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健康情報誌「消化器のひろば」No.18

健康情報誌「消化器のひろば」No.18

 ずばり対談 ゲスト 近畿大学生物理工学部 准教授 谷本道哉/大阪市立大学 肝胆膵病態内科学 教授 河田則文

肝臓にも運動不足や肥満が影響する病気があるのをご存じでしょうか。今回の「ずばり対談」は「脂肪肝」の患者さんに特に知っていただきたい筋力トレーニングのお話です。NHK「みんなで筋肉体操」で、見事な筋肉美と「筋肉は裏切らない」をはじめ数々の名セリフで知られる運動生理学者・谷本道哉先生に、肝臓病が専門の大阪市立大学・河田先生がずばり!インタビュー。自宅でできる体操も紹介します。対談は新型コロナウイルス感染症の流行に配慮し、オンライン会議システムにて行われました。

(2020年10月6日収録)

自分が変わっていくのが楽しい

河田
私はスポーツは何でも好きで、若い頃から陸上、剣道、テニス、現在はゴルフをやってはいるのですがなかなか続きません。テレビで谷本先生の素晴らしい逆三角形の肉体を拝見していますが、先生の筋力トレーニングへのモチベーションは何ですか?

谷本
大学時代から続けていたフルコンタクト空手のパフォーマンスを上げるのが目的でした。今は空手はしていませんが、高い身体能力と、見た目のカッコよさのために続けています。ちなみに僕の逆三角形はポーズでだいぶごまかしています(笑)。

河田
どういうきっかけで「みんなで筋肉体操」に出演されるようになったのですか?

谷本
番組の制作班の方が僕の著書を読んでくれたことがきっかけです。実は、トレーニングに関する情報は科学的に適切とは言えない、怪しいものが多いのです。その中で、できるだけ近道をしながら、安全に高い効果が得られる方法を発信したいという思いが昔からありました。

筋力だけではなく、持久力を

河田
私の専門は肝臓病なのですが、近年は欧米を中心に肥満や運動不足による脂肪肝が増えています。日本では現在、国民の約20〜30%、つまり約2,000〜3,000万人が脂肪肝です。脂肪肝の患者さんの1割は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症します。そして最終的には肝硬変や肝がんに至る深刻な病気です。脂肪肝の患者さんのほとんどに糖尿病や高血圧、脂質異常症などメタボリックシンドロームが見られるので、患者さんには食事療法や運動療法をすすめています。そこで伺いたいのですが、筋肉は全身の代謝に対してどういう役割を担っているのですか。

谷本
筋肉と代謝の関係では、筋細胞から作り出される生理活性物質「マイオカイン」が糖や脂質の代謝にも有効ではないかと言われ、注目されています。ただ、筋肉さえつければマイオカインが増えると思われがちなのですが、実は筋肉量より活動量の大小のほうが分泌量に強く影響することがわかっています。つまり大事なのは筋肉を使うことで、筋トレだけではなく走る、歩くといった持久力運動もしっかり行うほうが良いのです。エネルギー消費量も持久力運動のほうが多いですし、動脈や血管の病気予防にもより効果があります。

河田
なるほど。世間一般には少し誤解があるかもしれませんね。

谷本
いま筋トレはブームで、過大評価されがちです。もともと筋力系の人たちは、僕自身も含めて持久力運動があまり好きではない人が多いのです(笑)。でもテレビでこれだけ“ 筋肉ラブ”な情報を発信している僕だからこそ、どちらもしっかりやろうと言いたいですね。ただ、高齢の方にとっては筋肉量がないと活動量も増やせないので、まず筋肉量を保つことが非常に大事です。中年期からしっかりと体を動かせるだけの筋肉を “貯筋”しておきたいものです。

歩くときはリュックを背負って

河田
どのような持久力運動がおすすめですか。

谷本
習慣化するには、特別なことではなく日常生活の中で活動量をどれだけ増やすかです。僕自身が行っているのは自転車通勤で、山の上にある大学まで毎日ロードバイクをこいで通います。持久力運動にも筋トレにもなり、僕にとっては二重の喜びです。このほか、たとえば1つ前のバス停までしか定期券を買わずに降りて歩くとか、最寄り駅の1つ先まで自転車で行くなど、日常生活に持久力運動が勝手についてくるという工夫をするのが良いと思います。さらに、その運動強度をできるだけ強く保つと、心筋梗塞や脳卒中など動脈・血管系の病気のリスクが下がることがわかっています。歩くなら速く歩く。リュックサックを背負うと腕が振れ、足の蹴りが強くなり、運動強度が上がります。

河田
高齢の方にはどの部位の筋力を鍛えていただくのが良いでしょうか。

谷本
基本的には全部やったほうが良いのですが、筋トレが好きで仕方ない人でなければそれは無理です(笑)。高齢の方は、生活機能に関わる部位ほど筋力が低下しがちですから、優先的に鍛えたいのは大腿部(ももの前側)、お尻、ふくらはぎと、足を前に踏み出すときに使う腸腰筋の4つです。

河田
高齢の方におすすめのトレーニング方法はありますか?

