一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.20-1

FOCUS オンライン診療の現状と消化器診療における可能性

対面診療と並行して活用可能な新しい時代の診療スタイル

 オンライン診療は、離島や遠隔地における医療サポートとして始まりました。診療に困った場合に、専門医からオンラインを通じて画像診断や治療のアドバイスを得ることができるというシステムです。2018年には超高齢化における通院・介護の負担軽減や地域の医療格差を減らすことを目的として、オンライン診療は保険診療に組み込まれましたが、利用する側である高齢者はパソコンやスマートフォンの操作が困難であり、加えて様々な法規制、個人情報の問題、低い保険点数などが障壁となり2018年度の普及率は1%と停滞していました。

 コロナ禍に直面し、オンラインは仕事、教育などに次々と導入され、日常的なものとなりました。医療の分野でも、感染を恐れた受診控えにより必要な医療が受けられない現状から、厚生労働省はオンライン診療が広く行えるよう法規制を緩和し、オンライン診療の普及が加速しました。オンライン診療のメリットとして、特にコロナ禍において持病を持つ高齢者でも感染リスクを心配せず診察が受けられることがあります。通院負担の軽減、患者混雑の緩和、院内感染の予防、病院の減収抑制なども挙げられます。一方デメリットとして、対面診療でないと医師が聴診や触診を行えないため、病気の見逃し、誤診が発生するリスクがあり、医療の質は低下します。オンライン診療の限界と考えられています。医療安全の観点からも、患者さん側と医療者側のセキュリティの問題、なりすまし診療発生の可能性が指摘されています。

 消化器診療においてオンライン診療は可能でしょうか。かかりつけの再診患者さんで落ち着いている方であれば可能でしょう。画面越しに対話して問題なしと判断できれば、投薬継続などの指示は可能です。検査結果(血液や内視鏡組織検査など)の説明も問題ない方であれば可能と思います。当院でもオンライン診療を併用していますが、特に若い方や忙しい方からは好評を得ています。しかしながら新患患者さんの場合、たとえば腹痛や便秘の患者さんであれば、当然おなかの診察が必要となります。診察のうえ、精密検査が必要となる場合もあります。消化器診療でオンライン診療を行う場合、新患患者さんでは限界があり、安易にオンライン診療を行うことはリスクが大きいと考えられています。

 オンライン診療には、様々なメリットがあり、今後の時代のニーズを考慮すると一つの診療手段として価値あるものと思います。急性期疾患が多い消化器診療のメインは対面診療であり、診察のうえで行う検査(血液検査や内視鏡、画像検査)が主体でありますが、オンライン診療併用で新しい時代にマッチしていく必要があると考えられます。


 

医療法人かわぐち消化器内科 理事長・院長
東海大学医学部客員教授
横浜市立大学医学部臨床教授

川口 義明

川口 義明 近影
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