一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.21-4

消化器病の薬

がん悪液質とアナモレリン

生命に関わる重大な病気「がん」は、食べられない、体重が減少する、筋肉が落ちるなど、「がん悪液質」が大きな特徴の一つです。悪液質は必ずしもがんの末期に生じるものではなく、早期からの対応が必要です。2021年4月、グレリン様作用(後述)を持つ経口薬アナモレリン塩酸塩(以下、アナモレリン)ががん悪液質による食欲低下と体重減少を改善する治療薬として保険収載されました。

がん悪液質とアナモレリン

 がんの進行に伴い、多くの患者さんは食欲不振、やせ、筋力低下などのがん悪液質の状態に陥り、生命を脅かす状態に移行することから、早い時期からがん悪液質への対応が必要と考えられます。がん悪液質の理解や対策は十分とは言えませんでしたが、最近、がん悪液質の病態解明が進み、薬物療法の開発が進められるなど、大きく注目されるようになっています。
 グレリンは食欲促進、抗炎症作用、筋タンパク質の分解抑制と合成促進など、様々な生理作用を持つ、胃から産生されるペプチドホルモンです。その作用機序からがん悪液質の病態を改善すると考えられますが、グレリンは血液中で容易に生理活性を失ってしまうため、薬にできませんでした。そこで、グレリン様作用を持つ経口薬アナモレリンが注目され、がん悪液質に対する新しい薬として開発されてきました。
 アナモレリンはグレリンと同様、様々な受容体に結合し、体重、筋肉量、食欲および代謝を調整する経路を刺激して生理作用を発揮します(図)。これまで非小細胞肺がん、大腸がん、胃がん、膵がんのがん悪液質を呈する患者さんを対象とした臨床試験が行われ、体重増加と食欲不振の改善の効果が認められました。その結果から、2021年4月、アナモレリン(商品名:エドルミズ®)が非小細胞肺がんと消化器がんとして大腸がん、胃がん、膵がんの4つのがん腫に適用が承認されました。この薬により、食欲が出て家族や友人と楽しい食事ができる、また体重が減ることを気にしなくてすむようになれば、がんに悩む患者さんにとって生活の質を高める意味で大きな意義があるものと思われます。
 一方、アナモレリンの臨床試験では、あらかじめ設定した食欲改善と体重増加は認められましたが、全員に効果が得られるわけではありませんでした。また、アナモレリンによる握力の回復効果は得られませんでした。現在、アナモレリンと運動療法の併用など、複数の治療を組み合わせた集学的治療の試みが行われており、今後さらにがん悪液質への治療が発展するものと期待されています。


 

地方独立行政法人
神奈川県立病院機構
神奈川県立がんセンター 総長

古瀬 純司

神奈川県立がんセンター 総長 古瀬純司 近影
Share on  Facebook   Xエックス   LINE