ESD(Endoscopic Submucosal Dissection;内視鏡的粘膜下層剥離術)

ESD(Endoscopic Submucosal Dissection、内視鏡的粘膜下層剥離術)は、内視鏡的に使用可能な高周波メスを使って、粘膜下層のレベルで病変を剥がし取る手技であり、主に消化管腫瘍の治療に用いられます。EMRとの違いは、1.周囲粘膜の切れ込みを入れる点、2.粘膜下層の剥離操作を行う点です。これらが加わることで、切除範囲を思い通りに決める(狙った範囲を正確に切り取る)ことができ、切除できる大きさに制限がなくなり、潰瘍を伴っていて固有筋層に固着しているような病変も切除できるようになりました。一般的な治療対象病変は食道、胃、大腸で若干異なりますが、基本的には、リンパ節転移がないこと、と、技術的に一括切除ができるということ、を満たす悪性腫瘍ということになります。食道では、周在性が2/3周を超える上皮内がんもしくは粘膜固有層までの浸潤にとどまるがん、胃では、2cm以上のがん病理組織型が分化型で潰瘍所見がない粘膜がんと3cm以下の分化型で潰瘍所見のある粘膜がん、大腸では、2cm以上の粘膜がんもしくは粘膜下層軽度浸潤がん、などがよい適応となります。もちろん、周在性が2/3周を超えない食道病変や2cm以下の胃・大腸病変でも、EMRでは分割になってしまう可能性が高いと考えられる病変ではESDが選択されることがあります。ただし、これらの適応病変におけるESDでの長期成績はまだまだ不十分であるため、本当にリンパ節郭清を含めた臓器切除をせずに病変局所だけの切除でおしまいにして大丈夫なのかについての結論はでていません。これらの大型病変や潰瘍所見のある病変に対する標準的治療は、今のところは、リンパ節郭清を伴った臓器切除であることを理解したうえで治療を受けていただくことになります。

切除に要する時間はおよそ1時間で、病変によっては5時間以上かかることもあります。大腸の場合は、静脈麻酔を使わない施設もありますが、食道や胃の場合は、静脈麻酔を使って治療します。長時間かかることが予想される場合は、全身麻酔をかけることもあります。治療に際しては、施設により5〜10日の入院が必要となります。術中・術後の主な偶発症は出血や穿孔です。術中の出血はほぼ100%見られますが、ほとんどの場合その場で止血可能です。術中の穿孔は数%の方に見られますが、ほとんどの場合、穿孔部位をクリップ(ホッチキスみたいなもの)で縫い寄せて塞ぐことができます。治療後に遅れて出血する方が数%、治療後に遅れて穿孔する方が稀にいます。いずれの偶発症も、輸血をしたり緊急手術を要するほど、重篤になることは近年少なくなりましたが、これらの可能性がある治療であることを理解する必要があります。治療後も少なくとも2週間は食事や運動、仕事内容など、生活に制限が付きますので、担当の先生とよくご相談ください。




胃がんに対するESDの実際

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