一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.22-2

 ずばり対談 体にやさしくお酒を楽しむ
フリーキャスター 唐橋ユミ/新宿三井ビルクリニック院長 清水京子

日本消化器病学会では昨年、書籍『正しい食事で健康になろう 日本消化器病学会からのメッセージ』を刊行しました。本書で取り上げているテーマの一つが「食と飲酒」です。今回は、テレビ『サンデーモーニング』をはじめ、ラジオ番組など多方面で活躍され、唎酒師の資格をお持ちの唐橋ユミさんをゲストにお迎えし、清水京子先生とともに健康を損なわないお酒の楽しみ方を探っていきます。

(2022年10月31日収録)

日本酒の歴史に感謝と尊敬

清水
唐橋さんのお生まれは福島県喜多方市で、ご実家は酒蔵だそうですね。

唐橋
はい、家の周りに蔵が立ち並ぶところで育ちました。飯豊山の伏流水と地下水が軟水なので、柔らかい、うまみの強い日本酒になります。雪がよく降るので、ほこりやちりをおさめてくれて空気がきれいなことも、酒造りに適しているのだと思います。

清水
日本酒の歴史は長く、全国各地の酒蔵の方々が努力されて、味も特徴も異なるものを生み出しています。唐橋さんは小さい頃からそれを間近に見て育ったのですね。

唐橋
はい。“酒蔵あるある”としては、納豆菌がお酒の麹菌を脅かしてしまうので、納豆を食べた日は「指紋がなくなるくらいまで手を洗え」と言われたりしました。蒸したお米に麹菌をパパッとかけて乾燥させる工程があるのですが、それがほのかに甘く、栗のようですごくおいしくて。「お米がどうしてお酒になるのだろう?」と興味を持って日本酒の勉強をはじめ、唎酒師の資格も取りました。

清水
今も新しい麹菌が発見されたり、新たに開発されたりして、進歩していますね。

唐橋
これからまた新しい味がどんどん生まれてくるのだろうと思います。勉強する中で国歌や国旗と同様に「国菌」があることも知りました。「ニホンコウジカビ」、学名はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillusoryzae)という日本独自の麹菌です。海外の麹菌には有害なカビもありますが、日本の麹菌は無害です。もしかしたら、長い歴史の中で酒造りの方々の犠牲のうえで現在があるのではないかという思いもあり、日本酒に対して感謝と尊敬の念を持っています。

お酒を呑む人が摂りたい栄養素

唐橋
先生は、お酒は呑まれるのですか。

清水
たしなむ程度ですが、週末にお料理をするときですね。ラム肉の煮込みを作ってワインといただくとか、お魚料理やお寿司では日本酒とか、食事の内容によってどのお酒にするか決めています。

唐橋
すごい、ラム肉なんて本格的ですね。

清水
いえいえ、他人に出すお料理はできませんが、自分で食べるなら(笑)。

唐橋
私が作るのはピーマンの細切りに味付け昆布と竹輪を投入して混ぜるだけ、のような簡単なものですが、日本酒にはとても合います。ただ、お味噌汁だけは鰹節を自分で削って、ちゃんと出汁を取って作っています。

清水
鰹節は飲酒で消費されて減ってしまう栄養素、ナイアシンを含んでいます。ナイアシンが不足すると二日酔いや体調不良になりがちですので、鰹節はお酒を呑むときにはぴったりです。

唐橋
お酒を呑んだ後、自然に飲みたくなる味ですね。ほかにも、お酒を呑む人が摂ると良い栄養素はありますか?

清水
飲酒量の多い人の場合、最も不足するのはビタミンB1ですね。アルコールが分解されるときに酵素として使われます。糖質をエネルギーに変える働きがあるので、不足すると体のだるさや、神経や脳にも影響が現れ、ひどい場合は脚気になることもあります。大量飲酒でアルコール中毒症のようになると平衡感覚が失われたり、錯乱状態になったりもします。葉酸も不足しがちで、貧血の一種である「巨赤芽球性貧血」の原因になります。牡蛎や豚の赤身に多い亜鉛も、減ってしまいやすい栄養素です。

唐橋
呑むときにメニュー選びの参考にします。

清水
飲酒と同時に食べなくてはいけないというわけではありません。飲酒の習慣がある方だとこれらの栄養素が不足している可能性があり、それによって病気を引き起こさないために食生活の中で補っていただきたいと思います。

女性は飲酒でリスクが上がる病気も

清水
ところで唐橋さんは、ふだんどのくらい呑まれるのですか?

