一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.22-3

気になる消化器病 慢性膵炎

慢性膵炎とは、膵臓で作られる消化酵素が活性化されて、自分の膵臓を消化・破壊し、炎症が持続する病気です。最も多い原因はお酒ですが、胆石や原因不明の特発性の場合もあります。初期にはおなかや背中の痛みを繰り返すことが多く、進行すると消化不良による下痢や体重減少、また糖尿病が出現することもあります。

 膵臓は膵液(消化酵素)を作って食べ物を消化・吸収するために必要な臓器です。また、インスリンを産生し血糖のコントロールもしています。食事を摂ると胃で大まかな消化をするのですが、その後膵臓が刺激されて消化酵素(タンパク質はトリプシン、脂質はリパーゼ、炭水化物はアミラーゼなど)を含む大量の膵液が産生され、食べ物が小腸で吸収できるようにする働きがあります。消化酵素を含む膵液はサラサラなのですが、お酒を呑みすぎると膵液がドロドロになって、消化酵素が自分の膵臓で活性化し、膵臓を溶かして炎症を起こします。急激に溶けるものを急性膵炎、徐々に繰り返し炎症を起こすものを慢性膵炎といいます。

 慢性膵炎の症状は一般的におなかの痛みや、背中の痛みです。しかし約30%の人は症状がなく慢性膵炎が発症します。進行すると正常の膵臓の細胞が破壊され、膵臓が硬くなったり(線維化)、膵臓の中に石(膵石)ができたりします。その結果、栄養状態が悪化します。また、慢性膵炎では膵がんの発症のリスクが13倍ほどに高まるとの報告もあり、早期に慢性膵炎を発見して早期に治療を行い、慢性膵炎の進展を抑えることが重要です。

 慢性膵炎の診断には症状や採血のほかに腹部超音波検査、CTやMRI検査が有用です。また、高性能の超音波を装着した内視鏡を挿入して、胃や十二指腸の壁から膵臓に超音波を当てて膵臓を観察できる超音波内視鏡(EUS)も有用で、早期(軽症)の慢性膵炎の変化を捉えて診断することが可能です。

 慢性膵炎の予防のために、膵臓を守る生活習慣を記載しました(表)。特に飲酒ですが、純エタノール換算で一日に60g 以上飲む方は膵炎の発症リスクが一気に高くなります。一方、20g 程度なら飲酒をしない人と同じ程度ですので、楽しく節制しながら飲酒するのがコツです。また、患者さん用のアプリ「『慢性膵炎』の話をしよう。生活習慣の改善と手引き」が無料でダウンロードできます、ぜひご利用ください。


 

福岡山王病院 膵臓内科・神経内分泌腫瘍センター センター長
国際医療福祉大学医学部 消化器内科学 教授

伊藤 鉄英

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