消化器領域における
再生医療の発展を期待して
日本消化器病学会理事長 持田 智
寄稿掲載日(2023年12月)
日本消化器病学会は1898年に発足したわが国最古の医学会で,会員数は36,000人,専門医数は24,000人を上回ります。会員の専門は消化管,肝臓,胆道,膵臓と多彩であり,「これら臓器の疾患に関する基礎的および臨床的研究の奨励を為し,もって消化器病学の向上発展をはかり,人類の福祉に寄与すること」を,学会の目的としています(定款第3条)。この目的を達成するために,研究発表および討議の場として,春には総会を,秋にはJDDWの一部として大会を開催していますが,消化器以外の専門家との連携が重要な課題に関しては,研究推進室(室長: 竹山宜典副理事長)に諮問委員会をおいて,別途活動を行っています。現在では難治癌対策委員会(七島篤志理事),再生医療研究推進委員会(江口晋理事,委員長: 寺井崇二財団評議員),食と消化器病委員会(磯本一理事),ビックデータ・AI検討委員会(春日井邦夫理事)の4委員会が設置されており,セミナーの開催,冊子の発刊などを介して,会員の皆様に最新の情報を提供しています。
再生医療研究推進委員会は2018年に設置され,消化器領域における再生医療を発展させ,臨床応用を加速させるための活動を続けています。再生医療セミナーは2019年に第1回を開催しました。2020年はCOVID-19の蔓延で開催が見送られましたが,2021年以降はオンラインで年1回開催しており,毎年,参加者は多数で盛況を極めています。また,ホームページでは会員の研究のみならず,他領域の再生医療,海外の動向,関連規制などを紹介しております。さらに,日本再生医療学会とも連携して,研究,治験推進などに関する会員の質問に回答する「よろず相談」の窓口を公開しています。
これら委員会の活動を介して,消化領域における再生医療が整形外科,眼科,神経,循環器などの領域と同様に発展し,薬物療法,外科手術,内視鏡治療などとともに,治療の選択肢の一つとして定着することを期待いたします。
消化器領域再生医療の社会実装に向けて
日本消化器病学会
再生医療研究推進委員会担当理事 波多野 悦朗
寄稿掲載日(2025年6月)
このたび、日本消化器病学会再生医療研究推進委員会 担当理事を拝命いたしました。これまで、肝・膵・小腸を対象とした臓器移植医療に関わり、重症消化器疾患に対する根治的治療の可能性と限界を臨床の現場で経験してまいりました。移植医療は確立された治療法となった一方、ドナー不足や免疫抑制の長期管理といった課題を内包しており、これに代わる新たな治療戦略として再生医療への期待が高まっております。
近年の再生医療の進展は目覚ましく、肝硬変に対する細胞治療、膵島細胞移植、腸管上皮の再構築など、消化器領域においても基礎研究から臨床応用へと大きく舵が切られています。特に、iPS細胞あるいは間葉系間質細胞由来の細胞移植や、細胞外マトリクスを利用した組織工学的アプローチは、機能的な細胞補充・再構築と生着環境の最適化を可能にしつつあり、移植医療の代替あるいは補完手段として臨床導入が現実的な段階にきております。
一方で、これらの技術を安全かつ有効に社会実装するためには、免疫寛容の誘導、腫瘍化や異常分化リスクの回避、製造工程の標準化と品質管理、さらには倫理的・制度的枠組みの整備といった多面的課題への対応が不可欠です。こうした課題に対しては、基礎から臨床にわたる横断的な知見の集約と、産官学の連携による研究基盤の構築が求められます。
消化器再生医療の科学的発展と臨床応用には、消化器以外の専門家との連携が今後益々重要となります。本委員会ではその橋渡しを担い、消化器領域再生医療の発展に資する活動を推進してまいります。会員の皆様のご指導とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
消化器領域における
再生医療の発展への期待
日本再生医療学会理事長 澤 芳樹
寄稿掲載日(2019年5月24日)
従来の再生医療を安全に有効に迅速に届けると言う理念はこれから近未来に達成されつつあるなかで、コーポレートスローガンとして「あらゆる知を結集し、再生医療の革新と普遍化により、全人類の幸福と未来に貢献する」とし、再生医療学会としてはあらためて再生医療普遍化を推進していきたいと考えております。特に2016年から日本医療研究開発機構(AMED)の委託によるナショナルコンソーシアム(NC)事業を開始し、着実に臨床研究支援、人材育成、データシステムの3つの軸から成り立つ各種の事業を遂行し成果を出しつつあります。
これまでの再生医療の発展を振り返りますと、第一世代の整形外科領域、眼科学領域から最近の神経領域、循環器領域への臨床展開は、世界の最先端をすすむ日本の再生医療研究の実力には目を見張るものがございます。そして、重要臓器の肝臓や膵臓そして消化管等の消化器領域も再生医療がますます活発になる時期かと思います。そのような中、日本消化器病学会が本領域における再生医療を発展すべく再生医療研究推進委員会を設立されたことは、時期を得たご判断であるとともに、なにより患者のニーズに応えるべき見識と考えます。
普遍化を目指す再生医療学会としても、貴学会との強い連携により、消化器領域における再生医療の発展をめざし、ともに議論し行動しながら、世界を席巻する日本発再生医療普遍化を実現せていただければと存じます。