肝硬変

患者さんとご家族のためのガイド

肝硬変ガイドQ&A肝硬変についてお話しします。

肝硬変

Q8 肝硬変腹水はどのように診断し、治療するのですか?

腹水の診断
肝硬変では腹部に体液が異常に溜まって腹水となり、お腹が張ってくることがあります。診断にあたっては腹部の診察や超音波検査でまず腹水の存在を確かめ、採取した血液や腹水を検査して、原因を調べます。腹水は肝硬変のほか、腹膜炎、がん、腎不全、心不全などで溜まることがあり、CTやMRIが必要になる場合もあります。
肝硬変の腹水は淡黄色で、蛋白やアルブミンの濃度が低く、細菌や多数の細胞はみられません。ときに特発性細菌性腹膜炎を合併することがあり、この場合は腹水中の白血球が増加します。特発性細菌性腹膜炎を合併すると死にいたることがあるので、迅速な診断と抗菌薬の投与が必要です。

腹水の治療
合併症のない肝硬変腹水の場合、安静を保ち、食事は塩分を抑えた薄味の味付けとして、余分な食塩摂取を控えます。利尿薬としては抗アルドステロン薬を用い、ループ利尿薬を適宜加えます。ともに少量から始めて、効果が不十分なら腎機能や血清ナトリウム、カリウムの変化に注意しながら段階的に量を増やし、静脈注射に切り替えることもあります。低ナトリウム血症は水分がナトリウム以上に溜まって血液が薄まることで起こります。腎臓で水の吸収にかかわるホルモンをブロックするV2受容体拮抗薬が開発されました。これは大量腹水例や利尿薬抵抗例に対して、利尿薬の注射に先立って用いられています。また、血中のアルブミン濃度が下がると、水分を血管内に引きつける力が弱まり、腹水が溜まりやすくなるため、アルブミンの静脈注射を行うことがあります。
特発性細菌性腹膜炎は進行した肝硬変で腸管内細菌が腹水中に移行して起こり、放置すると敗血症や腎不全を起こします。第3世代セフェム系抗菌薬の点滴注射が第一選択ですが、脳症や腎障害を伴わない例ではニューキノロン系抗菌薬の投薬治療を行います。肝硬変のアルブミン低下による腹水はアルブミンの補充で軽減するため、腎機能障害例には抗菌薬にアルブミンの静脈注射を併用することが欧米で推奨されています。
利尿薬に抵抗する難治性腹水には穿刺排液を行います。針を下腹部に刺し、ゆっくりと排液します。急速に廃液すると循環血液量が急に減って、ショックや腎不全を起こすため、大量の排液が必要と予測されるときはアルブミンなどの血漿増量剤を併用します。また、濾過器を通して細菌や細胞を除去した後、穿刺腹水を濃縮して点滴静注することがあります(腹水濾過濃縮再静注法)。腹水中の蛋白の再利用により、アルブミンの需要を節減できるメリットがあります。
穿刺排液でコントロールできない難治性腹水には経頸静脈肝内門脈大循環シャント(TIPS)あるいは腹腔・頸静脈シャント(PVシャント)を行うことがあります。TIPSは頸静脈からカテーテルを挿入し、肝臓の中で門脈まで刺し進め、圧の高くなった門脈の血液を圧の低い肝静脈に流すシャント)を作る手技で、門脈圧が急に下がることから欧米では難治性腹水例の56~92%で劇的な効果を示すとされています。しかし、肝性脳症が起こりやすく、肝不全や心不全が進むおそれもあり、肝硬変が進行して肝臓が小さくなった萎縮肝では手技が困難なことから保険診療下で行うことはできません。
PVシャントは復水の溜まった腹腔と頸静脈の間に逆流防止弁を取り付けたカテーテルを留置し、自動的に腹水を頸静脈に注入するもので、腹水が軽減するとともに、腎機能や利尿薬に対する反応性が改善します。肝機能が比較的よい例や肝性脳症、消化管出血を伴わない例では効果的ですが、出血傾向、腹膜炎、敗血症、心不全などの合併症が高頻度に発現し、シャント閉塞が起こりやすいという問題があります。約半数で難治性腹水が改善し、退院できるというメリットは大きいですが、生命期間を延長するものではありません。
現在、進行した難治性腹水例では肝移植が唯一の根治療法といえるでしょう。

肝硬変腹水の診断と治療

Q9 肝性脳症はどのように診断し、治療するのですか?

肝性脳症の診断
肝性脳症とは、肝臓の働きが低下して本来脳には届かないような物質が脳に入り込むことにより脳神経機能が低下してさまざまな意識障害が出ることを指します。肝性脳症は、見た目ではほとんどわからない程度の肝性脳症から昏睡状態にいたるまでさまざまな程度の意識障害を起こします。認知能や判断能などの障害が起こります。肝臓の働き、とりわけ物質代謝の極端な低下によることが多く、急性肝障害によるものと慢性肝障害によるものとに大別します。慢性肝障害による肝性脳症のほとんどは肝硬変によるものです。