唐橋
まちまちですが、最近は家呑みが多くて量はそれほど…でも、国が示す指標は超えてしまってはいます(笑)。週2 ~ 3回の休肝日は必ず取るようにしていて、たとえば日曜日の朝は生放送があり3時半起床ですから、前の日は呑まないようにしています。その代わり、放送後に日の光を浴びながら呑むお酒は特に進みますね(笑)。

清水
気分が解放されて、リラックスするのでしょうね。飲酒量としては日本では現在、男性は純エタノール量で20g、女性は10gであれば健康への障害が起きにくいとされています。純エタノール量はアルコール濃度から簡単に計算することができます。たとえば3%なら500ml の場合、アルコール量は500×0.03=15gです。純エタノール量を出すにはさらに0.8をかけて12g。このようにして「1本どれくらいかな?」と出すことができます。休肝日は唐橋さんのように週2日は取ることが勧められています。

唐橋
今はアルコール度数が高くても呑みやすいお酒がたくさんありますね。ちょっと危険なお酒も多いです。

清水
3%と9%の缶チューハイとではアルコール濃度が3倍違います。私は患者さんには「9%には絶対手を出さないでください」と言っています。そもそも日本人はお酒に弱い人種で、アルコールを体内で分解し、アセトアルデヒドという物質に変える酵素があまり働かない人が7%、アセトアルデヒドを分解して酢酸に変える酵素を持たない人が40%程度います。アセトアルデヒドは大変体に悪い物質で、がんなどの原因になります。ですから顔が赤くなる人(赤型体質)はアセトアルデヒドが分解されにくく、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がんのリスクが高くなります。さらに喫煙が加わるとよりリスクが上がります。赤型体質の人はなるべくお酒を呑まないことが一番良いのですが、定期的に内視鏡によるがん検診をお勧めします。

唐橋
私は全く赤くはならないのですが…。

清水
それでも全く安心して良いというわけではありません。女性は男性に比べて血液量も少なく肝臓も小さいのでアルコールによる障害を受けやすいのです。飲酒量が多いと乳がんのリスクも高まります。ぜひ、乳腺のセルフチェックを行い、乳がん検診を定期的に受けていただきたいですね。乳がんのほかにも飲酒量が多いと、男女ともに大腸がん、肝臓がんのリスクも増加します。また、アルコール性慢性膵炎になると膵臓がんのリスクも増加します。肥満症、高血圧、脂質異常症、高血糖、脂肪肝、膵炎、認知症、痛風などの多数の病気とも関連しますので、日々の生活で節度を持った飲酒習慣を意識し、健康診断を受けることが大切です。

「和らぎ水」で二日酔いを予防

清水
春は歓送迎会やお花見など飲酒の機会が増えます。一度に大量のお酒を呑むと急性アルコール中毒症で酩酊状態から昏睡状態になることがあります。イッキ飲みは絶対に避け、呑めない人に無理に勧めないことが大切です。

唐橋
他人に勧めないことは基本ですね。番組でご一緒させていただいているある大先輩は、自分の好きなお酒を1合、それぞれに頼ませる。最初の1杯だけは酌み交わし、後はそれぞれ自分の手酌で楽しんでとおっしゃいます。後輩たちへの思いやりを感じます。マイペースで呑める仲間たちとなら、さらに楽しいお酒の席になると思うのです。自分の適量を知ることも大事で、もう1杯勧められても「ソフトドリンクで結構です」と断る勇気も大切です。実は私は、お酒を呑むときにお水をお酒の2~3倍飲むようにしています。 この“和らぎ水”を飲むようになってから、二日酔いをしなくなりました。

清水
それはとても良い呑み方ですね。健康診断をきちんと受けながらお酒を“愛でる”こと、唐橋さんのように自分のペースでおいしいお料理と一緒に楽しく呑むことは、酒造りに携わる方々にとっても嬉しい呑み方なのではないかと思います。今日はどうもありがとうございました。

構成・中保裕子

プロフィール

唐橋 ユミ(からはし ゆみ)
福島県生まれ。テレビユー福島のアナウンサー(1999年~ 2004年)として、『まるとく』司会、『ニュースの森ふくしま』キャスターなどを担当。現在はフリーアナウンサーとして『サンデーモーニング』(TBS)などに出演中。著書に『会話は共感力が9割 気持ちが楽になるコミュニケーションの教科書』(徳間書店)がある。

清水 京子(しみず きょうこ)
1984年に東京女子医科大学卒業後、同大学消化器内科に入局。米国ロチェスター大学研究員、東京女子医科大学臨床検査科(消化器内科兼任)助手などを経て、2018年より東京女子医科大学消化器内科教授を務める。2022年より新宿三井ビルクリニック院長に就任。専門分野は膵臓・胆道疾患、急性膵炎、慢性膵炎、自己免疫性膵炎、膵嚢胞性疾患、膵がんの診断と治療など。

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