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甲信越支部第043回教育講演 演者の言葉

甲信越支部第043回教育講演 演者の言葉

テーマ1「消化器における再生医療の新展開」

 江口  晋(長崎大学大学院移植・消化器外科学)

 再生医療は組織機能の置換、修復を目的とした治療戦略として研究、臨床応用 が開始されている。Viableな細胞、生体適合性材料、適切な生物学的環境因子 の組み合わせにて移植可能な組織様構造を作製されている。究極の目標は自己 調節型 組織構築物、臓器の移植であろう。細胞を用いた治療は、増殖因子調 節、抗炎症効果が適量、適時施行されること、その自律性が特徴であると考え ている。
 教室では、ヒト幹承認の元、患者10名に対し東京女子医大との連携で自己口腔 粘膜細胞シートの空輸による食道早期癌ESD後の狭窄予防効果を報告した( Sci Rep 2017)。細胞シート群では食道の修復が非常に柔らかく、早期に完成 した。現在、テルモ株式会社との共同研究講座を設立し、自己筋芽細胞シート による十二指腸早期癌ESD後の穿孔予防の前臨床研究を行っている。 肝臓領域では以前よりバイオ型人工肝臓、同種幹細胞移植による遺伝性肝疾患 治療の研究を継続して行ってきた(Hepatology 1996, Transplantation 1996, Ann Surg 1997)。最近では、細胞シート工学を用い線維芽細胞シート上で培養 することにより血管新生が促進された肝組織シートの皮下構築が可能となった (Biomaterials 2015)。in vivo研究により線維芽細胞シートが肝切離部でレ シピエント肝前駆細胞の分化を誘導できることを報告した(JTERM 2015) 。最近ではHUVECを用いた類洞様構造(JTERM 2017)、低分子化合物を用いた肝 前駆細胞CLiP由来胆管とのコネクションの研究を行っている。
 膵島細胞ではADSC細胞シート上で培養し、膵島細胞パッチとしての有用性をラッ トモデルで報告し、AMED研究にて大動物での実証を施行した。(Tissue Eng Part C 2015, Cell Transplant 2016)。さらにはADSCを用いたブタ胆管吻合 治癒過程の観察や、胆管上皮細胞との共培養や線維芽細胞法を用いた機能性胆 管作成などの展開を図っており、講演ではこれらの消化器領域での再生医療の データをお示ししたい。


テーマ2「細胞老化が個体の機能低下に及ぼす影響の解析」

 高橋 暁子(公益財団法人がん研究会 がん研究所 細胞老化プロジェクト,
       国立研究開発法人 科学技術振興機構 さきがけ,
       国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 PRIME)

 先進諸国の高齢化が進む中、我が国の平均寿命も年々延長し続けている。それに伴い、がん・動脈硬化・アルツハイマー・肺線維症・骨粗鬆症のように加齢と伴に罹患率が上昇する疾患(加齢性疾患)の増加が深刻な社会問題となっている。加齢性疾患の発症には様々な複合的な要因があげられるが、その一つとして加齢とともに体内に蓄積した老化細胞が関与している可能性が近年指摘されている。老化細胞は持続的なDNA損傷応答によってクロマチン構造が変化しており、炎症性サイトカイン・ケモカイン・マトリクス分解酵素や増殖因子のような様々な炎症性蛋白質の遺伝子発現が亢進し、細胞外へと分泌するSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)をおこすことが知られている。そして、老化細胞から分泌されたSASP因子は周囲の組織に慢性的な炎症を引き起こし、加齢性疾患の発症や個体の機能低下の要因となっている可能性が示唆されている。我々はこれまで老化細胞でSASPがおこる分子機構の解析を行 い、SASP因子の遺伝子発現がエピジェネティックに制御されていることや、老化細胞ではゲノムDNA断片が細胞質に集積し細胞質核酸センサー(cGAS-STING経路)を活性化して自然免疫応答を引き起こすことでSASPを誘導していることなどを報告してきた。さらに我々は、老化した細胞においてはDNA損傷応答によって特異的なnon-coding RNAの発現が誘導され、このnon-coding RNAが染色 体不安定性を誘導することや細胞の腫瘍化に関わることを見出している。また、老化細胞では炎症性蛋白質だけではなく細胞外小胞(Small extracellular vesicle)の分泌も亢進しており、我々は細胞外小胞も加齢性疾患の発症に関 与するSASP因子の1つとしてはたらくことを見出している。このように我々は、老化細胞が分泌するさまざまなSASP因子の解析を通して、生体における細胞老化が個体の機能低下へ及ぼす影響を明らかにし将来的に制御法の開発へ繋げる ことを目指している。


テーマ3「情報工学と医療」
 松尾 仁司(高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科)

 通信ネットワークとコンピュータ関連技術の大幅な発展により、社会は大きな変革点にある。世界に先駆けて少子高齢化が進む日本においては、「Societey5.0」の目指す社会への対応が一層重要になっている。
 情報工学は、センサなどからのデータ収集、ネットワークでのデータ伝送、ストレージでのデータ蓄積、高速演算装置でのデータ処理、文字・音声・映像等のデータ生成、など幅広い分野をカバーしている。現代社会での生活は情報工学の目覚ましい進歩の成果を享受しているといっても過言ではない。世界で初めて17500本の真空管を実装した電子計算機ENIACが発明されたのは1946年であり、日本におけるコンピュータの実用化も1980年代に入ってから本格化してきた。わずか40年後の今日、ポケットに入るスマートフォン一つで、日常の情報処理がすべて賄える時代となっている。
 医療への応用は、コンピュータ実用化の初期から重要な分野と位置付けられ、日本では保険診療における診療報酬や会計計算を行ういわゆる医事コンピュータの導入から始まり、画像診断や診療録の電子化など、主に業務効率を改善するシステムとして普及が進んできた。Society5.0の社会では、収集・蓄積したデータを利活用して新たな価値を創造するシステムや処理技術が必要となってくる。ビックデータ、人工知能(AI)、人工現実感(AR/VR)、サイバーセキュリティなど、最先端研究による発展が著しい情報処理技術を現実社会で実用化するためには、単に技術だけでなく制度面での整備や運用の方法など、社会システムとしての実装が必要になる。
社会保障制度の改革にICTの活用が謳われて久しいが、今後も情報工学に基づく先端技術を活用し、より質の高い効率的な医療の実現を支援してゆくことが望まれている。本講演では、健康や医療分野における情報工学の応用事例および関連技術の動向と、社会実装における課題に関して紹介する。

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