肝性脳症の治療
食事に含まれる蛋白質は腸内細菌によって分解され、その過程でアンモニアが産生されます。このアンモニアは腸管から吸収される他の栄養素と同じように門脈に入り肝臓に運ばれます。肝臓がアンモニアを代謝・分解して全身への影響はないように処理しますが、肝硬変のように肝細胞が障害を受けて代謝能が落ちている場合や、肝臓を迂回して直接アンモニアが全身循環に戻るシャントができてしまった場合、アンモニアの血中濃度は上昇してしまいます。その他の有毒物質も同じように本来分解されるはずのものが肝硬変になると処理されずに脳に届くため、いろいろな有毒物質により肝性脳症が引き起こされます。その診断の指標として用いられるのは血漿アンモニア値です。実際の脳症の症状と血漿アンモニア値には時間的なずれが生じることがありますが、臨床的にはアンモニア値が高くなり過ぎないように、アンモニア値を目安にして薬物療法や食事療法を行います。昏睡のときは蛋白質の負荷をなくすため特殊なアミノ酸の点滴を行います。また腸内細菌からのアンモニア産生を抑制する二糖類や抗菌薬を服用します。脱水や、感染症、消化管出血、便秘などにより肝性脳症が増悪することもあり、肝硬変患者さんではこのような誘因をできるだけ避けるように注意します。食事療法としては昏睡時以外には極端な蛋白質制限をしないようにします。長期の蛋白質制限食によって筋肉量が低下すると、肝硬変患者さんの長期成績に悪影響を与えることがわかってきたためです。

Q10 肝硬変の予後はどのように判断して、対処するのですか?

予後の判断
肝硬変の三大死因は、肝機能の低下(肝不全)、食道・胃静脈瘤の破裂、肝がんです。これらの状態が予後と大きくかかわります。さらに感染症も重大な予後悪化因子となります。肝硬変が進行すると肝機能が低下して黄疸、腹水、肝性脳症などの症状がみられるようになり、免疫能の低下も加わって感染症を招きやすくなります。一般に、肝機能を評価することで、肝硬変の進行の程度が判断でき、合併症の発生リスクや予後などを予想することができます。肝機能を評価する指標にChild-Pugh分類があり、ABCの3段階で評価します。グレードCは肝機能がもっともわるく予後不良です。さらに腎機能の評価を加味したMELDスコアは肝移植前の予後の判断に用いられます。

対処法

肝不全に対する治療

  • 肝不全の進行を防ぐには、肝障害の原因除去がもっとも大切です。B型・C型肝炎ウイルスには抗ウイルス療法を(Q4・Q5参照)、アルコール性肝硬変では禁酒を行います(Q6参照)。

肝硬変による合併症に対する治療

  • 腹水:安静と塩分制限が基本ですが、改善がなければ利尿薬による薬物治療を行います。低アルブミン血症がある場合は、アルブミン製剤の点滴投与を行うこともあります。薬物治療が効かない場合は、腹水穿刺排液、腹水濾過濃縮再静注法、腹腔・頸静脈シャント(PVシャント)、経頸静脈肝内門脈大循環シャント(TIPS)などが検討されます(Q8参照)。
  • 肝性脳症:主な誘因として、消化管出血、蛋白の過剰摂取、便秘、感染症、鎮痛薬や利尿薬の使用などがあり、誘因を除くことが大切です。脳症発症時には肝不全用分岐鎖アミノ酸製剤の点滴投与が行われ、改善後は肝不全用経口栄養剤の内服や合成二糖類や難吸収性抗菌薬の内服治療などが行われます(Q9参照)。
  • 栄養療法:栄養状態の悪化や骨格筋筋肉量の低下(サルコペニア)は予後と関連します。食事療法や分岐鎖アミノ酸製剤の内服により、良好な栄養状態を保つことが大切です(Q3参照)。
    食道・胃静脈瘤の治療(Q7参照)
  • 肝硬変では門脈圧が上昇し、肝臓以外のところに血液が流れ、食道・胃静脈瘤が形成されます。静脈瘤は徐々に増大し、最終的に破裂して大量出血を起こすので、破裂前に見つけて、予防的に内視鏡治療を行うことが大切です。
  • 血小板数の低下は出血傾向を引き起こし、日常生活や治療上の妨げとなるため、部分的脾動脈塞栓術や脾臓摘出術、エルトロンボパグの内服により血小板数を増やす治療を行うことがあります。

肝がんに対する治療

  • 肝がんは、がんの増大や他臓器への転移により、肝機能および全身状態を悪化させるため、予後を悪化させます。定期的な腹部超音波検査で肝がんを早期に発見し、治療することが大切です。
  • 主な治療には、ラジオ波焼灼療法、カテーテルを用いて抗がん薬や塞栓物質を注入する肝動脈化学塞栓療法、カテーテルを体内に埋め込み持続的に抗がん薬を注入する動注化学療法、分子標的治療薬のソラフェニブの内服治療などがあり、がんの状態に応じて治療法が選択されます。

肝不全や肝がんに対する肝移植

  • 内科的治療では改善が見込めない、肝不全が進行した肝硬変患者さんが肝移植の対象となります。肝がんを合併している場合は、一定の条件を満たす必要があります。
  • 肝移植には、生体肝移植と脳死肝移植があります。日本では2015年末の時点で生体肝移植は約8,000人が受け、脳死肝移植は約300人が受けています。2010年の臓器移植法の改正後より脳死肝移植の実施数は増加していますが、日本ではドナー(肝臓の提供者)が不足しているので、肝移植を希望しても必ず受けられるわけではありません。肝硬変患者さんに対する肝移植後の予後は、5年生存率は約75%、10年生存率は約66%と報告されています。
    また、肝がん患者さんに対する肝移植後の予後は、5年生存率は約70%、10年生存率は61%と報告されています。

Child-Pugh分類


Child-Pugh分類のグレード

MELDスコア


MELDスコア = 9.57×loge(血清クレアチニン)+3.78 × loge(血清ビリルビン)+ 11.2×loge(プロトロンビン時間 INR)+6.43

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