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九州支部

『膵がんになりやすい人と早期診断法』

伊藤 鉄英(九州大学病態制御内科 准教授)


要旨

  膵がんは早期に診断する事が難しく、診断がついた時には手術ができない場合が多い。膵がん発症に最も関与している生活習慣は喫煙と肥満です。また、糖尿病、慢性膵炎や膵に嚢胞を持つ人は膵がん発症のハイリスク群です。膵がんの早期診断のためには、これらに注意して経過観察する必要があります。

はじめに

 最近、画像機器の発達により、膵がんの診断は向上して来ています。しかし、膵がんは悪性度が高く、局所浸潤や遠隔転移**を起こしやすく、消化器がんの中で最も予後が悪いがんです。膵がんの早期診断が難しい理由は、膵がんに特徴的な自覚症状が乏しいこと、膵がんのハイリスクグループ(膵がんになりやすいい人)の設定が難しいことなどが挙げられます。診療ガイドライン(1)によれば、膵がんのリスクファクターとしては、膵がんや遺伝性膵がん症候群などの家族歴、糖尿病、慢性膵炎、遺伝性膵炎などの合併、喫煙などが挙げられています。今回、主に生活習慣に注目し、喫煙、飲酒、コーヒー、運動、などの生活習慣と膵がんとの関連について、また膵がん発症のリスク疾患である糖尿病と慢性膵炎との関連についても提示します。
局所浸潤(膵がんが膵臓を越えて浸潤するが膵臓の回りにとどまっているもの:膵周囲浸潤)
**遠隔転移(肺や肝臓など、遠いところに転移しているもの)

1.膵がんはどうして予後が悪いのか?

 進行した膵がんが多い理由は、小さな膵がんの場合は腹痛や黄疸などの症状が出ないことが多く、発見時にはすでに手術ができない状態が多いからです。さらに、膵がんの予後が悪い理由は下記のような理由です。

  1. 膵臓が後腹膜(腹部後方)に位置しており、そこには結合織しかないため播種しやすい。
  2. 膵臓は脈管に富んでいて、発症するとすぐにリンパ管や静脈に入って転移を起こしやすい。
  3. 膵臓は神経叢が発達していて、膵がんは神経に沿って転移しやすい。
  4. 膵がんは周囲にバラバラに浸潤していく傾向がある。
  5. 膵がんはすぐに横に形が崩れて、非常に小さな病巣を作って血管に浸潤する。
 このように膵がんは浸潤傾向が強いがんであり、膵周囲浸潤や遠隔転移を起こしやすい。

2.生活習慣と膵がん

A.膵がん発症と環境要因
1)年令、性、家族歴
 2007年に日本膵臓学会から報告された膵がん登録報告(2)では、男女比は3:2で男性に多く、それぞれの発症平均年令は63.9才、65.9才であり、膵がん患者の高齢化が認められています。これは、日本が高齢化社会へ突入し、日本人の食事などの生活習慣に変化が出てきたこと、高齢者の医療機関アクセス向上などが考えられます。また、膵がんの家族歴がある率は4.8%、家族内発がんは6.0%と報告されています。さらに、遺伝性膵炎、家族性大腸腺腫ポリポージス、などの遺伝性疾患では膵がん発生率が高く、遺伝性膵がん症候群とも呼ばれています(3)

2)喫煙
 喫煙は膵がん発症の危険率を2~3倍に増加させると報告されています。日本では約11万人を対象とし、平均8.1年追跡調査をした研究(The JACC Study)で、非喫煙者と比較して喫煙者の膵がん発症の相対危険度は男性で1.6倍、女性で1.7倍であったと報告されています(4)。興味深いことに、喫煙年数や累積喫煙量と発症危険率との相関関係は日本で実施された他の症例対照研究でも認めていません(5)。さらに、膵がんでは禁煙により膵がんの発症危険率が低下すると報告されています(4) (6)。膵がんの発症危険率が男性では禁煙後1~9年、10~19年、20年以上でそれぞれ、1.41、0.85、0.84であり、10年以上禁煙すれば危険率は低下します。

