一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.23-1

FOCUS 医療におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)

デジタル技術の進化によって医療へのアクセスがさらに便利に

 DXとは digital transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称です。デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える(transformする)ことと定義されています。医療においてもこのコロナ禍でデータ連携の非効率性などがより明らかになったことを背景として、2022年10月に内閣官房に岸田文雄首相を本部長として医療 DX 推進本部が設置されています。

 医療 DX推進本部の施策としてマイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報の標準化などが掲げられており、工程表も示されています。これらが進めば、スマホ一つで自分自身の医療データをいつでもどこでも見ることができるようになります。全国の医療機関で必要なときに医療データが共有されるようになれば、同じ検査を何度もやることも少なくなり、災害時や緊急時にもスムーズに受診することが可能になるでしょう。

 医療においてもロボット、A I、ウェアラブルデバイスなどの活用が日々ニュースになっています。また、デジタル技術を活用した遺伝子検査や生体データの解析とそれらを基にした個別化医療の提供、つまり患者さんの特性やリスクに応じた最適な治療計画の立案を可能にします。そうなれば、より効果的な治療結果や副作用の最小化の実現が期待できるでしょう。

 さて、ここまでトピックスを記載してきましたが、医療DXがこれから発展したときにもたらされる本質的な患者さんにとっての価値は何でしょうか。それは「時間的・空間的制約を超えて最速で最適な医療にアクセスできる世界」と考えております。抽象的な表現ではイメージしづらいと思いますので具体的な消化器病での事例をご紹介します。

 炎症性腸疾患という厚生労働省指定の難病があります。下痢や腹痛を繰り返す、故安倍晋三元首相も悩まされた病気です。札幌医科大学では北海道の炎症性腸疾患の患者さんを対象とした遠隔医療を実施しています。北海道はご存じのようにとても広大です。一方で炎症性腸疾患を専門的に診療することのできる医師の数は限られています。炎症性腸疾患の患者さんは専門的な医療を受けるためには遠方まで通院しなければならないという課題を抱えていました。

 それを解決すべく、帯広、釧路、函館それぞれの医療機関から札幌医科大学の炎症性腸疾患を専門とする医師にオンラインで相談する体制を整え、各地域でも高度で専門的な医療を提供することを可能としました。本取り組みは「北海道炎症性腸疾患患者医療均一化を目指した遠隔医療体制の確立」として内閣官房の「冬のDigi田(デジデン)甲子園」ベスト8を受賞しています。

 アクセスの向上と個別最適化された医療の提供こそが医療 DX において患者さんが享受することのできる最大のメリットです。少しずつですが、それが実現しつつあるのです。


株式会社メディカルノート代表取締役・共同創業者/
医師・医学博士
井上 祥

井上 祥 近影
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