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北海道支部

ご存知ですか? 最新の大腸がん治療 手術と抗がん剤

河野 透(旭川医科大学外科学講座 外科学講座消化器病態外科学分野)


高齢化と食生活の欧米化にともなって、大腸がんにかかる人は年々増え続け、毎年5万人以上の人に大腸がんが発見されています。厚生労働省のデータによると、部位別に見たがんの死亡率で男女ともに大腸がんが最も高く、女性のがん死亡原因第1位は大腸がんです(図1)。国民病とも言われた胃がんが減少してきているのに対し、大腸がんは急増し、世界的にも増加しています。現在、世界では毎年100万人の大腸がん患者さんが新規に治療を受けており、実に半分の50万人の患者さんが再発・転移で化学療法を受けています。しかし幸いなことに、大腸がんは他の消化器がんと比べると進行が比較的ゆっくりで、早期にがんを発見できれば、完治する可能性も高いと言われています。
ある日、みなさんが大腸がんと診断され、手術を受けましょうと言われたらどうしますか。頭の中が真っ白になり、最初に頭に浮かぶのが人工肛門のことではないでしょうか。大腸がん治療について大切なことは、まず最新の大腸がん治療の情報を手に入れることです。これからお話しする内容は、大腸の検査が必要、大腸がんの手術が必要、抗がん剤治療が必要と医師から伝えられたら、どのような情報を持っておいたほうが良いかということで、わかりやすく具体的に解説していきます。また、大腸がん研究会が発行している大腸がん治療のガイドラインという本があり、患者さん向けの解説本(大腸癌治療ガイドラインの解説、大腸癌研究会編、金原出版)がとても有用ですので、是非ご覧になって下さい。

【どんな大腸がんが多くて、どの都道府県で多いのか】

大腸がんは結腸がんと直腸がんに分けられます。同じ大腸でも結腸と直腸の二つに分けて分類されることが医療側では一般化しています。大腸がんはその発生した部位によって名前がつけられます。部位別でみると、がんができやすい部位があり、肛門に近い直腸、S状結腸に発生することが多いのですが、その続きである下行結腸では少ないのです(図2)。国立がんセンターがん対策情報センターによれば、全国都道府県別の結腸がんと直腸がんで死亡される患者さんの割合を比べてみると、濃い赤に塗られた地域つまり、大腸がんで死亡される人の割合が西日本に比べて東日本で多いことがわかります(図3)。詳しくお知りになりたい方は国立がんセンター対策情報センターのホームページhttp://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.htmlにアクセスして下さい。

【大腸がんのステージ分類とその重要性】

大腸がんの進行度を表す指標にステージ分類があります。現在は、日本独自の分類が多く使われていますが、世界的に使用されている分類(TNM分類)ともほぼ合致しています。大まかに説明すると図4のようになります。大腸の壁だけにがんが存在する場合、どんなに大きくてもステージ2(II期)となりますが、がんがどんなに小さくてもリンパ節にがんが転移していればステージ3(III期)となりますし、肝臓、腹膜、肺など大腸以外の臓器に転移していればステージ4(IV期)となります(図5)。小さながんで内視鏡的に切除できたので100%安心というわけにはいきません、リンパ節転移や肝臓や肺に転移するケースもあります。その危険度は推し量るのが病理検査です。図6のように大腸がんにおける早期癌はステージ0とステージ1(I期)の一部で、それ以上に大きく進行した場合は進行がんとして扱います。そのため、顕微鏡で詳細な検査が必要となり、病理検査が重要となるのです。なぜなら図7のようにステージ別に大まかな治療方針が決定されるからです。がんの進行が進めば、それだけ体に負担となる治療を選択しなくてはなりません。ですから、ステージ分類をできるだけ正確に決定することが重要となります。したがって大腸がんと診断された後、CTやMRIなど画像診断を数多く行うのはそのためです。