谷本
1歩ずつ足を前に踏み出してスクワットを行う「ランジ」という種目はももとお尻、腸腰筋の3つがしっかり鍛えられます。よくスクワットが大事だと言われますが、スクワットでは腸腰筋は鍛えられないのです。もう1つは「カーフレイズ」というつま先立ちの運動でふくらはぎを鍛えるものです。ふくらはぎの太さを保っている人ほど、死亡リスクが少ないという研究結果が最近報告されました。高齢になるとふくらはぎの筋力が低下して歩行が遅くなることが関係していそうです。これら4つの筋肉を鍛えると、自分の体をしっかりと支えることができ、日常の活動量や活動の強度が上がります。十分に運動ができれば、脂肪肝予防にも役に立つのではないかと思います。

朝食のタンパク質が“筋肉スイッチ”を入れる

河田
もう1つは食事のことです。私たちは脂肪肝の患者さんに糖質制限などをおすすめしていますが、筋肉のためには高タンパク食でしょうか。

谷本
はい。以前は、タンパク質は筋肉の材料とだけ考えられていました。それが近年ではタンパク質の中の特定のアミノ酸が、筋肉の合成反応を進めることがわかってきました。この反応を十分に進める必要量は、1回20g程度のタンパク質となりますので、これを1日に何回も摂ることが望ましいと言えます。ところが朝食はパンやご飯だけ、という人も多く、朝は十分な量のタンパク質が摂れていません。逆に夜は肉や魚などタンパク質が十分量を超えがちなので、その分を一部朝食に回すと良いです。

河田
朝に筋肉合成のスイッチを入れてあげるわけですね。

谷本
はい。スイッチを1日に何回入れられるかということです。朝のタンパク質が不足していると、筋肉が合成されるチャンスを1回失うことになります。高齢者にとっては朝食を抜くたびにフレイル(高齢になって心身の活力が低下した状態)が進んでしまうので、しっかり摂っていただきたいですね。
また、コラーゲンでできたゼラチンを摂るとコラーゲンが増える、速筋(瞬間的に大きな力を出す筋肉)を持つ白身魚を摂ると速筋が増える、といった報告もあります。こういった食品を積極的に摂ると良いですね。

「やりなさい」より「やりましょう」

河田
ところで、谷本先生には「筋肉は裏切らない」をはじめ、「きつくてもつらくない」「あと5秒しかできませんよ」など数々の名言集がありますね。

谷本
自分自身が筋トレしているときに思っている言葉をベースにしています。それを、筋トレの動きのリズムを邪魔しないよう、メトロノーム音に合わせた語調にして声がけしています。「みんなで筋肉体操」では僕は外から声をかけていますが、気持ちとしては同じメニューを自分でもやりながら声を掛けたいぐらいです。竹刀を振り回す部活の顧問のように“やらせる”というスタンスでの声かけは良くないのではないかと。「やりなさい」ではなくて「やりましょう」という感覚です。それが受け入れてもらえている1つの理由ではないかと思っています。実は「筋肉は裏切らない」はNHKの担当ディレクターが考えたセリフなのですが、コロナ禍に入って新たに僕が考えたのが「筋肉はあきらめない」です。筋肉はトレーニングによって何歳からでも老化を抑えられるだけではなく、さらに機能を上げていくことができます。それを皆さんに知っていただきたいという思いを込めています。

河田
正確な情報をやさしい言葉でわかりやすく伝えてくださる谷本先生の活動は非常に重要です。これからも先生の情報発信に期待しております。本日はありがとうございました。

構成・中保裕子

プロフィール

谷本 道哉(たにもと みちや)
1972年、静岡県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、大手建設コンサルタント会社を経て、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所 特別研究員、東京大学 学術研究員、順天堂大学 博士研究員、近畿大学生物理工学部人間工学科の講師を経て2013年に准教授に就任。専門は筋生理学、身体運動科学。著書に『35歳からのカラダルールBOOK』(ベースボール・マガジン社)、『スポーツ科学の教科書』(岩波書店)など多数。NHK「みんなで筋肉体操」「あさイチ」「おはよう日本」、テレビ朝日「モーニングショー」、「林修の今でしょ!講座」などでも運動の効果をわかりやすく解説している。

河田 則文(かわだ のりふみ)
1959年、京都府生まれ。1986年に大阪市立大学医学部を卒業後、1991年より独・フライブルグ大学生化学研究施設に客員研究員として所属。2007年に大阪市立大学肝胆膵病態内科学の教授に就任。現在は大阪市立大学医学研究科長・医学部長、先端予防医療学教授、中央部門輸血部部長を兼任。2015年より英・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの客員教授、越・ハノイ医科大学名誉教授も務める。消化器内科一般、特に肝胆膵内科を専門としており、肝臓における星細胞の研究では世界的にも非常に高い評価を受ける。『消化器のひろば』広報委員。

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