3)飲酒
 現在のところ飲酒が膵がんリスクを増加させるとする疫学的根拠は不十分です(5) (7)。  最近、興味深い臨床研究の報告があります。酒を飲むと顔が赤くなりやすい人が、日常的に飲酒しながら喫煙すると、膵がんの発症相対危険度が、酒は飲むが非喫煙者の約10倍になると報告されました(8)。アルコールを体内で分解する能力は主に、ALDH2というアルコールを分解する酵素の型で決まります。膵がんが発症した104人の調査で、酒は飲めるが分解する力が弱い型の人が55人もいました。また、その55人のうち日常的に飲酒しながら喫煙していた人は19人でした。つまり、酒は弱いが飲酒習慣があり喫煙する人は、膵がんの危険度は10倍でした。一方、酒に強い酵素を持つ人でも、飲酒と喫煙両方の習慣があると危険度は3倍でした。

4)コーヒー・緑茶
 コーヒー・緑茶は、毎日の生活の中で欠かすことのできない嗜好飲料ですが、膵がんの発症にも影響することが報告されています(9)
 日本でのThe JACC Studyでは、1日3杯未満のコーヒーは膵がん発症危険度を低下させる傾向を認めています。コーヒー飲用者は喫煙者が多く、喫煙が膵がんリスクを増加させるため、見かけ上コーヒーが膵がんリスクを増加させるという誤った関連を観察してしまうため、喫煙者と非喫煙者に分けても検討されていますが同様の結果でした。しかし、1日4杯以上コーヒーを飲む人では膵がん死亡リスクが増加し、特に男性では危険度が3.2倍と報告されています。
 緑茶に含まれているカテキンは茶の水溶性成分の中でも含有量が多い物質である。カテキンに含まれるポリフェノールによる抗酸化作用で、がん細胞の転移を抑制したり、がん細胞を殺す可能性が示されており、緑茶によるがん予防への期待が高まっています(9)。しかし、欧米および日本の研究では、十分な膵がんに対する緑茶の予防的効果は認めていません(10)

5)肥満・運動
 肥満は膵がんの発症危険率を増加させると報告されています。その機序は、膵がんのリスクファクターである糖尿病の基礎病態である耐糖能障害や高インスリン血症と関連すること、肥満者では脂質過酸化による膵でのDNA損傷が増加することが挙げられています(11)。日本での研究では、青年期の男性でBody mass index (BMI*:肥満指数)が30以上の肥満では、肥満が無い男性に比べ危険率が3.5 倍増加しており、青年期の肥満は日本人の男性での膵がん死亡リスクに強く関連しています。一方、女性ではBMIが高い群は正常群に比べ60%危険率が増加すると報告されています(12)。欧米の報告では、BMI 30以上と25以下と膵がん発症危険率を比較検討すると、前者で1.81倍増加したとの報告があります(13)
 運動と膵がん発症リスクとの関連について米国の報告(11)では、激しい運動とは関連が無いが、中等度の運動は膵がん発症リスクを低下させています。運動は膵がんのリスクファクターである糖尿病の基礎病態である耐糖能障害を改善することにより、膵がん発症リスクを低下させると考えられます。また、運動習慣を持つ人では肥満や糖尿病の方が少ないことも関連があると考えられます。
*BMIの算出方法 BMI = 体重[kg] ÷ 身長[m] ÷ 身長[m]

6)食事  生活習慣の中で食事要因と膵がん発症リスクの関連は強いと考えられていますが、疫学的調査の結果は一致せず、食事の影響は不明です(5)。しかし、肉類(特に薫製、加工肉)・脂肪の過剰摂取はリスクを上昇させ、野菜・果物(ビタミンC・食物繊維)の摂取は低下させ、予防的に働くと考えられています。その他、コレステロールの過剰摂取は膵がん発症リスクを増加させると報告されています(14)

B.膵がん発症と疾患要因
 慢性膵炎、糖尿病、膵嚢胞性腫瘍、遺伝性膵炎を合併する人には膵がんの発生が多いと報告されています(2)。また、ヘリコバクターピロリ感染でもリスクの増加が報告されています。ここでは、膵がん患者の既往症で頻度が高い糖尿病と慢性膵炎に注目します。

1)糖尿病
 糖尿病の経過観察中に血糖コントロール不良になった症例や高齢で初めて糖尿病を発症した人には膵がんが含まれることは良く知られています。また、膵がんでは糖尿病が高頻度に発症します。膵がんの既往歴では糖尿病が25.9%と高頻度であり(2)、糖尿病歴を有する男性では膵がんの相対発症リスクが2.1倍、女性では1.5倍であったと報告されています(10)。また、米国では膵がんの糖尿病合併率が60~80%と報告されています(15)。さらに、多くの報告で糖尿病が膵がん発症リスクを約2倍増加させることが示されています。一方、糖尿病罹患期間と発症リスクを検討した報告では、10年以上の糖尿病歴がある人は膵がんの発症リスクが50%増加しますが、膵がん発症の前1年以内の糖尿病発症も30%認められています(16)。このことは、糖尿病は膵がんの合併症でもありますが、膵がんの危険因子であることを明確にしています。以上のことより、糖尿病がある人のフォローについては以下のことを念頭におく必要があります。