【大腸がんのステージ分類と生存率の関係】

毎年多くの人に大腸がんが発見されますが、アメリカと日本で発見された時点でのステージ分類の割合が報告されています(図8)。日本は世界でも希にみる内視鏡先進国で、ステージ1以下で発見される率は25%と高いのですが、リンパ節転移(ステージ3)や他臓器転移(ステージ4)が同時に発見される割合(ステージ3とステージ4の合計)で見ると日本で47%、アメリカでは58%と極めて高いのです。次にそのステージ別の生存率を大腸癌研究会から発表されている成績で比較してみるとリンパ節の転移の有無によって興味深いことがわかります。がんが深く進行してもリンパ節転移が無いステージ2では80%以上の5年生存率を確保しているのに、リンパ節転移が多くあるものは56%程度の生存率にとどまっています。さらに、癌から遠く離れたリンパ節や肝臓や肺など他臓器に転移のあるステージ4では5年生存率が13%と低い値を示しています。しかしながら、これらの成績は抗がん剤が今のように発展していない時代の成績も入っています。したがって、最近の抗がん剤の進歩でステージ4の成績は大きく改善されることが期待されています。

【大腸がんの手術の治療成績 日本と米国との考え方の違い】

ステージ別に5年生存率の違いを紹介してきましたが、日本の大腸がん治療、特に外科治療は世界をリードしていることを示すデータがあります(図9)。このデータを取得した1990年代は現在のような大腸がんに有効な化学療法が使われていない時代であり、主に手術療法と放射線療法が行われていました。特にアメリカでは直腸がんに対して放射線療法が日本より多く採用されていました。結腸がんにおいては両国とも手術だけの成績です。図の中でピンク色の棒線が日本の成績で、全てのステージにおいて20から30%も5年生存率を上回っています。現在、使用されている抗癌剤治療でも10%程度の生存率向上しか得られないことを考えるとこの差は極めて大きいと思います。直腸がんにおいて日米の差が少なくなっているのは放射線療法が米国では頻用されているためだと考えます。では、このような差がどうして生じたのか考えてみますと、実は手術法に関して根本的な考え方の違いがあります。元々日本では胃がんが多く、リンパ節郭清(リンパ節を系統立ててがんと一緒に摘出する)という概念をいち早く導入し、世界的にも誇れる治療成績を出し続けています。そのリンパ節郭清の概念は大腸がん手術にも導入されてきました。一方、欧米ではリンパ節郭清の概念が希薄で、図10のように日本と比較して摘出範囲が狭いことが原因の一つと考えられています。最近では、欧米でも日本式のリンパ節郭清を取り入れた手術が徐々に認識され、行われつつあります。

【大腸がん手術の基本的考え方と目的】

私自身が大腸がん患者さんとご家族に説明する場合に用いている図を供覧します(図11)。大腸がんの手術はがんを取るだけでは不十分で、肉眼的にも画像的にも発見できない微小な転移、浸潤を考慮した系統だったリンパ節郭清、がんの口側、肛門側大腸への浸潤も含めて摘出範囲を決定します。大腸自体は2m程度ありますので20cmないし30cm程度切除しても大腸の機能には大きな影響を与えないと考えられていますが、手術によって実際には術後の癒着などによって排便困難になったり、排便回数が多くなったり、下痢便になったりすることが多いようですが、半年から1年程度で多くは回復します。大腸がんの手術は局所再発を防ぐことが大前提で、術後の病理検査で、がんを含む摘出大腸から肝臓や肺に向かって血液を戻す静脈にがん細胞が存在するかどうか検索します。もし、存在すれば、肝臓や肺などへがん細胞が入り込んでいる可能性が高まります。また、リンパ節転移の有無や数、範囲だけでなく、リンパ節とがんを含む大腸をつなげているリンパ管にがん細胞が入り込んでいないか検索します。その結果、陽性であればリンパ管を通じて全身にがん細胞が回っている可能性があり、転移の可能性が高まります。つまり、手術は大腸がんをとるだけでなく、その患者さんの将来を予測するために行うという目的もあるのです。

