一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.24-1

FOCUS 「奈良宣言2023」について

日頃の血液検査の数値を気にしてみましょう

みなさんは検診の結果や、かかりつけ医の先生が行った血液検査の結果を詳しく見られたことがあるでしょうか? 実は、通常行っている血液検査には必ず肝臓の働きを表すものが含まれています。「奈良宣言2023」は、この中でALTという指標に注目していただき、ALTが30U/Lを超えている場合には一度かかりつけ医の先生に相談していただくことを目指した提言です。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれています。再生能力が非常に高いため、少々の負担では自覚症状はなく、知らない間に肝硬変や肝臓がんに進行してしまうケースも多いため、早期に病気を拾い上げて必要であれば専門医による治療へ結びつけることがとても大切です。

ALTは肝臓の細胞内にある酵素で、肝細胞が傷つくと血管内に移行して数値が上昇します。肝臓の機能を表す指標にはASTやγ-GTPなども知られていますが、ALTが最も肝臓に特異度が高いため、この数値を見ることによって肝臓に炎症が起こっているかどうか見分けることができます。

これまで、肝臓病というと「B型肝炎」や「C型肝炎」といった肝炎ウイルスによるものが多くを占めていました。ところが、これらのウイルス性肝炎は治療法の進歩によって以前よりも減っています。代わりに、肥満を伴う生活習慣病を基礎疾患とする脂肪肝や、アルコールによる肝障害が増えています。特にコロナ禍で多くの方が自宅に滞在している時間が長くなった、いわゆるステイホームの影響で食べ過ぎや飲み過ぎが増えており、これまで以上に肝機能異常を有する方の割合が高くなっています。脂肪肝の原因は肥満と糖尿病が6割以上であることがわかっており、その中でも糖尿病で脂肪肝を合併している場合は8割が将来的に肝硬変や肝臓がんへ進むといわれている「悪玉脂肪肝」になるリスクが高いとされています。「肝炎ウイルスは関係ない」と思っていた方も、実は生活習慣が原因でALTが30を超えている可能性がありますので検診結果などを見直してください。

もしALTが30を超えていた場合は、かかりつけ医の先生にご相談ください。かかりつけ医の先生にはフローチャートに沿って肝機能障害の原因を調べていただき、必要に応じて消化器専門医へ紹介していただくようになっています。今回「奈良宣言2023」を発出した日本肝臓学会では、一般の方向けに特設サイトを設けています。ご興味のある方はインターネットで「日本肝臓学会奈良宣言」と検索してください。


奈良県立医科大学消化器内科学講座 教授
吉治 仁志

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