  1. 腹部超音波検査(US)、腹部CT検査などの画像検査を定期的に施行する。
  2. 膵特異的酵素(膵型アミラーゼ, リパーゼ, エラスターゼ1, など)を定期的に測定する。異常低値にも注意を要する。
  3. 家族歴がなく高齢で糖尿病発症、治療経過中に誘因なく血糖コントロール悪化した患者は腫瘍マーカーも併せて測定する。

2)慢性膵炎
 厚生労働省難治性膵疾患調査班で施行された慢性膵炎患者の予後および死因に関する調査において(17)、慢性膵炎患者の死因の43.1%ががんであり、その中で最も多いのが膵がんの21.7%でした。慢性膵炎患者の標準化死亡比(SMR)は1.56、悪性新生物によるSMRは2.01と一般集団よりも有意に高率ででした。特に膵がんによるSMRは最も高率で7.33であった(表1)。男性が8.07、女性が4.36であり、男性で高率であった。これより、慢性膵炎患者の膵がんによる死亡比は期待値の7倍程度と考えられ、慢性膵炎は膵がん発症リスクが最も高い疾患といえる(17)。ただし、慢性膵炎の成因はアルコール性が多く、さらに喫煙の生活習慣の患者が多いこと、また膵性糖尿病の合併という疾患要因も加わっており、慢性膵炎患者の膵がん発症リスクが高率であると考えられる(18)

3.膵がん早期発見の可能性は?

 膵がんは前述したように依然として早期発見は困難で診断された時にはすでに進行しており多くの人は手術ができない状態です。分子標的薬、免疫療法、温熱療法などの補助療法も登場してきましたが、手術が出来なかった症例での5年率生存率は0%に近いと報告されています。一方、膵がん取扱い規約にてStage Iに相当する症例は,切除例の5年生存率が60%以上と比較的良好であり,治療成績を向上させるためには,さらに小型の段階で診断する必要があります。
 小さな膵がんは,症状に乏しく,血中のがんマーカー(腫瘍マーカー)の陽性率は低率です。しかし、膵がんが小さくても腫瘍が膵管の閉塞を引き起こし、その後ろ側の正常な膵臓が壊れることにより膵酵素が血中に流れ出します。その逸脱した膵酵素を捉えるのが重要と考えられています。2008年の日本膵臓学会のワークショップで小膵がん42例の検討で膵酵素のアミラーゼ、エラスターゼ1高値を示した症例はそれぞれ50%おyび75%にも認められ (19)、膵酵素を測定することが有用です。
 一方、画像診断においては、膵がん早期発見の契機は,間接所見である膵管拡張が多く,USやCTにて腫瘤が同定できない場合でも,超音波内視鏡(EUS)で腫瘍を直接的に描出できる場合が多いと報告されています(19)。また、膵がんの確定診断には組織が必要となるがEUSを用いた生検(EUS-FNA)は正診率は90%以上です。膵がんの大きさに関わらず膵がんを効率的に確定診断する方法として必要欠くべからざる検査手技と考えられています。当施設で施行した膵がん症例におけるEUS像(図1A)およびEUS-FNA(図1B:矢印は穿刺針)を示します。さらに、直接描出が困難な上皮内がんの診断には,逆行性膵管造影(ERP)下膵液細胞診がきわめて有用です。当施設では、膵管に狭窄が認められる症例で、EUSをはじめ画像診断で腫瘤が検出されなかった症例や、膵仮性嚢胞、貯留嚢胞が疑われる症例、成因不明の膵炎発作を来した症例に対して内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)を留置し、膵液の細胞診を提出する方針をとっています。本法は膵管精査におけるERP後膵炎の予防にも有用です。膵液は3日間連続で提出し、陽性の場合は、再度部位特定のためERP下で頭部、体部、尾部と分けて洗浄細胞診を提出します。この方法で診断した上皮内がんの一例を提示すします。慢性膵炎にて当施設入院、ERP(図2A)の膵液細胞診にてClass IIIbの診断を得たため、ENPD(図2B)を留置し膵液細胞診を提出したところClass Vの診断を得たました。再度部位特定のためERP下で頭部、体部、尾部に分けて生食を用いた膵管洗浄細胞診を施行し、膵頭部よりClass V(図2C)の診断を得ました。手術にて膵頭部分枝膵管に上皮内がんを認めました。

