることも可能です。最新の機器はハイビジョン画像となっており、非常にきれいな画像で観察することができるようになりました。このような内視鏡機器の発展と共に内視鏡を受ける方が増加しています。そのため病気、特に胃がんなどは以前より早期に発見することができるようになり、胃がんで死亡される人は減ってきています(図2)。
 しかし、内視鏡検査はすべての人が楽に施行できるとは限らず、中には吐き気が強かったりして苦痛を感じる場合もあります。苦痛の少ない内視鏡検査としては、静脈麻酔による内視鏡、カプセル内視鏡、経鼻内視鏡があります(図3)。静脈麻酔による内視鏡とは、鎮静剤を静脈注射しながら検査を行います。つまり、軽い麻酔をしてボーとなっているうちに検査をします。ただ、麻酔剤にはお体に影響する場合(呼吸抑制や不整脈)があるため、心臓や肺に病気がある方やご高齢の方には注意が必要です。また、検査終了後麻酔剤の効果がなくなる薬を使用しますが、人によってはまた眠くなる場合がありその日は車の運転はできません。カプセル内視鏡は、26×11mm大のカプセルを飲み込み、カプセルが撮影する画像(8時間で約6万枚)を体につけている受信装置に電波で送って、その画像を診断する検査です。湾岸戦争の際の軍事技術を応用した画期的な装置で話題になりましたが、残念ながら現在は小腸用のカプセルしか認可されていません。さらに検査を受けられるのは、胃や大腸内視鏡で異常がない原因不明の消化管出血の方です。外国では大腸や食道用のカプセルが認可され使用されていますが、日本に導入される時期はまだ決まっていませんし、胃用のカプセルは実用段階ではありません。また、カプセル内視鏡は画像を診断するだけで組織をとったり治療をしたりすることはできません。そこで現在注目されているのが経鼻内視鏡です。

【経鼻内視鏡とは?そのメリットは?】

 鼻から入れる内視鏡は1980年代よりイレウス(腸閉塞)の患者様に使用され始めましたが、胃の中を観察しようとしたのは1990年代の半ばです。当初高齢者の検診目的で開発されました。高齢者の誤嚥防止のため、むせないようにのどの麻酔なしで鼻から挿入することが考えられました。ただそのときのスコープは太さが6mmで非常に苦痛が強く、鼻出血も多かったりしてあまり普及しませんでした。しかし、2000年代になり太さ5mm大の超細径ビデオスコープが開発され、苦痛の少ない楽な内視鏡として普及しはじめました。経口内視鏡に使用するスコープは約10mmですので、約半分の太さです(図4)。
 経鼻内視鏡では、経口内視鏡と違い舌根(舌の付け根)をスコープが通らない(図5)ことで一番のメリットが生まれます(図6)。つまり経鼻挿入することで、吐き気や息苦しさが少ない利点が生まれるのです。スコープが約5mmと細いこともあわせて、苦しくない検査をうけることができます。私自身も自己挿入して、苦しくないことにびっくりしました。また検査が楽なだけではなく、心臓や肺に与える影響(体の負担)も少ないといわれています。さらに、検査中に会話ができますので、医師と話をしながら、施設によっては、医師と同じモニター画面をみながら説明を受けたり、疑問に思うことを聞いたりすることもできます。検査後、気分が悪くなければすぐに日常生活に戻れます。つまり、検査後すぐに車の運転・仕事・家事が可能です。さらに咽頭麻酔(のどの麻酔)をしなければ、飲食もすぐ可能となります。

