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健康情報誌「消化器のひろば」No.12

健康情報誌「消化器のひろば」No.12

消化器の検査 がんのプレシジョンメディシン

 がんは遺伝子の異常でおきる病気です。遺伝子は、ほとんどの生物においてDNA を担体とし、その塩基配列にコードされる遺伝情報です。この塩基配列に異常が起きると異常なタンパク質が産生され、異常タンパク質ががんを引き起こします。早期のがんであれば内視鏡治療や手術で治る可能性が高いですが、進行したがん、特に肺や肝臓などの他の臓器に転移を来したがんの予後は悪く、根治する可能性は低いのが現状です。

 一般に、全身に転移したがんに対しては、抗がん薬が用いられますが、抗がん薬の効果が期待されるのはわずかに20%以下とも言われています。最近は、がんでおきる遺伝子異常に起因する異常タンパク質(分子)を標的とした分子標的薬が多数開発され治療効果が向上していますが、それでもその効果は限定的です。また、分子標的薬の投与の際は、その標的となる分子の遺伝子やタンパク質を調べ、その異常の有無で効果が期待できるかどうかが決まります。もし、多くの分子標的薬を考慮した場合、それぞれの遺伝子異常を一つずつ調べなくてはなりません。

プレシジョンメディシン(精密医療)とは

 一方、最近の遺伝子解析技術の進歩は目覚ましく、一度に多数(数百~すべて)の遺伝子を短時間で調べることが可能になりました。この進歩により、個々の患者さんのがんで起きている遺伝子異常を一気に調べ、その異常にあった薬剤を投与する、いわゆるプレシジョンメディシン(精密医療)の時代が訪れようとしています。

 従来の抗がん薬治療は、簡単に言えば、胃がん、大腸がん、肝臓がんなど、臓器ごとに治療法が決まっていて、保険で使用できる抗がん薬も臓器ごとでの承認でした。一方、プレシジョンメディシンでは、異常が起きている遺伝子や分子によって使用する抗がん薬が決まるので、臓器ではなく遺伝子異常に基づく治療となります(図)。このような治療によって、極めて良好な治療効果が見られる患者さんも出てきています。がん患者さんの思いとすれば、自身に一番合う薬(そして副作用の少ない薬)を求めるのが合理的です。しかし、今の保険制度では、罹患した臓器のがんで承認されていない薬を使うことは認められていません。今後の取り組みによって、個々の症例に最適な治療を提供できるプレシジョンメディシンが現実のものになることが期待されています。

図 従来の治療薬選択とプレシジョンメディシン

京都大学大学院医学研究科
腫瘍薬物治療学講座 教授

武藤 学

京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座 教授 武藤 学近影

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