

「この顔にガーン!ときたらがん検診」。デーモン閣下の強烈なポスターが記憶にある方も多いのではないでしょうか。デーモン閣下は魔暦15(2013)年から広島県の「がん検診啓発特使」として、魔暦22(2020)年からは厚生労働省の「上手な医療のかかり方大使」として活躍、活動がかなり浸透した11年目に自身が早期がんに罹患。医療の“今”を伝える特使・大使として、そして患者としての経験からどんな気づきがあったのか――江﨑幹宏先生と大いに語りあっていただきました。
(魔暦27(2025)年10月9日収録)
時間は作れるはずである
閣下
グハハハハ!デーモン閣下である。
江﨑
はじめまして。閣下はこの12年間、がん検診や医療のかかり方といった医療の啓発でも活躍されていますが、そもそも何がきっかけだったのですか。
閣下
吾輩は、世を忍ぶ仮の姿である幼少期の一時を、広島県で過ごした縁がある。そうした経緯もあって、広島県側から「がん検診啓発特使」を引き受けてくれないかと請われたわけだ。依頼があった背景として、今から13年前の「啓発キャラクター」に就任した当時、広島県のがん検診受診率は嘆かわしいほどに低かったことがあるな。
江﨑
それまで閣下ご自身は、がん検診を受けていたのですか。
閣下
まあ、当時は3年に一度といったところだった。いかに世を忍ぶ仮の姿といえども、肉体のコンディションくらいは把握しておかねばならない、という意識は持っていた。ただ、意識はあっても、なかなか足が向かないのが常だったと思う。かつての吾輩もそうだったが、これを読んでいる諸君も「忙しい」だの何だのと、ごたくを並べてなかなか行こうとしないのではないか? 本当は、時間など作れるはずなのに、だ。
江﨑
がん検診後の精密検査に行く人も増えません。たとえば大腸がん検診の便潜血検査で異常と判定が出て精密検査に行くように言われても、実際に行くのは4~5割です。
閣下
検診で引っかかって2次検査をしろと言われていても病院に行かないなんて、事の深刻さと「考え方の優先順位」をまるでわかっていないな。
江﨑
その後は魔暦22(2020)年からの厚生労働省「上手な医療のかかり方大使」に就任されましたが、これも「がん検診啓発特使」の活動をなさっていたからですか。
閣下
そのようだ。まず魔暦20(2018)年に厚労省内に発足した「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」に吾輩は当初、構成員として加わる依頼を受けたのだが、その2年後にはなぜか「大使」になった。およそ5年にわたり務め上げ、現在は「名誉大使」の地位にある。そこで吾輩に課せられた主な役目は、会合終了後の記者会見において座長の医師たちとともに議論の内容や国民へのメッセージを喧伝することだった。そのためには医療の現場で今何が起き、何が問題となっているのかといった議論を一言一句たりとも聞き漏らすわけにはいかない。なので、自らメモを取りつつ、真剣に耳を傾けた。吾輩にとっても大いに学びになった。
江﨑
その学びによって、閣下の生活も何か変わりましたか。
閣下
変化か? 山ほどあるぞ! まず「がん検診」についてだが、「特使」である吾輩自身が検診に行かないのはおかしいだろうということで、必ず毎年足を運ぶようにした。まあ、そのおかげで後々、我が身にも「がん」が発見されることになるのだが。そして「上手な医療のかかり方」についても同様で、大使としての活動の中で救急医療の現場がいかに疲弊し、医療崩壊の危機が忍び寄っているかを知った。その矢先に、あの新型コロナ感染症が襲来した。医療現場にさらなる多大な負荷がかかり、危機的な状況に陥っていることを吾輩も得心した。そこで吾輩も行いを改めた。いきなり大病院の門を叩くのではなく、まずはかかりつけ医を持ち、気になることがあればそこへ相談するようにしたし、周りにもそれを勧めている。一見、簡単なことのように思われるかもしれないけれども、吾輩の生活態度においては大きな変化といえた。
現在のがん検診は思われているより楽
江﨑
がん検診がつらい、恥ずかしいという人もいるのですが、今の検査は皆さんが思うより楽になっています。たとえば胃がんや大腸がん検診は、鎮静剤を使い、眠気を起こしてリラックスした状態で検診を受けることもできます。胃内視鏡検査も鼻から入れる「経鼻内視鏡」なら、鼻の形によってはお勧めできない場合はあるものの、5mmぐらいの小さな胃カメラですので“オエッ”となる「咽頭反射」も少なくなります。
閣下
経鼻内視鏡なら吾輩も経験済みなので勝手はわかっていて、吾輩には痛みはなかったな。最初にシュッシュッと、鼻腔に軽く麻酔を噴霧するだけで十分事足りた。通される管も相当に細いものだったしな。
江﨑
治療用の検査技術では、AI(人工知能)を活用して自動で病変を検出して見落としを防いだり、見つけた腫瘍が悪性か良性かを判断したりすることもできるようになりました。また最近「画像強調内視鏡」という、がんを早期の段階で見つけやすくする検査方法も登場しています。
