一般のみなさまへ for citizen

東海支部

新しい消化管内視鏡検査

伊熊 睦博(浜松医科大学 消化器内科)


1.なぜ内視鏡検査を行うのか?(内視鏡検査の意義)

 消化管は、口から肛門まで、ひと続きの長いトンネルの様な臓器です。ここには、日々多くの食物が入ってきて、消化が行われます。栄養分は体内に吸収され、不要な物は再び体の外へ便として排泄されます。食物を含め、外からの刺激を日々受けていることは、胃腸の粘膜(トンネルの内側表面層)にとっては大きなストレスとなります。遭遇したことのない様な新しい食べ物が入ってきたり、厄介な微生物が入り込んだり、アルコールや薬剤など良い面もあれば害にも成り得る様なものが、次々やって来る状況の中で、水分やイオン、栄養素という、体に必要な物を、適切な形で適切なタイミングで体内に取り込む作業をこなさねばなりません。これは毎日の作業ですので、胃や腸には常に大きな負担がかかっています。その為にも、胃や腸の粘膜は体内で最も細胞の更新(新旧の入れ替わり)が早い部分の代表となっています。
口からやって来る微生物が消化管で悪いことを起こせば、それは腸管感染症と呼ばれる病態に結びつきます。最近では、ヘリコバクターピロリ菌と呼ばれる、胃に長期間に亘り生息する細菌が、慢性胃炎の主な原因となって、これが胃十二指腸潰瘍や、ひいては胃癌の発症に大きな役割を有することがわかってきました。一方、腸の粘膜では、通常は体にとって都合の良い物と悪い物を上手に区別する能力、そして悪い物のみを排除しようとする働きを有しています。これらは免疫という概念の生体機能の一つですが、この免疫が上手に働かない(或いは働きすぎる)病態が知られるようになり、炎症性腸疾患と呼ばれています。胃腸の粘膜での細胞の世代交代が早いことは、場合によっては交代の過程で傷害が生じることにつながり、これは癌が発生する最初の過程に関わってきます。
潰瘍や癌、そして免疫の病気(炎症)などは、何らかの形態的な異常を示すことが多いので、消化器疾患の診断には、形態の異常を把握することが大切です。内視鏡検査は、その意味で消化器疾患の診断への重要なステップであるといえます。一方、潰瘍も、炎症も、癌も何も見つからないけれども、お腹の症状が続く場合も決して少なくなく、これは形態異常を伴わない病気であって、「機能性」の病気として扱われます。近年では、この機能性の疾患が増加し、消化器科に受診される患者さんの相当数を占めています。機能性の病気をきちんと診断する為には、形態的な異常を伴う病気が無いということを示すことが必要なこともありますので、この場合もやはり内視鏡検査が大きな意義を持ちます。

2. 内視鏡検査の目的(目指すこと、目指すもの)は、何か?

 胃腸がひと続きのもので、そこに病気が存在することに気がついた時から、人間は「からだの内側を覗きこんでみたい」という欲求を育て、実際に様々な試みを行って来ました。内視鏡の原型は古くローマの時代にさかのぼることが出来ますし、16世紀には細い金属の管で作られた精巧な「覗き道具」が作られています。今のような柔らかいファイバースコープではありませんし、奥まで光を届けることは容易で無く、観察条件は相当に厳しいものだったと予想されます。
消化器内視鏡検査の目的は、胃腸の病気を明らかにし、病気の確実な診断や、より良い治療法を判断する為の情報を得ることです。最近では、内視鏡を用いた様々な手技により、病気そのものを治療することも行われるようになっていますが、その場合でも手段としての内視鏡器具が目指す物は同様です。具体的には、次の様な項目が、内視鏡(検査機器)の目指すべき姿です。
・ 良く見える為の光の確保:適切な種類の光が十分量、目的の部位まで届くこと。
・ 良く見える為の眼(め)の確保:光で映し出される粘膜面の変化を正確に評価・記録できるような眼(レンズ、カメラ)を有すること。
・ 取り回し(操作)が簡単であること、検査を受ける側の視点では安全かつ楽に検査を受けることが出来ること。
消化器病の診断は、ここに掲げた様な内視鏡機器の進歩と共に向上して来ました。

