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健康情報誌「消化器のひろば」No.20

健康情報誌「消化器のひろば」No.20

知っておきたい治療薬 BRCA変異の薬

HER2陽性胃がんに対する新たな抗体薬物複合体エンハーツ®

抗体薬物複合体は、がん細胞に結合する抗体に、がん細胞を攻撃する抗がん薬を結合させた新しいタイプの薬剤です。がんの細胞表面のHER2(ハーツー)を標的としたトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ®)が2020年9月にHER2陽性の進行胃がんに対する治療薬として保険承認されました。

BRCA1/2変異とは

HER2はがん細胞の表面に発現し、細胞の増殖に関わるタンパクです。HER2の有無は、がん細胞の検査で確認することができ、胃がんでは約15%がHER2陽性です。HER2陽性胃がんの治療薬としては抗体製剤であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン®)が承認されています。しかし、トラスツズマブを含む治療を行っても効果がない場合や、効果があってもその後がんが悪化することがあり、その後に使用できる治療薬が待ち望まれていました。
 2020年9月にHER2陽性胃がんに対する抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンが保険承認されました。抗体薬物複合体は、がん細胞の標的に結合する抗体に、抗がん薬を結合させた新しいタイプの薬剤です(図)。抗体製剤であるトラスツズマブは、がん細胞のHER2に結合しがん細胞の増殖に関わる信号を抑えます。一方で、トラスツズマブ デルクステカンはHER2陽性がん細胞に結合し、細胞内に取り込まれて、DNAの複製を抑える抗がん薬としてがん細胞を死滅させます。
 トラスツズマブ デルクステカンの有効性は日本と韓国で実施された臨床試験で検討されました。トラスツズマブを含む化学療法を行った後のHER2陽性胃がん患者をトラスツズマブ デルクステカンと標準治療である抗がん薬の2群にランダム化し、効果が比較されました。その結果、トラスツズマブ デルクステカンでは標準治療と比較して3倍の腫瘍縮小効果が確認され、生存割合についても、トラスツズマブ デルクステカンを受けた患者さんのほうが良好でした。頻度の高い副作用は、骨髄抑制(赤血球や白血球の減少)や嘔吐と食欲不振などですが、重篤なものは少なかったです。また、約10%弱に間質性肺炎が認められましたが、ほとんどが軽症でした。この結果をもとにトラスツズマブ デルクステカンは世界に先駆けて日本で承認され、またその後米国でもHER2陽性胃がんに対する治療薬として承認されました。実際の治療においては、吐き気止めなどの副作用予防を十分に行うことと、間質性肺炎で起こりうる症状(咳、発熱、息苦しさなど)に注意が必要ですが、多くの患者さんに効果が発揮されることが期待されます。

国立研究開発法人
国立がん研究センター 東病院
消化管内科 医長

設樂 紘平

国立がん研究センター東病院消化管内科 医長 設樂 紘平近影

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