【経鼻内視鏡の実際】

 検査の前日は夕食を午後9時頃までには済ませて、当日の朝歯磨きや少量の飲水は可能ですが、朝食はとらないでください。服用しているお薬がある方は、通常心臓や血圧のお薬は服用してもらいます(事前にご確認ください。)。検査前には、まず問診票にお答えいただきます。皆様の中には経鼻内視鏡ができない方(禁忌)と注意が必要な方がいます(図7)。麻酔剤(キシロカイン)のアレルギーのある方と鼻血がでている方には検査ができません。また、抗凝固剤(血をサラサラにするお薬)や肝臓が悪くて血が止まりにくい方、鼻茸やアレルギー性鼻炎など鼻の悪い方は注意が必要です。また、不整脈(脈のむらうち)がある方も注意が必要です。検査の時に組織検査をする場合もありますので、ご自身の病気や服用しているお薬を看護師や医師に正確にお伝えください。問診票で問題なければ、まず胃の中をきれいにするお薬(蛋白分解酵素や消泡剤)を飲んで、鼻を広げるお薬(血管収縮剤)を両方の鼻にスプレーします。そして、鼻の中に麻酔剤をスプレーしたり、麻酔剤を塗ったチューブを鼻から挿入します。これらの前処置(準備)をすることで、鼻の痛みを防ぎ、内視鏡の通りをスムーズにします。経鼻挿入するルートは、左右の鼻に二つずつ(下鼻甲介下端ルートと中鼻甲介下端ルート)、計4つあります。内視鏡でみながら、広くて抵抗のないところに挿入していきます。鼻を抜けて、喉のところから食道に入ってその後胃や十二指腸を観察します。左の鼻から挿入した方の内視鏡の写真を示します(図8)。個人差がありますが、通常10分程度で検査は終わります。ただ、病気がありよく観察したり、組織検査をしたりすると15分以上かかることもあります。組織検査は、内視鏡からでる鉗子という装置で中の組織を採取して顕微鏡で診断する検査です(図9)。組織検査を受けた方は、その日アルコールや刺激物を摂取するのを中止してもらう必要があります。通常、組織をとっても出血はすぐ止まりますが、まれに出血が続き、お腹が痛くなったり、吐血(口から血が出る)や下血(黒い便がでる)ことがあります。その際は検査を受けた施設に電話をして指示を受けてください。繰り返しになりますが、血をサラサラにするお薬を服用している方は出血しやすいので必ず事前に申し出てください。

【経鼻内視鏡の問題点と偶発症】

 ここまで、経鼻内視鏡のいいところをご説明しましたが、問題点もあります(図10)。まず、すべての方に経鼻挿入が可能なわけではありません。麻酔の方法や施設にもよりますが、挿入率は90数%で、特に若い女性は鼻腔が狭いため注意が必要です。経口内視鏡が苦痛な方も若い女性に多く、経鼻挿入を希望されるのですが、かえって苦痛を感じる場合もあります。そして超細径ビデオスコープは最新鋭の機器ですが、細くすることで犠牲にしていることがあります。装着されているCCD(レンズ)が小さく、低解像度です。みなさまのデジカメでいえばかなり以前の機種の性能しかありません。また細いためにレンズの水切れ性能が悪く、よく見えなかったり、鉗子口が細いため、水を吸ったり、空気を入れたり、中を洗ったりするのに時間がかかります。たとえますと、経口内視鏡がデジタル放送であれば経鼻内視鏡はアナログ放送、一眼レフのカメラであれば使い捨てのカメラぐらいの差があります。しかし、経験を積んだ医師がゆっくりみるなどの工夫をすれば、病気を発見する確率に差はありません。しかし、組織検査で得られる組織も小さく、診断に苦慮する場合もあります。そのため精密検査には向きませんし、治療に使用する機器も鉗子口が狭いため使えないものもあります。いいかえると、検査を受ける方には楽な検査ですが、検査を行う我々には楽な検査とはいえません。
 経鼻内視鏡の偶発症(手術や検査の後、それらがもとになって起こることがある病気、図11)としては、軽い鼻の痛みを20~40%程度の方に認めます。皆さんが心配されている鼻出血は思ったより少なく、100人に1人ぐらいですが、抗凝固剤(血をサラサラにするお薬)や肝臓が悪くて血が止まりにくい方には注意が必要です。あとまれなものとして、麻酔剤のアレルギーや挿入した内視鏡が抜けにくい方が数千人に1人認めることがありますが、概して安全な検査といえると思います。

【経鼻内視鏡の適応と将来】

 ここまで述べたように、経鼻内視鏡は非常に苦痛の少ない検査です。しかし、内意鏡の本来の目的は病変を見つけることです。そのことを考えると、現時点ですべての方に経鼻内視鏡がいいわけではありません。経鼻内視鏡をおすすめする方(図12)としては、検診目的の検査で、特に以前の経口内視鏡が苦痛であった方、初めての検査が不安な方、高齢の方、心臓や肺の病気の方です。また、胃の中が比較的観察しやすいピロリ菌が陰性とわかっている方も適応といえるかもしれません。
 経鼻内視鏡の現状を説明しましたが、将来性は非常に高いと考えられます。今後機器は急速に進歩すると考えられ、経鼻挿入できるハイビジョン画像内視鏡が登場する日はそう遠くないと思われます。そうなると、文字通り‘安全で安心できる内視鏡’といえると思います。
 胃がんなどの病気は症状が出たときには、手遅れになっていることが多く、現在たくさん行われている内視鏡治療が可能なのは症状がないときに発見された方ばかりです。いままで、体の調子がよく内視鏡を受けていない方は、一度お近くの医院や病院もしくは検診の施設にご相談ください。40歳以上の方で検査を受けたことがない方には是非一度受けていただくことをお勧めします。

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11

図12