3. 内視鏡検査の進歩してきた道筋

 内視鏡器具の進歩には、大きく三段階がありました。最初の大きな進歩は、硬性鏡(硬い金属の筒で出来たもので、喉を通すことが出来たのはサーカスの「刀飲み師」の様な能力を持った人だけと考えられる)の時代から、軟性鏡への変化です。軟性鏡とは、柔らかく曲げることの出来る器具を指す用語です。先端に小型カメラが付いたものが、いわゆる胃カメラです。胃カメラの出現は、それまでバリウムの検査が主体であった胃の病気の診断に大きな変革をもたらしました。21世紀の水準で見れば、随分大きなものを飲み込んで、その割に余り精度の良い情報が得られた訳ではありませんが、50年以上前の最初に登場した時代の水準で考えた場合には、診断能力は飛躍的に向上したと言えます。
この第一の進歩は後に、極めて細いガラス管を寄せ集めた束に光を運ばせ、そしてレンズを通して得た像を、もう一度ガラス管の束を通して体外へ戻しカメラで記録するというファイバースコープと呼ばれる器具への発展につながりました。ファイバースコープになりますと、より自由な操作が可能となり、大腸の深い部位への挿入や、正しい診断の為に行われる病理検査用の小検体を採取する作業(生検と呼びます)が可能となり、更には小さなポリープの切除や、消化管の更に奥にある膵臓や胆嚢等への接触も可能となりました。
第二の大きな進歩は、電子機器の導入です。昔からの光学カメラがデジタルカメラに変わった様に、内視鏡の分野でも電子式のカメラ(Charge Coupled Device:CCDと呼びます)が過去20年程の間に浸透してきました。これにより、検査が暗い部屋で機器先端の1cmにも満たない小窓を覗き込んで行われた時代から、大きなテレビモニター画面を見ながら、ゆとりある操作を行いうる時代へと変わりました。検査の記録もフィルムの時代から、電子媒体へと変わり、自然光(白色光)のみならず様々な光の種類を運び、また感受装置もそれに対応するものとなりました。診断面での更なる進歩と共に、器具全体の操作性も大きく向上して、患者さんにとっても検査がより身近で容易なものと変わって来ました。近年では、腫瘍が浅い部分に留まっているような場合は、相当のサイズでも癌を内視鏡的に取り除く様な事も可能となっています。
そして三番目の大きな進歩は、これまで紐(ヒモ=ファイバースコープ)のついていた眼(カメラやCCD)の部分を切り離して、ほぼ眼の部分のみで検査を行おうというカプセル内視鏡の登場です。カプセル内視鏡は、その名の通りカプセルの形をした器具の中に、電池とレンズ、そして体外に取り付けられた受信記録装置へ電波を飛ばす伝送装置の三者が小さく押し込まれたものです。この器具にはファイバースコープの様な、体の内と外を繋ぐヒモは存在しませんので、消化管を自然に通過していく仕組みを利用して検査が行われるようになり、カプセル内視鏡出現前には難しかった小腸全体の観察を可能にしました。現時点では、この器具による観察は「腸管まかせ」というところで、腸の動きが良ければ順調に進みますし、動きが悪ければいつまでも同じ場所の画像しか取れません。カプセルのサイズよりも狭いところがあれば、ファイバースコープの様に「逆戻り」という芸当は出来ません。またファイーバースコープでは可能であった精密検査(生検、細胞診断、膵臓や胆嚢への造影)や、治療的な処置(がんやポリープの切除等)は今のところ不可能ですし、細部の観察能力という意味では、高い解像度を備えたファイーバースコープには到底太刀打ち出来ません。しかしながら、今後の更なる機器の進歩は、小腸以外での活躍の可能性、精密検査や処置的操作の可能性も広がると期待されます。実際に、海外では食道や大腸の観察にカプセル内視鏡が用いられる様になっています。「後ろを振り向くことが出来ない」と批判されれば、前後二か所にCCDをつけたり、「動きをコントロール出来ない」と評されれば、強力磁石の様な仕組みで体外からカプセルの動きを制御しよう等といったユニークな発想での機器の進歩も伝えられてきています。カプセル内視鏡の目指すところも、胃カメラやファイバースコープの目指す物も変わりは無く、患者さん(被験者)に如何に安楽に検査や治療を受けて頂いて、なおかつ正しい診断、適切な処置に結び付くかということに尽きます。

