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健康情報誌「消化器のひろば」No.13

健康情報誌「消化器のひろば」No.13

FOCUS
AIと消化器病

医療ビッグデータが可能にする
医師とAIが共存する未来

 最近、人工知能(AI)がメディアに取り上げられることが多い。昨今のAIの性能が従来のAIに比べ飛躍的に向上しているのは、膨大な学習データが利用可能になったということが最大の要因である。2012年に米国政府がビッグデータ・イニシアティブを立ち上げ、すでに6年が経過するが、ビッグデータが深層学習を代表とするAIの利活用を牽引してきたといえる。すなわち、データが肝である。

 筆者らは日本医療研究開発機構(AMED)による「ICT技術や人工知能(AI)等による利活用を見据えた、診断画像等データベース基盤構築に関する研究」なる事業を進めてきた。従来の医工連携では、一つの医療機関とIT研究者の共同研究という形態を取るのに対して、本プロジェクトでは、医療系学会との連携という構図に大きな特徴がある。すなわち、学会の主導により、従来に比べてより多くの病院から膨大な画像データを収集できることが期待される。解析には、まず病院群からネットワークを介してデータを収集し、それらをクラウドにデータベースとして蓄積することが必須となるが、実はこの前準備が最も手間のかかる作業となる。国立情報学研究所(NII)は2016年4月より100Gbit/秒のSINET5という超高速ネットワークを全国の学術機関に提供し、同時に情報セキュリティ、クラウド、AIに関する専門家を多く有しており、ITの総合力を駆使することにより、本プロジェクトのIT基盤構築を推進している。

  単にデータがあるだけでは不十分で、病変部位ならびにその類型分類などのアノテーション(注釈の付与)を行う必要がある。その手間は大きいが、日本消化器内視鏡学会の田中聖人先生より、胃内視鏡画像の提供を受け、丁寧な話し合いをしながら進めた。特定の疾病に関しては、そのデータを学習することにより、AIが高い精度で判定可能であることはすでに確認でき、現在その改良に努めている。明らかに正常である場合、明らかに異常である場合の認識は比較的容易である。一方、グレーゾーンとなる画像も多数あり、AIも微妙な判断、すなわちグレーであることを示唆する。医師が丁寧に診るべき個所を明らかにするともいえる。AIが診断という行為を奪ってしまうという議論が多々あるが、筆者は決してそうは思わない。専門家とAIは共存すると考える。第104回日本消化器病学会総会の特別講演で、この点に関して具体例を用いて丁寧に発表させていただいた。

 NIIが共通IT基盤を構築し、現在、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会と共同でプロジェクトを推進しつつある。医療系学会と連携する枠組みは恐らく日本で初めてであろう。AI画像解析に関しては、NIIのみならず、東京大学、名古屋大学、九州大学、奈良先端科学技術大学院大学などオールジャパンで取り組み、オープンイノベーションを目指す。本クラウドの稼働は昨年の11月であり、まだ始まったばかり。この仕組みの成否は今後の努力次第であり、ご指導・ご支援を賜れると幸いである。

国立情報学研究所(NII)所長
東京大学生産技術研究所 教授

喜連川 優

喜連川 優 近影

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