このコーナーでは、消化器の病気や健康に関する疑問や悩みについて、 専門医がわかりやすくお答えします。
Q. 膵神経内分泌腫瘍について教えてください
膵神経内分泌腫瘍(膵NEN)は、膵臓にできる「神経内分泌細胞」という特殊な細胞から発生する腫瘍です。膵臓にできる腫瘍の中ではまれとされ、希少がんに分類されますが、年々発見されることが増えてきています。
膵NENは、大きく「NET(神経内分泌腫瘍)」と「NEC(神経内分泌がん)」の2つに分けられます。NETは比較的ゆっくり進行するタイプで、NECは悪性度が高く進行も速いため、治療の方法や方針が異なります。また、NETの中には、ホルモンを異常に分泌し症状を呈する「機能性NET」があります。
機能性NETの場合、たとえばインスリノーマ(インスリンを過剰に出す腫瘍)では低血糖を起こし、ガストリノーマ(胃酸を過剰に出す腫瘍)では胃・十二指腸潰瘍が多発するなどの症状が特徴的です。逆に非機能性NETでは症状が出にくいため、偶然見つかることもあります。
治療は腫瘍の大きさや進行の程度に応じて決められます。手術で取り除ける場合は手術が第一選択となりますが、転移がある場合や進行している場合には、薬物療法(分子標的薬やホルモンの働きを抑えるソマトスタチンアナログなど)や抗がん剤による化学療法が行われます。近年、特に注目されているのが、PRRT(ペプチド受容体放射性核種療法)です。これは、NETの細胞が持っている「ソマトスタチン受容体」という部分に放射線を運ぶ薬を結びつけ、体の中から腫瘍を狙い撃ちする治療法です。副作用が比較的少なく、全身に転移のある患者さんにも効果が期待できる治療で、2021年から日本でも保険適用となり、多くの医療機関で使用されるようになりました。
膵NENは「がん」とは少し違う特徴を持ち、ゆっくり進行するタイプも多いため、正確な診断と患者さんごとに合わせた治療の選択がとても重要です。まれな病気ではありますが、近年は研究や治療法の進歩も著しく、以前よりもずっと希望の持てる病気となってきています。