4. 新しい消化器内視鏡検査

 この章では、最近の消化器内視鏡の進歩の幾つかを具体例でお示しします。

4-1. カプセル内視鏡(図1

 前の章にも記した様に、カプセル内視鏡の出現は消化器の病気の診断にとっては大きな進歩です。入り込むことが容易でなかった小腸を充分に観察することで、これまで「原因不明」として扱われてきた出血等の原因病変を見つけ出したりすることが可能となりました。余り知られていなかった薬剤性の微細な小腸粘膜の傷害が、随分と多くの方に生じていることも分かって来ました。現時点の我が国におけるカプセル内視鏡の検査対象(保険診療の範囲)は、食道・胃・十二指腸や大腸に原因の見当たらない消化管出血のみですが、今後は、検査適応となる症状や病気が広がったり、前述の様に、小腸以外の臓器での検査が行われるようになる可能性があります。一方、予期せぬ狭い部分が腸管に存在している場合には、小型とは言え引っ掛かって先に進まぬ事態も起こり得ますので、今後は狭い部分を事前に察知したりする事前試験用(ダミー)カプセルの登場なども予定されています。

4-2. ダブル(シングル)バルーン式小腸内視鏡(図2

 カプセル内視鏡と同様に、小腸病変の診断に対する大きな変革をもたらした器具です。これはファイバースコープの先端に、自在に膨らませたり、しぼませたりすることの出来る風船(バルーン)を付けることで、これまで挿入が難しかった深い部分の腸管(深部小腸)に診断や治療の光をあてることを可能としました。ファイバースコープですので、その見え方、処置範囲の広範さは、胃や大腸での検査に準じたものがあり、外科手術で無ければ出来なかった様な処置を小腸でも可能としつつあります。前項のカプセル内視鏡との上手な連携プレーにより、小腸での病気の診断や治療は飛躍的な発展を告げつつあるといえます。

4-3. 経鼻内視鏡(図3

 ファイバースコープは、開発初期の器具に比較すれば、年々細く柔らかくなってきていました。但し、食道・胃・十二指腸に対する検査という点では、口から検査を行うことが長い間の標準法で、その発想の範囲ではカメラの太さは、ほぼ限界に達しつつありました。そこで発想の転換をして、消化管につながる別の経路、即ち鼻の穴(鼻孔)から挿入を行う為の器具が開発されました。この内視鏡は、標準で1cm前後だった経口(口からの)内視鏡に比べ、一段と細く6mm前後に作成されています。この細さと、挿入経路(鼻腔)の両者の工夫により、スコープが舌の根元に触れることで起きていた咽頭反射(嘔吐感)の大きな減少をもたらしました。反射が強くて、検査がとても苦痛だった方の多くは、この経鼻内視鏡の出現により、これまでに比較して遥かに楽な検査となってきています。検査中の医師と患者さんとの会話も可能となり、その点でも患者さんの不安解消の助けとなりました。このファイバースコープは、場合によっては口からの挿入にも用い得ますので、鼻の病気などで狭い部分があり経鼻内視鏡が無理な方にもオプションとなり得るものです。経鼻内視鏡は、細径ファイバーと呼ばれる様に、一段階細い器具ですので、これまでのものに比較して、光量が乏しい(暗い)とか、見え方が悪い(CCDの能力が劣る)、胃液の吸引の力が弱い等の弱点もありましたが、器具の改良が続き、通常の観察という点では経口内視鏡と遜色の無いところまで診断能力が向上しつつあります。

5. 検査を受ける際に

 これから検査を受けようという方は、それがお腹の症状での受診の場合であれ、がん検診の精密検査や健康診断の一環であれ、何らかの不安や心配を持つことは当たり前のことです。上記の様な新しい検査法の進歩は、少しでも安楽に検査を行い、正しい診断・処置に結び付けるという内視鏡検査の大きな目的に適ったものです。とはいえ、検査が100%安全・完全なものであることは無く、どの検査にも「限界」があります。また経済的な面も含めて、メリット・デメリットを良く理解した上で検査適応は決められるべきものです。検査には、一長一短があります。どの検査を、どのようなタイミングで受けるかいう選択には、専門的な知識と判断が不可欠です。大切なことは、必要な検査を、必要な時期に受けること、そして何よりも、その結果を踏まえて必要な治療について専門医の意見を聞くことです。消化器科医は、適切な判断の為のトレーニングを受けた専門家の集団です。新しい器具は、年々変化していきます。病気の種類や質も、過去から未来へと変化していきます。消化器の病気には、必ずしも姿かたちの異常を伴わない、胃腸の「働き方」の病気も少なくないことは記した通りです。適切な内視鏡検査を受け、問題点(病気)の適切な解決法を得る為には、医師と受診者の間の、良好なコミュニケーションが最も重要であることはいうまでもありません。

図の説明文(legends)

図1 カプセル内視鏡
図2 バルーン式(写真はダブルバルーン)小腸内視鏡
図3 経口内視鏡と経鼻細径内視鏡(細い方)の先端部の比較

図  表 

拡大画像へ
リンクします

図1

図2

図3