【人工肛門と直腸がん手術】

大腸がんの手術といえば思い浮かぶのは人工肛門ではないでしょうか。しかし、大腸がん全体で人工肛門が特に心配な直腸がんは3人に1人であり、残りの人のほとんどは心配をしなくても大丈夫です。では、直腸癌では人工肛門を作ることが多い原因は何かといいますと、そのヒントは直腸から肛門にかけての構造にあります(図12)。肛門を閉める筋肉には二種類の筋肉からできています。意識しなくても肛門を閉じていることができているのは内肛門括約筋のおかげです。内肛門括約筋は直腸の一番肛門よりの部分の筋肉(輪状筋)が肥大してできたものです。この筋肉がいつも肛門をぎゅっと締めているのです。その外側に外肛門括約筋という意識して閉めることができる筋肉がありますが、直腸の一部の筋肉が含まれています。したがって肛門に近い直腸がんの場合、肛門から数cm以内にがんが存在すれば、がんの近くの肛門に近い直腸の壁は全て取らなくては十分な手術とはいえません。つまり、内肛門括約筋は直腸の一部なので取り除く必要があったのです。したがって、取り除いてしまえば、便失禁になると考え人工肛門造設が薦められたのです。しかしながら、最近では外肛門括約筋または内肛門括約筋の一部が残っていれば便失禁にはならないという考えから人工肛門回避の手術が全国的に行われるようになってきました。まだ、長期成績は出ていませんが熟練した高度な手術手技があれば、良好な短期成績を得ることができます。しかしながら、安易な人工肛門回避は手術本来の目的である局所のコントロールを妨げることになりかねません。適応は専門施設で決定されるべきものと考えます。

【大腸がんの抗がん剤治療の変遷】

大腸がんの抗がん剤治療は1990年代から激変しました(図13)。最初に開発されたのがフルオロウラシルという薬でがん細胞のDNAやRNAを破壊することで死滅させることができました。今でもベースになっているのがこの薬剤です。半年の余命しか期待できないほど進行した大腸がん患者さんに投与したところ倍近く生存率が延びました。しかしながら、副作用も強く吐き気など消化器症状が強く出現します。その頃は吐き気止めも効果が無く使用に際しては難渋しました。現在では有効な制吐剤があり、上手にコントロールできるようになってきました。その後、2000年代に入り、新たな抗癌剤であるイリノテカン、オキサリプラチンが登場し、何もしなければ6ヶ月の余命が20ヶ月近くまで伸びました(図14)。さらに、がん細胞を増殖させないことを目的とした分子標的薬であるアバスチン、アービタックス、パニツムマブが登場し、従来の抗癌剤の効果をさらに強めることに成功し、現在では6ヶ月が3年近い長期生存が可能な時代に突入しました。しかも外来で使用できるため日常生活を維持しながら抗癌剤で6倍の生存期間延長ができるようになったのです。残念ながら、それぞれの抗癌剤には特有の副作用があります。イリノテカンの下痢、オキサリプラチンの神経毒性、アバスチンの高血圧、アービタックス、パニツムマブの皮膚症状です。これらの症状と闘い、予防しながら抗癌剤をできるだけ長期に使用することが長生きの秘訣となっています。

【大腸がんの抗がん剤治療と遺伝子検査】

抗がん剤治療において現在、遺伝子検査が重要なキーとなっています。たとえばイリノテカンは肝臓で代謝され無毒化されますが、その無毒化する酵素が先天的に欠損または弱い場合、副作用が強く出ることがわかり、遺伝子検査することで、投与する量を決定できるようになり、安全性を保つことができるようになります。オキサリプラチンも同じく代謝酵素を測定することで無用な副作用を軽減できます。また、分子標的薬であるアービタックスやパニツムマブの場合、これらの攻撃目標である膜受容体ががん細胞に存在し、しかもその伝達経路が正常かどうか遺伝子検索することが重要であり、伝達経路が異常であれば、がん細胞の増殖を抑制できないことが判明し、実際の臨床結果でも同様でした。このように大腸癌の抗がん剤治療の正否が遺伝子によって左右されることが最近わかってきたことなのです。

【大腸がんと漢方薬】

大腸がんは手術だけでは治すことができない場合は抗がん剤を使います。抗がん剤というとみなさんが最初に心配することはおそらく副作用でしょう。たとえば、吐いたり、食欲が無くなったりするのではないかという心配だと思います。日本ではこれらの副作用に対して西洋薬だけでなく保険医療として漢方薬を使うことができる世界で初めての国なのです。大腸がんの二大抗がん剤であるイリノテカンで起こる下痢に対しては半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、オキサリプラチンで起こる神経毒性に対しては牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)、抗がん剤で起こる食欲不振には六君子湯(リックンシトウ)などが有名です。また、大腸がんが進行し、倦怠感などが強い場合、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)、人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)などが効果を期待されています(図15)。

図  表 

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11

図12

図13

図14

図15