消化性潰瘍
患者さんとご家族のためのガイド消化性潰瘍ガイドQ&A消化性潰瘍についてお話しします。

Q1 消化性潰瘍ってどんな病気ですか?
消化性潰瘍は、食物を分解するはたらきをもつ胃酸や消化酵素が胃や十二指腸の壁を深く傷つけてしまうことによって起こる病気です。胃の粘膜がヘリコバクター・ピロリ菌に感染することが主な原因です。最近では薬剤(非ステロイド性抗炎症薬)によって起きる薬剤性潰瘍も増えています。
ピロリ菌に感染すると、胃や十二指腸の粘膜に炎症を起こしたり、粘膜の表面を守っている粘液が減ることで粘膜が酸によって傷つきやすくなるため、そこから潰瘍ができます。
また、薬剤性潰瘍の原因となる非ステロイド性抗炎症薬も、粘膜を傷つけてしまうはたらきと、粘膜を保護する力を弱めてしまうはたらきがあるため、潰瘍が起きやすい状態となります。
消化性潰瘍ができると、お腹の上のほうやみぞおちのあたりに鈍い痛みを感じることが多くみられます。空腹時に痛みが強くなることが多く、食事をとることで軽くなります。
また、潰瘍ができる部位によっても症状は異なり、胃潰瘍では食後に痛みを感じることがあります。一方、十二指腸潰瘍では夜間に痛みを感じることもあります。
そのほか、吐き気や胸やけを感じることもあります。潰瘍から出血すると、嘔吐物や、便に血液がまじってきます。嘔吐物にまじった血液は、少量のときは黒いススのようにみえます。大量の出血の際は出血した血液をそのまま嘔吐する吐血になります。便に出るときは黒い便になってきます。
Q2 消化性潰瘍の患者さんはどれくらいいるのですか? 放っておくとどうなるのでしょうか?

胃潰瘍はおよそ29.2万人、十二指腸潰瘍はおよそ4.4万人と推定されています(厚生労働省の平成26年度調査)。いずれも年々減少してきており、胃潰瘍は最も患者さんが多かった平成5年ごろの約4分の1、十二指腸潰瘍は昭和59年ごろの約10分の1に減っています。この理由には、消化性潰瘍の主な原因であるピロリ菌の感染者が減ってきたこと、消化性潰瘍の治療に有効な薬が出てきたこと、さらに、ピロリ菌の除菌治療が普及したことにより消化性潰瘍の発症や再発が抑えられるようになったことがあげられます。
その一方で、わが国では高齢化が進み、非ステロイド性抗炎症薬(Q3参照)を服用する患者さんが増えており、薬剤性潰瘍の割合が高まっていると考えられています。
消化性潰瘍を発症すると、Q1に示したように上腹部やみぞおちの鈍痛、吐き気、胸やけなどの症状があらわれ(ときに自覚症状がまったくない場合もあります)、悪化すると潰瘍から出血し、吐血や黒色便を引き起こすことがあります。その場合は内視鏡により出血を止める処置が必要になります。また、少量の出血が長く続くと、貧血が徐々に進行することがあります。さらに、潰瘍による傷が深くなると胃や十二指腸の壁に穴があき、激しい痛みとともに腹膜炎を発症します。この場合には手術などの緊急処置が必要となります。
Q3 どうして消化性潰瘍になるのですか?
消化性潰瘍の原因は、その多くがヘリコバクター・ピロリ菌の感染によるもので、次に多いのが痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)によるものです。喫煙やストレスを感じることで胃潰瘍や十二指腸潰瘍になると思われている方がいるかもしれませんが、喫煙やストレスだけでは潰瘍の原因にはなりません。ただし、ピロリ菌に感染している人では喫煙やストレスにより潰瘍になりやすくなることがわかっています。
私たちの胃の中では、食べたものを消化したり侵入してきた細菌を殺すために、胃酸や消化酵素を含んだ胃液が分泌されます。このとき、正常な状態では胃酸から自分の胃粘膜を保護するため粘液も同時に分泌されますが、この両者のバランスが崩れると潰瘍ができやすい状態となります。
胃潰瘍は、ピロリ菌感染、非ステロイド性抗炎症薬、喫煙、ストレスなどにより胃粘膜の防御機構(胃を守る力)が弱くなり胃粘膜に傷ができると、そこから潰瘍に進んでいきます。
ピロリ菌に感染している人では、胃粘膜に炎症が起こり、胃を守る粘液の分泌が低下するため、潰瘍が発症しやすくなります。一方、十二指腸潰瘍は、胃酸の分泌が高くなり、十二指腸の粘膜が傷つけられてしまうことで生じます。もともと十二指腸は胃酸に対する抵抗力が弱いためです。
非ステロイド性抗炎症薬は、解熱、鎮痛、炎症を抑えることなどを目的に使われる薬剤ですが、胃粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)を抑えるはたらきがあるため、胃粘膜を守る力を弱めます。脳卒中や心筋梗塞になった方、あるいはその危険性がある方は、再発予防のためにアスピリンを処方されることがあります。アスピリンも非ステロイド性抗炎症薬の一種なので、潰瘍のある方や潰瘍になったことのある方では注意が必要です。当てはまる方は主治医にご相談ください。

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