おわりに

 膵がんは未だ早期診断が非常に困難であり、診断がついたときには局所浸潤や遠隔転移を起こしており、手術不能な症例がほとんどです。膵がん発症リスクとなる環境因子に気を付けることは勿論ですが、特に糖尿病と慢性膵炎は膵がん発症のハイリスク群であり、膵がんを早期に診断するためには、これらの人を注意深く経過観察する必要があります。また、各種画像診断はめざましく発展したが、その中で早期発見できる可能性の高いものはEUSとERPによる膵液細胞診と考えられます。しかし、慢性膵炎や糖尿病がなくても、生活環境の面における危険因子を持つ人は、自分から膵臓を調べて欲しいと医師に志願しなくては、なかなか早期のうちに膵がんを発見する事はできません。


文献

(1) 科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン2009年度版 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会/編集、東京、金原出版, 2009
(2) 田中雅夫. 膵がん登録報告 2007. 膵臓 22:e26-8, 2007
(3) 山雄健次、水野伸匡、澤木明、ほか:膵癌のリスクファクターと早期診断法.日消誌, 105(1) : 8-16, 2008.
(4) Lin Y, Tamakoshi A, Kawamura T, et al. A prospective cohort study of cigarette smoking and pancreatic cancer in Japan. Cancer Causes Control. 13(3):249-54, 2002
(5) 林櫻松、玉腰暁子. 生活習慣 膵癌のリスクファクター 膵臓 19:104-109. 2004
(6) Lin Y, Tamakoshi A, Kawamura T, et al. An epidemiological overview of environmental and genetic risk factors pancreatic cancer. Asian Pac J Cancer Prev. 2:271-80, 2001
(7) 渡邊弘之、澤武紀雄. 生活習慣と肝胆膵疾患 飲酒と膵癌 肝胆膵 46(2):207-11, 2003
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(9) 浅海洋、大槻眞. 生活習慣と肝胆膵疾患 コーヒー・緑茶の膵外分泌に対する作用 肝胆膵 46(2):147-53, 2003
(10) Lin Y, Tamakoshi A, Kawamura T, et al. Risk of pancreatic cancer in relation to alcohol drinking, coffee consumption and medical history: findings from the Japan collaborative cohort study for evaluation of cancer risk. Int J Cancer.10;99(5):742-6, 2002
(11) Michaud DS, Giovannucci E, Willett WC, et al. Physical activity, obesity, height, and the risk of pancreatic cancer. JAMA. 22-29;286(8):921-9, 2001.
(12) Lin Y, Kikuchi S, Tamakoshi A, et al. Obesity, physical activity and the risk of pancreatic cancer in a large Japanese cohort. Int J Cancer 120:2655-71, 2007
(13) Larsson SC, Permert J, Hakansson N, et al. Overall obesity, abdominal adiposity, diabetes and cigarette smoking in relation to the risk of pancreatic cancer in two Swedish population-based cohorts. Br J Cancer 93:1310-5, 2005
(14) Lin Y, Tamakoshi A, Hayakawa T, et al. Nutritional factors and risk of pancreatic cancer: a population-based case-control study based on direct interview in Japan. J Gastroenterol 40:297-301,2005
(15) Dimagno EP, Reber HA, Tempero MA. AGA technical review on the epidemiology, diagnosis, and treatment of pancreatic ductal adenocarcinoma. Gastroenterology 117:1464-84,1999
(16) Silverman DT, Schiffman M, Everhart J, et al. Diabetes mellitus, other medical conditions and familial history of cancer as risk factors for pancreatic cancer. Br J Cancer.80(11):1830-7,1999
(17) 大槻眞、藤野善久. 慢性膵炎登録患者の予後および死因に関する検討 厚生労働省難治性疾患克服研究事業 難治性膵疾患に関する調査研究 平成19年度研究報告書、東京、アークメディア pp98-pp102,2008
(18) 伊藤鉄英. 生活習慣とすい臓病 -生命を守る予防と治療- すい臓に愛情を、福岡、海鳥社、2007
(19) 花田敬士、飯星知博、平野巨通、他. 1cm以下の小膵癌診断におけるEUSの位置づけ. 胆と膵 30(4): 343-348, 2009.

図  表 

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表1

図1

図2