手術不要な早期がんのうちに治療を
江﨑
ところで、閣下は魔暦26(2024)年4月にがんの治療を受けられました(発見は2月)。啓発する立場から実際に患者さんになられた。
閣下
吾輩にとって生き方の根本を揺るがすほどの、大きな出来事だったね。検診の結果が「要精密検査」の判定で、病理検査をした結果「まちがいなくがんである」と宣告された。内視鏡を用いて2つの病巣を削り取ったのだけれども、主治医に「運が良かった」と言わしめるほど、ごくごく初期の段階だった。おかげで処置ののちは「極めて順調」と太鼓判を押されている。
江﨑
治療後もすぐにコンサート活動に戻れたのですか。
閣下
もし患ったのががんだけだったなら、翌週にでも歌えたと思う。だがな、がんの術前検査で大動脈の疾患に「瘤」のような変異が見つかり、がんの1カ月後にそちらの手術も受ける羽目になったので、結局3カ月後にステージでの歌唱への本格的復帰を果たす形になった。
江﨑
閣下は早期がんだったので内視鏡で切除でき、回復も早かったのだと思います。がんが進行してしまうと、内視鏡では取りきれず、手術が必要になります。手術は消化器外科の担当ですが、内視鏡治療は消化器内科の担当です。私は消化器内科医なので、可能な限り手術を必要としない早い段階で見つけて内視鏡で治療したいのです。
閣下
吾輩がこれまで「がん検診啓発特使」として訴え続けてきた真髄は、まさにそこだな。「今や日本国民の2人に1人ががんになる時代だ。つまり“がんになるのが当たり前”と考えるべきである。ならば、5年後、10年後の生存率が高い早期のうちに見つけ出し、切除してしまうのが上策である」。そう説いてきた。吾輩自身がその言葉に感化されて、毎年検診へ赴くようになり、そのおかげで見事にがんを早期発見できたというわけだ。もしも広島県からこの活動を依頼されていなかったら、吾輩も毎年検診には行っていなかったかもしれない。つまり吾輩は広島県に命を救われたと言っても過言ではない。主治医からは「生活習慣を改めなければ、今後また新たな『がん』が見つかる可能性がある」と釘を刺されてはいて、たとえば、酒は飲まないようにと厳命されてはいるがな(苦笑)。なので今は断酒を継続中だ。
江﨑
飲酒は様々ながんと関連が深く、消化器のがんで言えば、お酒を飲んで顔が赤くなる人は食道がんのリスクが高くなります。アルコールデヒドロゲナーゼやアルデヒドデヒドロゲナーゼという解毒酵素の活性が弱く、アルコールがうまく代謝できないためです。そこに喫煙が加わると、3~5倍程度にリスクが上がります。私自身は赤くはならないのですが、お酒をよく飲むので“医者の不養生”にならないよう、毎年必ず検診を受けています。
氾濫する健康情報。真実を見抜く目を持て
江﨑
最後に閣下から読者や医療者へのメッセージをいただけますか。
閣下
吾輩から言いたいことは3つある。まずは、人間どもへ! 信頼のおける機関が発信する情報を、もっと敏感にキャッチしようということだ。近頃はインターネットの時代になって、いろいろな者がいろいろな情報を好き勝手に発信している中で、“真実を見抜く目”を持ってもらいたい。公的な機関は、長きにわたって「がん検診がいかに重要か」を訴え続けている。「2人に1人がかかる」ということは、検診に行かない者は、がんが進行して手遅れになってから発見されるというわけだ。それは周囲に多大な迷惑をかけるし、もはやその者個人の問題だけではなくなる。胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん……この5つのがんは国が税金から補助金を出し、日本人は実に恵まれた環境で検診を受けられる。「怖いから行かない」などと怯える者もいるが、むしろ「見つかったらラッキー」と思える医療技術の時代になっているのだ、考え方の根底を改めてもらいたい。もしも吾輩が厚生労働大臣、または内閣総理大臣、なんなら今はない“関白太政大臣”になった暁には、検診に行く資格があるのに行かない者には、重税を課す! 早期発見せずのり患は周囲にとって迷惑だからな(笑)。そのくらい、検診には行くべきであると言っておきたい。
次に、メディアの諸君にも言っておきたい! こうした極めて重要な事柄を、もっと大きな声で、世の中が震えるほどに報道すべし!自局の番宣ばかりしていないで。もしも吾輩が関白太政大臣…、以下省略!
そして最後に、医療現場の諸君へ! がんの治療には、複数の診療科の医師や、多くの職種のスタッフが関わることだろう。team医療というやつだな。忙しい中であっても多職種間の連携や情報共有は、ないがしろにせず密に行ってほしい。患者への薬や治療の説明も、懇切丁寧に願いたい! 安全な医療を提供するためには、そうした連携と十分な説明こそが要であると、吾輩も活動を通じて学んだからな。
江﨑
どうもありがとうございました。

構成・中保裕子


