声明文―福島県立大野病院の医師逮捕の件―
平成16年12月に,福島県立大野病院で帝王切開術を受けられた女性が術後に亡くなられました.平成18年2月になり,執刀医が逮捕されましたが,その被疑事実は業務上過失致死容疑と医師法違反(医師法第21条,異状死の届出義務違反)でした.
医師はその後起訴され,平成19年1月26日に第1回公判が開かれました.
なぜ執刀医は逮捕されなければならないのか.私どもはこれには大きな問題があると考え,逮捕に強く抗議をするものであります.
術後亡くなられてから3ヶ月後に,同病院の事故調査委員会は執刀医の責任を認め,さらに福島県側は遺族に謝罪し執刀医には懲戒処分を行っております.このような経過の中で,福島県警が捜査を開始し,平成17年9月には事情聴取を終えております.
そしてその半年後に突然上記容疑で執刀医の逮捕となりました.業務上過失致死容疑については,県立大野病院の調査委員会は執刀医の有責を認定していますが,一方,周産期関連学会を始めとして多くの学会からこれについて否定的な意見が示されています.従って,これは医療上,専門的観点より慎重に検討すべき問題と考えられます.また,医師法第21条の異状死届出義務違反については,異状死そのものの定義が明らかでなくコンセンサスが得られていない現状であります.現況では,いわゆる医療事故に対し異状死を一律に適応すべきでなく,行政・司法とともにまず合意を構築すべき案件であると考えます.これらの諸点については今後の公判において,より明確に論点が明らかとなっていくことを期待いたします.また,一年以上の経過の中で,執刀医は事例解明に協力しており,警察当局の事情聴取にも積極的に応じております.当然のごとく,証拠隠滅・逃亡のおそれがあったとは考えられません.以上のことからも明らかなごとく,今回の事例は少なくとも執刀医を逮捕拘束して取り調べなければならないものではないと考えられます.
今回の事例のように執刀医が逮捕されることが容認されるならば,これは医療行為による通常の偶発症までもが,時にきわめて恣意的に判断されてしまう可能性があることを意味します.すなわち,適切と思われる医療行為そのものが結果で判断され,さらに医学上の検討が必要な事例でも,逮捕に至る危険性があるとい うことになります.
今日,医療について多くの批判があることは事実であり,私ども医療に従事するものはこれを謙虚に受け止めなければなりません.今回お亡くなりになられた方のご冥福を心からお祈りするとともに,不幸な事例の防止や,それに対しての適切に対応できる制度が確立するよう,学会をあげて努力する所存です.
平成19年3月15日
財団法人日本消化器病学会
理事長 跡見 裕
役員一同





